プロフェッショナルの掛け合わせ=ハイパーコンテンツ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:串間ひとみ(ライティング・ゼミ超通信コース)
とうとう終わってしまった。
6月16日のBlu-ray&DVD発売日に向けてか、およそ1週間前の6月10日終映という映画館が多い中、わが街の映画館は、17日終映だった。
以前原則土曜日が封切り日だった邦画が、金曜日公開が多くなった理由(つまり木曜日終映)は、映画配給会社である東宝・松竹の方針らしい。金曜の集客増を図るとともに、従業員の休日出勤を減らす「働き方改革」を進める狙いがあったのだとか。
「すでにBlu-ray&DVD発売されてるやん!」
と、ツッコミつつ、私はスクリーンで見れる最後の日に、1番後ろのど真ん中の席に、涙で失った水分を補給するためのお茶を携えてスタンバイしていた。もちろんハンカチは、あらかじめ握りしめてある。途中でカバンを探って、一瞬でも見逃すなどという、初歩的なミスはおかさない。準備万端。
昨年の10月16日の公開初日から、映画館に足を運んだ回数は両手指を全部使う数になった。通常版、4DX、IMAXを含めて10回。ネットの書き込みなどを見れば、さらなる猛者もいるのだが、同じ映画を10回も見に行くなんて以前の私には考えられない。じっと座っていられない質なのだ。
2021年6月13日現在で、興行収入が401億2718万6250円、累計動員数が2904万541人とのこと。
400億円がどんな数字かというと、日本の国家予算が100兆円超えているということなので、ざっと割ってみると1/2500倍、1億円で1万円札1メートル程らしいので、ざっと400メートル、一般的な陸上トラック1周分。高さにしたら、東京タワーよりも、エッフェル塔よりも高い。
総務省統計局のホームページによると、令和3年5月1日現在(概算値)で、日本の総人口 1億2536万人。総人口を観客動員数で割ると、4.3……人。4~5人に1人は見ているということになる。ただし、産まれたばかりの0歳児から、日本最高齢(世界の最高齢でもある)118歳の方まで、全員が見ているということはありえないので、私のように複数回見に行った人が大勢いるということだ。
さらに、6月16日に発売されたBlu-ray&DVDが、6月17日付オリコンデイリーBlu-ray/DVDランキングにて、限定版・通常版を合わせて累積売上枚数107万4,170枚となり、100万枚を突破したというのだ。いずれにしてもすごい数字だ。
じっと座っていることが苦手な私にとって、映画を見に行くという行為には、ちょっとした気合が必要だ。スタートしたら終わるまで、身動きを許さない。いや本当は、席を立ってはいけないということはないのだが、せっかく気合を入れて臨んだにもかかわらず、その間に見逃したところがあるというのは、もったいないと思ってしまうのだ。だから、映画前には必ずお手洗いに行き、できれば水分も控えめにというのが、私のルールだ。
しかしこの映画に関しては、そんなことは言っていられない。あまりにも泣いてしまうので、水分補給は必須だ。でないと、泣きすぎてマスクの中でちょっとした酸素不足になり、ゲホゲホっと咳き込んでしまう。そして回を重ねるごとに、微妙にその泣きポイントも違うところが、油断のならないところで、何回目かの時に、
「おやっ? いよいよ見過ぎて泣かなくなったか?」
と思ったのだが、なんてことはない。今まで泣かなかったところで、突然ぐっときて泣いてしまった。ラストシーンは、やっぱり無条件に泣いてしまう。10月に始まって8ヶ月、月に1回以上のペースで見続け、画面を見てセリフを言えるレベルだというのに、まだ新しい泣きポイント出てくるのだ。
以前、何度も見たからこそ、安心してその世界観に浸れることで、感動につながるというようなことを文章にしたが、他にも理由があった。
最終日の前日、家に届いたDVDを、わが家の28型テレビで鑑賞した。分かってはいたが、映像も音も、迫力が違い過ぎた! スクリーンに比べて、わが家のテレビはとても小さいのに、それでも映像の粗が目立つ。いやむしろ、大きい画面なのに、なぜあんなにも美しいのか? 音に至っては、もう同じ音源から作られたものとは思えないほど違う。音響機材によって、こんなにも音の違いがでることに驚くばかりだ。ちなみに映画で使われた音楽のCDも特典として付いていたが、映像がなくても音楽を聴いただけで、場面が浮かぶ。音楽の果たす役割の大きさを感じた。
DVDの特典映像の中で、映画に実際に使用された原画が紹介されていた。ある1カット6秒で308枚、別のシーン2秒6コマで152枚。1秒間で24コマ(24枚)あれば、アニメは動いているように見えるのに対し、動きが早いシーンだとその2倍も、3倍も必要になるのだと、辞書並みの1カットの原画の厚さに目を見張った。
同じく特典映像の中で、それぞれの声優さんたちが、役作りについてお話をされていた。当然インタビューのときは、ご自分の1番出しやすい声で話されているので、いかに映画の役作りで声を作ったり、場面に合わせて泣いたり叫んだりしているのがよく分かる。顔が見えている俳優さんや女優さんと違って、声だけで自分ではないキャラクターにあれだけの感情をのせられるのは、本当にすごいと思う。
そしてやっぱりストーリーの深さ。同じものを何度見ても、その日の気持ちや、立場、例えば母親として見るか、上司として見るか、後輩として見るかによって、いかようにもストーリーの受け取り方が変わる。始まったときには仕事をしていたから、何となくリーダー的なところ、仕事に対する責任感みたいなところを強く考えさせられた。退職した今、自分が日々やっていることに疑問を感じているときに見ると、自分を信じて行動しろ的なことが響いた。家族の誕生日近くだったときには、家族とのシーンでいつも以上に泣いた。特に意識して見ていたわけではないけれど、
「何で今日は、こんなところで泣いたんだ?」
と、帰り道にふり返ると、何かしら思い当たる節があった。どんな心持ちで見ても、その日の自分の気持ちにぐっとくるシーンが必ずある。この映画の打ち立てた数字のすごさは、よく当たる占い師のように、今の自分の気持ちを分かってくれているように感じられるところにも、その理由があるのではないかと思う。
じっとしていることが苦手な私を2時間座らせ、かつ10回も通わせた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、1つのスーパーコンテンツな漫画の上に、様々なモノづくりのプロフェッショナルの仕事が加わって作られたハイパーコンテンツだった。何度読んでも、その時に新しい発見がある名著のように、きっとこれからもDVDを見る度に、そのときの気持ちに添った新しい感動に出会うのだろう。
映画が終わってしまって残念だが、次の「遊郭編」の2021年テレビアニメ化が決定している。原作はすべて読んでいるが、紙媒体とは違った、いろいろなプロフェッショナルが加わって作られたアニメがどんなものになるのか、今からとても楽しみだ。
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