メディアグランプリ

若くてきれいなお母さんと動けるババア


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ロケットえんぴつ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
毎週土曜日の夜。世間では一家団らんで食卓を囲んでいるであろうこの時間。
私は食事をする家族を置いて、ひとりウキウキしながら出掛ける。
 
しかしその姿は気合いの入った化粧をするわけでもなく、おしゃれな服を着て、おしゃれなヒールを履いているわけでもない。
 
ノーメイク。黒のTシャツに、黒のレギンスと黒の短パン。そして巨大な荷物の中には、タオル、アミノ酸入りの水、ボクシンググローブ、拳や手首を守るバンテージ、すねを守るレガース。
 
そう私はキックボクシングジムへ行く。
 
 
なんでまたキックボクシング? と思うだろう。というか実際によく聞かれる。
私は試合に出ているわけでもない。ダイエットが目的でもない。エクササイズとして楽しんでいるわけでもない。ただただ、キックボクシングが楽しくて仕方がないのだ。
 
キックボクシングを始めたきっかけは、V6の岡田くんが出ている「SP」というドラマだ。
彼は武術や格闘技にも長けていることで有名だが、元々は、このドラマのためにさまざまな武術トレーニングを始めたそうだ。
その姿をみて、普通の女性ならば異性としてカッコイイと思うだろう。
しかし私はカッコイイの対象が違った。トレーニングをしたら、アイドルがここまで動けるようになるのか! と彼を師範として尊敬するようになった。
私も岡田師範みたいに動けるようになりたい! と、近所にあったキックボクシングジムの体験に申し込んだ。
 
 
体験の日、私の他にも友達同士で申し込んだ数名の女性陣がいた。
軽い運動の後、ジムの会長にミット(パンチやキックを受け受け止める道具)で、パンチを受けてもらった。このとき感じた感覚は、今でも鮮明に覚えている。
パンチンググローブとミットが当たった瞬間、衝撃が走った! 体の中に溜まっているストレスや不安、いろいろな感情が、ミットの衝撃とともに体の外に飛び散った感覚だった。
 
気持ち良すぎる!
 
翌日、入会の申し込みをした。
 
後日談になるが、私が体験を受けて帰った後、会長が他のインストラクターに「あの子は絶対入ってくるよ。目の輝きが全然ちがった」と言っていたらしい。結局、会長の言うとおり、その日に体験を受けて入会したのは私だけだった。
 
 
基本的な練習メニューは1時間。
シャドーボクシング(鏡を見ながら自分のフォームをチェック)に始まり、ミット打ち2ラウンド、強化トレーニング、筋トレ。
私はこのメニューの後に、さらに自主的に居残りして、インストラクターとマンツーマンで軽めの対戦をする。気づけば2、3時間練習しているときがある。
 
練習をしていれば、たまにケガもする。
青くはれ上がった足を見た病院の先生が、
「どうしたのこれ!?」
「ちょっとスポーツで痛めました……」
「何したらこんなになるの!?」
「(小声で)キックボクシングです……」
「笑」
という鉄板のやり取りを何度も経験している。
この年になって、こんな怪我して、いったい自分は何をしてるんだろうと反省はするが、楽しくてやめられないのだ。
 
キックボクシングに夢中になっていたら、いつの間にか9年の歳月が流れていた。
 
気づいた時には、休日のノーメイクが当たり前となり、髪の毛は白髪が少しずつ目立つようになっていた。あざだらけの足に、極めつけはキックボクシングで肥大化した筋肉が、私をゴリラへ成長させていた。
 
 
子どもの学習参観に行けば、周りのお母さんはおしゃれな服をきて、おしゃれなネイルに、きれいな髪型をしている。
そんなお母さんたちと自分を比べて、心配になってきた。
世間のお母さんは、『若くてきれいなお母さん』なのか。
子どものためには、もっと若いお母さんになった方がいいのだろうか。
夫のためには、いつまでも美しさに磨きをかけなければならないのだろうか。
 
私は、きれいになる努力を始めてみた。
普段しないアイメイクをしてみる。目が痛くてしょうがない。
友達にジェルネイルをしてもらう。3日で剥げてしまう。
ふんわりスカートをはいてみる。歩きづらくて、イライラする。
きっと、周りのお母さんが努力とも思わず、日常的にしていることが自分にはできない。
何ひとつ上手くいかない自分を嫌いになっていた。
 
 
そもそも何でこんなこと始めたんだっけ?
子どもにも夫にも『若くてきれいなお母さん』になって! と言われたわけじゃない。
むしろこのたくましい筋肉と力を頼りにしてくれている。
きれいになる努力は、自分が勝手に世間体や周りを気にして始めたことだ。
仮に私が『若くてきれいなお母さん』になれたとして、それは自分にとってどれだけ価値があることなんだろう。
「若くてきれいだね」と言われると、確かにうれしい。
でも私には「今日の蹴り、めちゃめちゃいいじゃないですか! ちゃんと腰が入ってる!」と言われたときの喜びは、それと比べ物にならないくらいうれしいのだ。
 
 
私の母親も決して『若くてきれいなお母さん』ではなかった。化粧もあまりせず、日に焼けた肌、水仕事で荒れた手は、むしろ実年齢よりも老けて見られていたかもしれない。
母はいつも自分のことよりも子どものことを常に優先し、全力で子どもに向き合い愛情を注いでくれた。今思えば、母にとって子どものために全力で生きることが、母の自分らしさであり、幸せだったのかもしれない。
そんな母はリタイア後の趣味で、野菜作りを始めた。子どもへの愛情が、野菜へシフトされた。いつも服には土がついていて、真っ黒に日焼けした母が、育てた野菜の話をするときは、子どものように楽しそうに笑っている。
そして私もそんな母を見ていてうれしくなる。
 
 
私の周りには尊敬する人生の先輩がたくさんいる。
みんなに共通していることは、年齢と上手に向き合い、好きなことに一直線であることだ。
そのブレない凛とした姿が、何よりも生き生きしていて、輝いている。
 
 
私は大切なことに気づいた。
好きなことをしているって、それだけで輝いているんじゃないか。
『若くてきれいなお母さん』もきっと自分の好きなことをしていた結果、美しく輝いているんだろう。
 
 
人にはその人にあった輝き方がある。
 
自分と違うフィールドで苦手なことをして、一生懸命自分を磨くよりも、自分のフィールドで好きなことをしていたほうが、より輝けるのではないだろうか。
 
 
例えゴリラでもいい。ババアと呼ばれてもいい。でもただのババアとは呼ばせない。
『動けるババア』となって、家族を身の危険から守るたくましい女になろう。
 
いつでも、今が人生最高のコンディション! そういって80歳になってもミットを蹴り続ける。
 
これが私の輝き方。
 
 
 
 
***
 
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2021-06-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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