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連れ合いが発した一言に最も孤独な男は救われた


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山田THX将治(天狼院「超」ライティング・ゼミ)
イラスト:Yukinko
 
 
「私がお答えしても宜しいでしょうか」
質問の答えに窮していた宇宙飛行士に代わって、横に同席していた妻は、マイクを取ってそう言った。一般女性の発言に未だ慣れていなかった時代、日本のマスコミと視聴者は、一瞬、何事かと思った。
1969年、当時10歳だった私は、その後に発せられた一言の余りの恰好良さに触発され、半世紀以上経った現在でもその光景を鮮明に覚えている。
 
1969年7月16日、アメリカの宇宙船アポロ11号は、人類の夢と希望を担ってヒューストンのケネディ宇宙基地を飛び立った。人類初となる、月面着陸という壮大なミッションが課せられていた。
その裏には、ジョン・F・ケネディ大統領が生前の演説で語っていた、
「1970年代前に、アメリカは人類を月に立たせる」
を具現化した形だったからだ。
背景には、宇宙計画で冷戦の相手国であったソビエト連邦に遅れを取っていたアメリカの威信を掛けた計画だったことが伺われる。
その興奮は日本にも伝わり、連日テレビの報道に私は釘付けとなった。もっとも、報道といっても半世紀以上前のことだ。現代の様に中継映像が有る訳では無く、ロケットが飛び立つ映像と『想像図』と注釈が付いたイラストを、日本の科学者が解説するだけだった。
今考えれば、どうしてあそこまで具体的な映像も無い番組を、連日観ていたのかと思ってしまう。それは多分、小学生の期待がそうさせていたのだろう。
 
アポロ11号は、計画通り月の周回軌道に到達した。その後、オルドリン操縦士とアームストロング船長が乗り込んだ月面着陸船イーグル(アメリカの国鳥から付けられた)は、母船アポロから切り離され“静かな海”と名付けられた地点に無事着陸した。
そして7月20日、ニール・アームストロング船長は、人類初の一歩を月面に記した。
この大ニュースは、テレビ・ラジオの速報に加え、新聞各紙は号外を作って報道した。
日本のマスメディアは、月面の白黒写真で埋め尽くされた。アポロから送られてくる映像は、未だ白黒しか無かった時代だ。
小学5年生だった私は、号外新聞をもらいに、近くの駅まで自転車を飛ばしたものだった。
 
3人の宇宙飛行士、アポロ船長ニール・アームストロング、宇宙船操縦士マイケル・コリンズ、月着陸船操縦士バズ・オルドリンは、世界中のヒーローとなった。
地球に帰還した3人は、世界中を訪問し、大歓迎を受けた。
1969年11月、妻を同伴した3人の宇宙飛行士は、アメリカ空軍機で日本にもやって来た。来日の目的は、月でのミッションを講演することと、アームストロング船長が採集した月の石を日本に届けることだった。
月の石は、開催が翌年に迫っていた万国博覧会(大阪)に宇宙船と共に展示され、アメリカのパビリオンの目玉と為る予定だった。
日本は、国を挙げて3人を歓待し、政府は文化勲章を授与した。
 
来日の翌日、ホテルオークラで共同記者会見が開かれた。
中央にアームストロング船長、正面右にオルドリン飛行士、左にコリンズ飛行士の座り順だった。
いつもと違っていたのは、3人の宇宙飛行士の左隣にそれぞれの妻が同席していたことだった。欧米では、公式の場に連れ合いを同席させることが一般的だったが、当時の日本では見慣れない光景だった。
狭い宇宙船に乗り込む為か、3人の宇宙飛行士はアメリカ人にしてはやや小柄な印象だった。
その一方、3人の妻達は、ハリウッドの女優かと思う様な美人だった。
 
現代でもそうだが、日本のマスメディアは時として底意地の悪い質問をする。
宇宙飛行士の記者会見は、順調に進んでいるかに見えた。ところが、或る新聞記者が発した質問で、場の空気は一変した。
それは、
「マイケル・コリンズさんに質問します。貴方は3人の中でただ一人、月面に立てなかったのですが、残念ではありませんか」
と、いう陰険な質問だった。
子供だった私でも、
「何で、他人の残念を再燃させるんだ」
と、不躾な質問に嫌な気持になった。
マイケル・コリンズ飛行士は、どう答えてよいものかと困惑している様だった。
それはそうだろう。誰だって人類初の月面歩行はしてみたいものだ。
すると突然、コリンズ氏の隣に座って居た夫人が手を挙げマイクを受け取った。そして、堂々とした態度で、
「それは、私の夫・マイケルが、最も優秀な操縦士であることの証明です」
と、言ってのけた。
 
テレビの前に居た子供の私も、溜飲が下がる思いがした。
夫人の発言の趣旨はこうだ。
月面着陸は、人類にとって誰も体験したことが無い未知のミッションだ。なにが起こるかは、やってみなければまるで分らない。想像を絶する環境や、得体の知れない生物や細菌類と出くわす危険だってある。
ましてや、着陸船が無事着陸しても、再び月面を離れることが出来る保証もない。月面から離れたとしても、母船と再びドッキング出来ない可能性だって0とは言い切れない。
未知の空間に“絶対”等は無いのだ。
表には出ないマイケル・コリンズ飛行士に課せられたミッションの一つに、不測の事態も想定されていた。
それは、もし、月面着陸に失敗したり、月面からの帰還が不能となった場合、一人で母船アポロ11号を操縦し、データだけでも持ち帰るミッションだ。事故の報告だってしなければならない。結構、キツイ任務だ。
そうなると、帰路の孤独に耐え、3人でこなしていた仕事を、たった一人でまかないながら地球に帰還することになる。それには、3人のクルーの中で最も卓越した操縦技量が要求されるのだ。
夫人は、マイケル・コリンズ飛行士の技量を誇っていたのだ。
 
横に居た、マイケル・コリンズ飛行士当人も、どこか安堵の表情だった。
私は夫人の発言に、思わず『恰好良い』と声を上げた。
 
今年(2021年)4月28日、マイケル・コリンズ元・空軍少将の訃報が流れた。
半世紀前、一人で母船アポロ11号を守り、記者会見でも中傷に似た質問に、同席していた妻と共に堂々と立ち向かったヒーローだ。
 
マイケル・コリンズ氏には、彼だけの称号が有る。
それは『歴史上最も孤独な男(the loneliest man in history)』というものだ。
このたびの訃報に際し、外電には『最初の人間“アダム”以来、彼程の孤独を味わった者はいない』と、称賛するものが有った。
 
私はマイケル・コリンズ氏の訃報を知って、半世紀前、記者会見の光景を想い出していた。
 
 
 
 
***

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2021-06-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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