メディアグランプリ

てりやきバーガーにセカンドチャンスはあったのか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:河瀬佳代子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
ハンバーガーショップにテイクアウトの商品を取りに行ってくれた子どもが帰ってきた。
さあ、これからお待ちかねの昼ごはんだ。
買ってきてくれた袋を受け取って、早速中身を見る。
 
……あれ? お願いしたのがない。
 
「……これ、なんか違うんだけど」
 
せっかく買ってきてもらったけど、お願いしたのとは違う商品が入っていた。
てりやきバーガーなんて頼んでないよ?
 
「何?」
「あのさ、お願いしたのってベーコンチーズバーガーなんだけど」
「そういうクーポンは、なかったよ?」
「いや、私のスマホにはあったぞ?」
「俺のスマホにはベーコンチーズバーガーのクーポンがなかったから、よくわかんないけど適当に買ってきた」
「えー、そういう時は聞いてよ。そもそも同じ店なのにiPhoneとAndroidでクーポンの種類が違うとかあるのか? ちょっと見せて」
 
私は子どものスマートフォンを最後までスクロールした。私はiPhone、子どもはAndroidのスマートフォンを使っているので、機種によって違うクーポンが配信されているなんてことがあるんだろうか? 確認してみた。
 
……あれ? ない。
ベーコンチーズバーガーのクーポンはAndroidにはなかった。iPhoneにだけあった。それじゃ、しょうがないな。しかし、よりによって買ってきてくれたのがてりやきバーガーとは。自分のと同じチーズバーガー買ってくれてもよかったんだけどなあ。
 
「まあクーポンなかったんなら仕方がないけど、私、実はてりやきバーガーってあんまり好きじゃないんだよね」
「そうなんだ。なんで?」
「大昔、学生の時に、別のハンバーガーショップでアルバイトをしていて、その頃ってどのバーガーチェーンも新商品でてりやきバーガーを発売するのが流行ってたんだよね。うちの店もその流行に乗って新発売になった。その時にクルーも『新商品なんでみんな味を覚えるように』ってことで全員試食したの。その時のてりやきバーガーの味が合わなかったんだよ」
「へえ。なんで合わなかったの?」
「てりやきのソースが甘すぎたのよ。甘ったるくて」
 
そういえばそんなこともあったなあ。話しながら懐かしく思い出していた。
ハンバーガーショップに入るときは大抵チーズバーガーを買う。だから初めててりやきバーガーを食べた時、頭の中に描いていたバーガーのイメージがガラガラと崩れ落ちてしまったのを覚えている。
 
なんでこんなに「てりやきソース」なるものが甘いの?
いや、甘いだけというよりは、むしろ甘ったるい寄りの甘辛い味だ。甘いんだか塩系なのかはっきりしようよ! 自分で作るハンバーグだって、こんなにソース甘くしない! などとツッコミながら、てりやきバーガーを試食したあの日。それ以来、私の中ではてりやきバーガーは「買わないバーガー」になった。たぶん生涯口にしないであろうとも思っていた。
 
それなのに。それなのに。今、私の目の前にはてりやきバーガーがあるではないか。
これ、どうしよう。
食べないのももったいないし。美味しくないかもしれないけど、もうこの先食べることもないかもしれないから食べてみるか。私は間違って我が家に買われてしまった哀れなてりやきバーガーを、数十年ぶりに一口かじってみた。
 
……。
 
……。
 
えっ……と……。
 
……あれ、意外と、美味しい?
 
確かに、甘めに傾いているてりやきソースではあるが、しょうががピリッと効いていてアクセントになっている。それが旨味を醸し出している。
 
「ねえ、これ意外とイケてるよ?」
「そりゃそうだよ。てりやきバーガーが誕生して数十年経っていて、まだメニューにあるんだから、各社それなりに味を改良しているに決まってるよ。進化してるんだよ」
 
そうだよなあ。子どもの解説を聞きながらも、いつまでも精神を進化せずに頑なに思い込んでいたのは他ならぬ自分であることをしみじみ感じる。
 
甘さ控えめでしょうががアクセント、そしてよく味わうとレモン風味のマヨネーズソースもとてもマッチしている。なるほど、ただただ甘ったるいだけのてりやきバーガーはもう違うんだね。常に顧客好みに寄せている、ロングセラーの人気者に成長していた。
 
「〜〜は、こうである」
「〜〜に違いない!」
いったん刷り込まれた先入観はなかなか消えない。だが、いつの間にか先入観の対象が変化しているとはあまり思わないのではないか。
 
先入観ほど自分を固まらせるものもないなと苦笑いしながら、突然降りかかったセカンドチャンスを見事にモノにしたてりやきバーガーを完食している自分にも再度苦笑いする。頭が老化しないように、これからも時々てりやきバーガーの味を確かめてみてもいいかな、などと思ってみたりするのだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-06-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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