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メディアグランプリ

終了時刻未定の即興タイムは突然訪れる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:河瀬佳代子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「お客様にお知らせします。今入りました情報によりますと、現在渋谷駅付近の線路内に人が立ち入っております」
 
17時過ぎのホームに突然アナウンスが流れた。
 
「……ただいま安全確認のため、山手線外回り・内回りともに全線運転を見合わせております。ご利用のお客様、お急ぎのところ電車遅れまして大変申し訳ございません」
 
うわあ、これ当分動かなさそう。
新宿まで行きたいだけなのに。
1日働いて疲れてクタクタなんですけど。一刻も早く帰りたいんですけど。
 
「……現在振替輸送を実施しています。当駅から入場されたお客様は、もう一度自動改札機にタッチしていただきますと入場記録は取り消されます。お急ぎのお客様は振替輸送をご利用ください」
 
新宿に行きたいなら、並行して走っている埼京線に乗ればいいじゃない? と思うかもしれないけど、今ここで埼京線に乗り換えたところで同じ考えの人は山ほどいる。たぶん埼京線のホームは人であふれるはずなのだ。だからそれはしない。
そして振替輸送といっても、もしかしたら割と早めに運転再開するかもしれない。それと、今いるところからの振替輸送って言われても遠回りの路線しかない。これは待つ一択かな。
 
その時、ホームに電車が入ってきた。山手線は全線止まってはいるけど、駅と駅との途中にいる電車は最寄り駅まで行った方がいいから来てくれたのだろう。ドアが開いた。乗り込んで、運良く空いている座席を見つけた私はそこに座った。
 
(こういう時は、運転再開にどのくらいかかるか分からないから、席が空いていたら座っているに限るんだよね)
 
全線止まっているのだから、ドアは開くけど発車せずにそのままホームに留まるはずという予想は当たった。
 
「……繰り返し、ご利用のお客様にお知らせします。渋谷〜原宿間で人が線路に立ち入っているとのことで現在山手線は全線ストップしています。係員が立ち入った人のフォローに向かっています。運転再開にはもう少しかかる見通しです。新しい情報が入り次第お知らせします」
 
これは長引きそうだ。
あたりを見回すと、乗客は人それぞれのことをしている。スマートフォンで暇つぶしをしている人、目をつぶるところから「寝」の体制に既に移行する人、諦めて電車を降りる人。
 
「……もしもし、すみません、今、山手線が止まっていて、お迎えに間に合いそうにないんです。なので代わりに私の叔母が迎えに行きます。叔母の名前は……」
 
私の隣に座っている女性が電話で話し始めた。保育園のお迎えかな。毎日、間に合うように頑張って駆けつけるのに、今日は無理かもしれないから代理の人にお迎えを頼んでいるのだろう。大変だよね。心中お察しします。
 
そうこうしていても一向に電車は動かない。
動くまでに一体何分くらいかかるか分からないし。この時間がもったいない。
さて、突然できたこの空き時間をどう使おうか。
 
少し考えて、私はスマートフォンを取り出してGoogleドキュメントを開き、書いている途中の文章の続きを書き始めた。書こう書こうと思いつつもなかなか手付かずの文章や、書いてはいるけど苦戦している文章もある。そういうものを片付ける絶好のチャンスなのだ。
 
「……」
 
こういう時にスマートフォンで文字が書けることの幸せを感じる。これがもし鉛筆と原稿用紙だったならこうは行かない。電車内の1人分の座席スペースには「よっこらしょ」と紙を広げる余裕はないし、膝の上も平らじゃないから筆記用具が紙を破いてしまう。その点フリック入力ならなんの問題もなく指先で文書が作れる。今に生きていて本当によかったと思うことの1つである。
 
しかも座席を確保できているのもラッキーなことだった。その方が明らかに落ち着いて書けるからだ。私は頭に浮かんだ文章をスマートフォンで書きなぐっていった。いつ発車するかわからないから、とにかく浮かんだことを片っ端から書き留めていく。早く書かないと忘れちゃうよ! たぶん電車が動いて新宿駅で降り、雑踏に紛れ込んだらもう2度と書けない。それは今、この瞬間しか思い出せない言葉かもしれないのだ。
 
夢中で入力して、どのくらい経っただろうか。
数えてみたら、書いたものは700字ほどになっていた。
 
(即興って、やってみると案外できるものだよね)
 
その時はまとまらなかったとしても、いずれ何かのヒントになるような言葉だ。あとで推敲してみると意外と形になるものもある。
 
「……お客様にお伝えします。ただいま安全の確認ができましたので、発車いたします」
 
電車が止まってかれこれ30分くらいだろうか。ようやく動き出すことにホッとしている周囲の空気が見て取れる。
 
アクシデントは誰にだって起こる。苦虫を噛み潰したように面白くない気分で過ごすのもその人の自由だ。しかしもし今何か取り組んでいることがあるのなら、ちょっとした隙間時間に取り組めることを探すのも有意義な時間の使い方ではないだろうか。
 
終了時刻未定の即興タイムは突然訪れる。あまりありがたくはないけど、そんな時間の使い方を時々やってみるのもプラスになる。そんなことがいつあってもいいように、自分の中で準備しておくのも悪くはないな、と思うのだ。
 
 
 
 
***

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2021-06-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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