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何度も挫折した「戦争と平和」をどうにか無理やり読む方法


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記事:ebikawa(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
トルストイ著「戦争と平和」(新潮文庫で全4巻)が読めていない。
これは私の人生における課題である。
 
昔から読みたいとは思っており、これまでに何度か挑戦しているものの、そのたびに冒頭の50ページほどで挫折しているのだ。
読む機会を増やそうとむやみに持ち歩いたこともあったのだが、文庫本が薄汚れていくばかりで、いっこうに最初の社交パーティーの場面から抜け出せたことがなかった。しおり代わりにはさんであったレシートを見たら、日付が2008年でギョッとした。13年間、いったい何度挫折を繰り返しているのか。
 
ロシア文学は登場人物の呼称がよく変わるため、一般的に読みにくいという傾向はある。たとえば、「イヴァン・フョードロウィチ」と「ワーニャ」や、「ピエール」と「ピョートル」が、同一人物であることがなんの説明もないまま進む。完全に初見殺しである。
ただ、私は既にドストエフスキー作品によって十分な訓練を受けているので、呼称のルールは概ね把握している。また、同じくトルストイ著である「アンナ・カレーニナ」も「復活」も読めたので、特にトルストイが苦手というわけでもない。
 
それでもなぜ「戦争と平和」が読めないかというと、とにかく登場人物が多いのだ。
ネットで調べると、「戦争と平和」の登場人物は合計559人にのぼるという。もはや、大きめのライブハウスを埋めることが可能な人数だ。渋谷O-WESTのフロアを埋め尽くすほどの熱狂的19世紀ロシア人たち……想像するだに手ごわい。
 
そして、特に冒頭の社交パーティーでは一度に多くの人が登場し、色々なうわさ話や思惑が飛び交う。いったい誰に注目して話を追ったらいいのかがわかりにくい。「アンナ・カレーニナ」ならとりあえずアンナに注目しておけば間違いないでしょ、と予測がつくのだが、中心人物がどのあたりになるのか掴めないまま、うじゃうじゃと人だけが増え、物語が進んでいく。
 
それでも、しっかり集中して読み進めれば突破できるはずと思うのだが、最近はスマホだゲームだと何かと他の誘惑が多くて、腰を据えて小説を読む機会を逸し続けている。
このままでは、なんとか特別な機会を作らないと読めない気がする。いっそ「戦争と平和」を読み切るまでどこかに監禁される脱出ゲームとかないのだろうか……。
 
そんな言い訳ばかりをしてずっと何も行動できていなかったのだが、昨年、チャンスが訪れた。
 
昨年、転職のタイミングで自由な時間が取れた私は、この機に「長い時間をかけて普通列車に乗り続けてみたい」という願望と、「訪れたことのない都道府県を少しずつ制覇したい」という願望を、JRの普通・快速列車が連続3日間乗り放題になる「秋の乗り放題パス」を使って、まとめて叶えたいと計画していた。しかもGoToキャンペーンもあったので、宿も安い。
 
行先としては、訪れたことのない岐阜・福井・滋賀に行こうとしていたが、調べてみると、この3県は隣り合っていてもJRでまわるとどうも効率が悪く、やたらと時間がかかってしまう。
そこで考えた結果、移動に時間がかかるというのなら、いっそ「道中ずっと『戦争と平和』を読む」ことを自分に課すのはどうだろう、と追加の願望を組み込むこと思いついた。これなら、列車に乗る時間が長ければ長いほど良いのだ。
 
ひたすら本を読みながら普通列車に乗り続けるという地味な旅なので、あまり他の人から見たら羨ましくはないだろうが、私からすればやりたかったこと3つを同時に満たす欲張りセットを発明して、ウキウキであった。
そして、すべて読み切れるとは思えないが、「戦争と平和」全4巻をリュックに詰めて出発したのである。
 
出発は朝4:50の始発。東京都内から、岐阜県の高山まで特急や新幹線を使わずに行くと10時間半かかる。
最初は乗り換えでばたばたして、なかなか本が開けなかったが、東京駅からの東海道線では落ち着いて座って読みはじめることができた。
多すぎる登場人物の対策としては、出てきた人の名前や特徴、関係性を片っぱしからスマホのメモに記録して整理することにした。そうするうちに、だんだん調子が出てきて、これまでたどり着かなかった新しい場面まで読み進められた。苦節13年、やっと社交パーティーから抜けられたのである。
 
その喜びのまましばらく順調に読み進めていたが、出発から6、7時間もたつとさすがに集中力が散漫になってきて、外を眺めてボーっとする時間も増えた。特に、岐阜から高山へ向かう高山本線は緑に囲まれていて、景色が美しいのでそちらに注意がいってしまう。
また、座り続けてさすがに腰が痛くなってきた。かといって、立ったまま読むのも落ち着かない。結果、高山本線の車両には私以外誰もいなかったので、立ったり座ったり、不審な動きを繰り返してしまった。
 
そうして、集中力や腰の問題で途中に休憩を挟みつつも、途中で投げ出さずに、高山に着くまで読み続けることができた。小説自体もどんどん面白くなって、続きが気になってくる。完全に、自分の中でエンジンがかかったのを感じた。
 
2日目以降も、列車に乗るたびに本を開いた。高山から、福井県の敦賀まで7時間。敦賀を観光した後、その日のうちに滋賀県の宿までさらに1時間。3日目は宿から比叡山まで30分。比叡山を観光し、琵琶湖を眺めた後、また9時間半かけて東京に戻ってきた。
 
3日間で合計28時間も電車に乗り続け、なんとか「戦争と平和」の2巻の最後まで読み終えることができた。3巻に着手する時間の余裕もあったのだが、「キリがいいし、ここまで順調に読めたから、残りは今日頑張らなくても帰ってから読めるだろう」と、ほどよい疲労と達成感から、そのときは満足してしまったのである。
 
さて、あとはもう勢いのままに残り2冊を読み進めるだけだったのだが……そう上手くはいかないものである。
旅の翌週からすぐに新しい仕事を始めたこともあり、なんだかんだと忙しいうちに時が過ぎ、なんと、現在、続きに着手しないまま半年以上が経ってしまっている。
一度エンジンがかかったとはいえ、やはり忙しい日常生活ではなかなか手が出しにくいのだ。もちろん、内容は徐々に忘れてきてしまっている。これは非常によろしくない流れだ。このままでは、思い出すためにまた社交パーティー部分から読み返すという、大変マヌケなことになってしまう。
 
普通列車の旅は、時間はかかるし腰も痛くなるが、普段なかなか読めない本を集中して読むには効果的だった。なので、どうにかこの夏にでも、再び「続・普通列車で行く『戦争と平和』読破ツアー(完結編)」を実行したいと思っている。今度こそ、13年間の心残りのカタをつけたい。
ただ、残りの「訪れたことのない都道府県」は山形と和歌山と鹿児島なので、どう普通列車でまわればいいのかは、非常に悩ましいところである。
 
 
 
 
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2021-06-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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