離婚話から始まる、あなたと誰かをつなぐゲーム「It Takes Two」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ebikawa(ライティング・ゼミ日曜コース)
「ローズの歯医者の予約、忘れたの? あなたっていつもそう」
「てっきり君が明日行くのかと……」
「明日は出勤って言ってるでしょ!」
「土曜日なのに? このところ毎週休日出勤してるじゃないか!」
数多くのゲーム評価サイトで軒並み高得点をたたき出している、最高のゲーム「It Takes Two」は、こんな離婚寸前の夫婦によるつらい口喧嘩から始まる。
主人公は、郊外の一軒家に住む、メイとコーディの夫婦だ。妻のメイはエンジニアとして、夫のコーディは主夫として、多忙な日々を過ごしている。ふたりは顔を合わせればすぐ喧嘩になり、もう一触即発の状態だ。
幼い一人娘のローズは、そんな両親の姿に胸を痛めている。ローズは両親を模した10センチほどの人形を作って「ずっと仲良くしようね」と仲が良かったころの両親をおままごとで再現し、「Book of Love」という本を読んで愛が復活する方法を懸命に探している。
そして、ついに耐えかねたメイとコーディが離婚を決意すると、ローズは人形の上に涙をこぼし、それが奇跡を起こす。メイとコーディの魂が、ローズが作った人形の中に閉じ込められてしまうのだ。慌てふためく夫婦の前に現れたのは、手足が生えた「Book of Love」。ラテン系のノリで愛を語ってくる、どうも胡散臭いその本に導かれ、ふたりが元の姿に戻るための旅が始まる。
「It Takes Two」という、英語そのままのタイトルは面白さが少し伝わりにくいかもしれない。シンプルで格好いい日本語にするのは難しいが、意味合いは「それをするのにはふたり必要」といったところだ。
「ふたり必要」。ゲームの中では主役の夫婦がふたりがかりでこなしていかなければいけない数々のギミックを指しているが、これは現実にも投影されていて、プレイヤーも必ず「ふたり必要」となる。ふたりいれば、同じ場所にいてもオンラインでもプレイはできるが、ひとりではゲームをスタートすることすらできない。プレイヤーはひとりがメイ、もうひとりがコーディを操作することになる。
「It Takes Two」は、徹底的に「ふたりでやること」にこだわりぬいたゲームだ。何をするにも、ふたりで考え、情報を共有し、掛け声をかけ、息を合わせる必要がある。
また、ゲーム内の夫婦ふたりが仲良くなるように冒険を続けるだけでなく、プレイヤーであるふたりに対しても「この冒険をふたりで存分に楽しんで、ずっと仲良くしてほしい」という制作側からのあたたかいメッセージが感じられるところが、とても特別な作品だ。
私は、遠くに引っ越してしばらく会えていない友達と、オンラインでこのゲームをプレイした。(メイとコーディは夫婦という関係だが、このゲームは友達、恋人、家族、どんな関係の相手とでも楽しめるようになっている。)
緊急事態宣言などで人との関係が希薄になりがちな中、このゲームであらためて私は「誰かと一緒にいることの楽しさ」を思い出すことができた。
息を合わせた協力プレイが面白いのはもちろんだが、ゲームの世界そのものが映画トイ・ストーリーの中に入り込んだように緻密で美しいので、うろうろしているだけで一緒に旅をしているように感じられるのだ。
「こんなところに入れるドアがある!」
「ねえ、見て、あの壁に描いてある絵…」
などと、発見を互いに報告し合うだけで楽しめる。そういえば誰かと行く旅行ってこんな感じだったなあ、と最近できていないことを思い出す場面もあった。
また、このゲームの中には、途中にミニゲームが無数に仕込まれており、その気になれば、いくらでも寄り道することが可能だ。
たとえば、フィールドを進んでいると、チェス盤が置いてあり、調べてみるとそこでは実際にチェスがプレイできる。ゲームのストーリーには全く関係ないのに、だ。そういった、時間を忘れて遊べる仕組みが、ゲーム内のあちこちに無数に隠されている。
チェス以外にも、椅子取りゲーム、レーシングゲーム、シューティング、音ゲー、もぐらたたき、他にもたくさん。この1本のゲームの中で、この世のありとあらゆる遊びができるといっても過言ではない。「12時間でクリアした」というレビューも見たが、途中でいろいろ寄り道していた私と友達は、クリアまでに17時間かかった。それでもまだまだ、あの世界の中で遊び続けたい気持ちだ。
さて、人形になってしまったメイとコーディは、どうすれば元の姿に戻れるのだろうか。そしてもう離婚を決意していたふたりだが、数多くの不思議な冒険を経て、どういう結論を下すのだろうか。山あり谷ありのストーリーも魅力的なので、ぜひ、自分の力でメイとコーディを導いて、不思議な世界を旅して、結末を見届けてほしい。
しかし「自分の力で」とは言っても、あなただけではできない。あなたと他の誰か、必ずふたりの力が必要となる。
自由に会うのが難しいこのご時世だからこそ、最近会えていなかった「誰か」、一緒に旅に出たい「誰か」に声をかけて、オンラインで特別な冒険に出てみてはどうだろか。
***
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