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メディアグランプリ

ばあちゃんの動かなくなった右手が教えてくれた『今』を開く力


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:永松 昭徳(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
どんより浮かない気分で、なんとも冴えない顔して部屋を片付けていた。
最近、歳のせいだろうか、なんだかやる気が続かないのだ。
そんなときは部屋を片付けてスッキリしようと思い立った。
いろいろ思い切って捨ててしまおうと思いながら、普段あけることのない荷物の入った段ボールを開けた。
 
数ヶ月前まで私はがんばっていた。実際がんばっていたかどうかは断言は出来かねるが、少なくともがんばろうと思って過ごしていた。
「もっと成功したい、もっと稼ぎたい、もっと認められたい」
という承認欲求の塊のようなモードで走り続けていた。
このエネルギーを使ってしばらくこのままがんばろうと思っていたが、ここ最近、急激にやる気がなくなってしまった。
 
毎日ブログを書いてやろう! と意気込んでいても、
「もっと集中できる空間があれば書けるんだけどなあ」と環境のせいにする。
「あと10年若けりゃな~」なんて、歳のせいにする。
言い訳なんていくらでも出てきた。
 
段ボールから、ばあちゃんが絵を描いたスケッチブックが出てきた。
「もう6年にもなるのか……」
 
ばあちゃんがいた世界がずいぶん昔のようにも感じられるし、ついこの前までそばにいたようにも感じる。
 
ばあちゃんとは生まれたときから家族だった。
両親とわたしと妹、祖父母の6人暮らしだった。
 
わたしは大学生になったときに一人暮らしをするために家を出た。
そして4年後、社会人になった年になってまた実家に戻った。
ばあちゃんはそのとき一人暮らしになっていた。
祖父と父は亡くなり、母は再婚し妹と一緒に家を出ていたからだ。
(母は近所だったし、祖母との仲は良好であったということだけは付けくわえておこうと思う)
 
そんな流れで、23歳から37歳までわたしはばあちゃんと2人暮らしだった。
とにかく明るい元気なばあちゃんだった。
誰とでもしゃべるし、どこにでも出かけていった。
わたしが人生で一番けんかした相手だったし、一番気楽にいれる相手だった。
 
ばあちゃんは89歳のころ、転んだ際に右手を骨折し手術をすることになった。
手術自体はうまくいったのだが、後遺症がのこり右手のしびれがとれず動かなくなってしまった。
 
それをきっかけに施設で過ごすことになった。
ばあちゃんの趣味は写経だった。テレビを観ながらも、わたしとおしゃべりをしながらも、右手ではいつも文字を書いていた。
外出している以外は、ずっと文字を書きながら毎日を過ごしていたばあちゃんにとって、右手を失うというのは、人生の楽しみのほとんどをもぎ取られることに違いなかった。
 
わたしは心配だった。
このままばあちゃんは気力を失い、体も弱ってしまい、一気に老け込んでしまうのではないかと心配しながら、お見舞いに行った。
利き手を失ってさすがに落ち込んでいるだろうと思った。
 
右手を痛々しく包帯で巻かれ、肩から右手を吊ってる姿のばあちゃんが言った。
 
「わたしはまだ左手が動くけんありがたいね~えへへへ」
 
笑っているばあちゃんを見て、わたしは衝撃が走った。
すごいね、ばあちゃん……。
わたしの心の目がぱっちり開くような感覚があった。
 
そして数日後、ばあちゃんは左手で絵を描き始めた。
左手が動くことを喜んでいたのを見て、わたしは片手だけでペン先が出るマーカーペンを数本とスケッチブックを差し入れしていたのだ。
 
今までやってなかった新しいことを始めたばあちゃんはそのとき90歳だった。
 
スケッチブックを見ると、最初はまっすぐ描けなかったごにょごにょした線も、どんどんうまくなっていった。
落書きのような線も、しだいに花や蝶や人を形作る線と変わっていった。
 
お見舞いにいくたびにに、いつもうれしそうに自分の描いた絵を見せてくれたっけ。
 
片付けながらスケッチブックを開いてそんなことを思い出していると、
「ほらほら、見てんねこれ。こげんきれいな絵が描けたよ。すごいね。うれしいね。えへへへ」
というばあちゃんの声が鮮明に頭に流れた。
 
行き詰っていたようなわたしのどんより曇った心がふっと軽くなった。
そうか、忘れていた。
また忘れてしまっていた。
 
わたしは、不足ばかり見て生きていたのだ。
「わたしに才能があれば……、もっと自由になるお金があれば……、いい環境があれば……、もっと若さがあればなあ」と。
 
足りてないものはなにもない。
全部、もう自分の中にあるんだね、ばあちゃん。
何者かになろうと必死で何かをかき集めようと生きているから息切れしてたんだと分かった。なんてったってそんな自分は楽しくなかった。
 
あるものに目を向ければ、わたしにはありとあらゆるものが兼ね備わっているように思えた。
するといろんなものに対する感謝の気持ちが、胸のあたりにじんわりと広がるのが分かった。
 
ばあちゃんは、知っていたんだろうな。
(無意識なのは間違いないけど)
 
『すでに「ある」ことに目を向ける』
『無邪気に楽しみながら感謝する』
そして、
『何歳からでもなんでも始められる』
 
もうこの3つだけ肝に銘じて生きていけば、
これだけで「今」は開ける。
 
今、スケッチブックが目の前に100冊以上ある。
 
何もかも一気に捨てて部屋を片付けようと思ってとりかかったが、このスケッチブックが入った段ボールは、もとの場所にそっと戻した。
 
 
 
 
***
 
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2021-07-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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