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「褒められ好きこそものの上手なれ」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊藤朱子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
父から初心者向けの俳句の会に参加しようと思っていると聞いた時、私はすぐさま否定的な言葉を父に向けた。
「俳句なんて、全然向いてないじゃない」
父は本を読んでも「面白かった」とたった一言、そんな感想しか言わないような人だ。俳句のような、何かを感じ、言葉で表現するものには向いていないと思った。
しかし、私が「向いていない」と言っても、父は笑いながら「そうか?」と言い、気にする様子もない。
 
そもそも父は、大学では理系学部で学び、国語や英語が苦手だと話していた。そして、趣味は陶芸など、何かを手で作り出すことに興味を持って取り組んでいる。
俳句といえば、我が家では母の趣味で、母はもうかれこれ30年以上、俳句を作っている。一時はかなりのめり込んでいて、夕食の後、一生懸命夜遅くまで俳句を作っている姿があった。
そんな母の姿を見ても全く興味を示さなかった父が、一体どういう風の吹き回しか。私には父が俳句を作る姿が想像できなかった。
 
それからしばらくして、父から驚くべき報告があった。
「このあいだ参加した俳句の会で特選をとったんだよ」
父がそう言っている横で、母がニヤニヤと笑っている。
「特選って何?」
特選が何を表しているのかわからない私は、二人を見ながら聞き返した。
「特選っていうのはね、先生がパパの句を一番いいって選んだということなのよ」
 
私は聞き返した。
「え? パパの句が一番いい句だったということなの?」
 
父が参加した俳句の会は、お題が決まっており、そのお題に基づいた句をあらかじめ三句作っていく。そして、作った句を一句ずつ紙に書き、提出する。誰が作った句かわからないように順番をバラバラにして、それを改めてそれぞれが紙に書き写し、それを見ながら他の人が作った句の中で良いと思うものを選び合う、というやり方だ。
 
父が作った三句のうちの一句が、俳句の会の主催者である先生が「最も良くできた句」ということで選ぶ「特選」になったということなのだ。
 
先日、俳句の会に参加しようかと思っていると聞いたばかりだ。もう、そんなに上達したのか、はたまた、まぐれか……。
 
「すごいね、そんな才能あったの? 参加して何回目?」
私は驚いてたずねる。
「初めて参加したんだよ」と、父は自慢げに言う。
それを聞いてさらに驚いている私を見て、母は、「添削したのよ」と笑いながら言った。
 
「添削って、ママが?」
「そうよ、パパの句を私が添削して、それを持って参加したのよ」
 
父は、初めて作った句を俳句歴の長い母に見せたのだ。母はそれを見て、そして父からその句で表現したいことを聞き、添削してあげたというのだ。
 
「だって、これ見てよ」
差し出された母のノートには添削前の父のオリジナルの句が書いてあった。そして、母が声に出して読んだ。それはちょっとおかしげな日本語で、日本語を習いたての外国人が話すような、そんな音とリズムだった。読んでいる母も笑いがこみ上げて我慢できない。読みながら笑いだす母を見て、私もおかしくなって大きな声で笑ってしまった。
 
そのおかしな言葉の句を、母はきちんとした日本語に直し、父の意図を汲んで整えた。
母が添削した句を声に出して読んでもらうと、それはさっき聞いたものとは全くの別物だった。父の句では現れていなかった情景が、そこにはあった。
 
出来上がった句は、母が作ったものなのではないか。もはや父の作ったものではない。
私が父にそう言うと、父は真面目な顔をして、「こういうことを詠みたい」という着想点はオリジナルであり、だから添削されても自分の句だ、と言い張った。
 
「その着想点を言葉に置き換えるのが俳句なのだから、着想点があっても言葉が出てこないなら俳句を詠んだって言わないよね」
私は、自分が俳句を作ったことがないのに、もっともらしい口ぶりで言い返した。
 
そんな私たちのやりとりを見て、母は楽しそうに笑っていた。そして父も、母に添削してもらって「特選」になったことに対して、引け目を感じることもなく、心の底から喜んでいるようだった。
 
父はまた次の俳句の会に向けて新しい句を作っている。そして、それをまた、母に添削してもらっている。
父は、母に一生懸命、自分の句で表現したかったことを話す。それを聞き、母は丁寧に父の句を読み解き、意図に合う言葉とその並びをアドバイスしている。
アドバイスを聞きながら、父は「そうそう、そういうことだな」と、さも自分が初めから分かっていたかのように、うなずき、母の添削を受け入れていた。
 
そのやりとりは何度も続き、父の句は一番初めの原型が分からないほど変わっていた。しかし、父の中では自分の着想点は変わっていないようだ。
 
初参加でいきなり「特選」になって、そのことが「次も上手に作らなければ」というプレッシャーにならないのだろうか。
父に訊ねると、そんなプレッシャーとは無縁のようだった。ただ、褒められたことが嬉しくて、次の参加も楽しみにしている様子である。
 
人間は、褒められた方が何をするにも楽しいに決まっている。父は褒められることに驚くほど貪欲で、そのために何度も母にアドバイスを求めていた。
 
「好きこそものの上手なれ」とはいうが、父は俳句を好きになる前に、俳句で褒められることに快感を覚えてしまったのではないだろうか。
今の父は、「褒められ好きこそものの上手なれ」というような、褒められることが好きで、その「好き」のために一生懸命努力をしている状態だ。
 
そして、二回目の俳句の会での結果は……。
また、「特選」だった。
 
二回目の「特選」という結果は、父の貪欲さの現れのよう思える。
初めて何かを習う時、どんな手段を使っても「褒められること」は、物事を早く上達させる一番の近道なのかもしれない。
 
「もう、添削するの、やめようかな」
結果を聞いた母は、ちょっと意地悪な笑みを浮かべて言った。
母の添削なしで父の句が「特選」になるには、まだまだ時間がかかるだろう。父は必死に母の機嫌をとりながら、添削をお願いするにちがいない。
 
少なくとも、「好きこそものの上手なれ」という気持ちに変わるまで、父はどんな手段を使っても、今はまだ褒められていたいはずだ。
 
 
 
 
***

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2021-06-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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