しみじみと味わうべき15分の贅沢なドラマ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:みつしまひかる(ライティング・ゼミ超通信コース)
ソースとマヨネーズがたっぷりかけられたお好み焼き。
上品なお椀に入った、香りのよい、澄んだお吸い物。
この2つがあなたの目の前に並べられたとして、あなたはどちらを選ぶだろうか?
きっと、たいていの人は、お好み焼きを選ぶだろう。
より強力に食欲を刺激する香りと味があなたを満たすだろうから。
僕も生粋の大阪人だから、お好み焼きはしょっちゅう食べる。いわばソウルフードだ。
ついつい大きめに切り分けて頬張りたくなる。
ドラマでいうと、半沢直樹やドラゴン桜がぴったりではないだろうか。
忙しい日々の中で濃厚な満足感をくれるだろう。
でも、今回僕がオススメしたいのは、お吸い物のほうだ。
少しずつ口に含み、口から鼻に抜ける香りや、抑えられてはいるがしっかりとうまみを感じさせる味わいに意識を集中させたい。
たまには、この上品で贅沢なお吸い物を、時間をかけて楽しんでみませんか、という提案である。
このお吸い物に当たるのが、現在放映中のNHKの連続テレビ小説「おかえりモネ」だ。
言いたいことはシンプルに、ぜひこのドラマを見てください、ということにつきる。
舞台は宮城県。
主人公は永浦百音(ももね)という女の子で、愛称はモネだ。
モネは心に傷を負っている。
大学受験の合格発表を見に仙台に出かけたその日は、2011年の3月11日だった。東日本大震災が発生したその時間、彼女は島にいなかった。そのとき祖母は津波に呑まれて亡くなったのだ。
さらには受験も失敗だった。
彼女は無力感に苛まれていた。やりたいことはない。でも、誰かの役に立ちたい。どうしたらいいのかわからないもどかしさを抱えていた。
高校を卒業した彼女は、そういった鬱屈した気持ちを抑えられず、気仙沼市の小さな島を出て、家族の元をひとり離れ、祖父の知り合いで同県登米市の山主のおばあさん宅に身を寄せる。
そこの森林組合で林業や山林ガイドの見習いの仕事を始めることが、彼女の心を少しずつ再生していく。
登米市は自然豊かな土地だ。
仕事を行う山の中は季節柄葉の色も明るく、光は柔らかく、あふれんばかりにきらきらと輝いている。
その中で大きな木がしっかりと根付いている様を見ると、神々しいとすら思える。
そして彼女の故郷の気仙沼は、美しい海だ。そして山と海は空でつながっている。
この映像美だけでも、観た人の心を清らかに満たしていくだろう。
それは中々普通のドラマではない、このドラマならではの特徴といえるだろう。
それだけではない。彼女の運命を変える出会いが起こる。
職場の森林組合に、いつもテレビの天気予報で観ていた気象予報士がやってくるのだ。
天気予報士は、モネの前で、10分後に雨が降ることをピタリと言い当てる。
「天気予報は未来がわかるんだ」
驚きながらも実感した彼女は、天気予報について興味を持つ。
後日、モネが小学生を対象とした山林ガイドの仕事中、天気が急に悪くなり、小学生は低体温症に陥り命の危機に直面する。その時、職場の非常勤医師の指示と、先の気象予報士の予測を元に何とか危機を脱するのだ。
またしても的中した予報に、いのちを守る仕事という側面が合わさり、モネは気象予報士の資格取得へと心が突き動かされていく。森林組合での仕事だけではない。彼女の祖父も妹も、カキ養殖の仕事をしている。それもまた、天候が大きく左右する仕事であり、収入面や安全面でも、気象予報が強い価値を持つことを実感する。
それは、彼女がほしかった「やりたいこと」が見つかった瞬間だった。
本作では、登場人物の仕草なり表情なりが自然で、心の動きが細やかかつ丁寧に描かれている。
きっと、家事のついでにチラチラと見ているだけでは、劇的なことが起こらないこのドラマに不満を持ってしまうだろう。しかしこのドラマの真価はそういった見方ではわからない。
お吸い物をがぶ飲みしては、非常にもったいないのだ。
落ち着いて、香りと味わいに集中しなければ、その深い味わいに気づけない。
モネは僕たちで、このドラマは僕たちの物語だ。
大震災のようなイベントを除いて、僕たちの人生はそれほど劇的なものにはならないだろう。
それでも自分の人生をよくよく振り返った時に、些細に思えながらも、日々起こる些細な出来事によって、私たちは感じ、考え、それによって行動を変えていく。人生はその小さな積み重ねで形成されていく。
それこそがリアリティであり、僕たちが大事にすべきことだろう。
モネを演じる清原果耶さんは、不安定で揺れ動く心の機微を丁寧に表現しており、その透明感はモネのキャラクターにしっかりとリアリティをもたせている。
モネはまだ二十歳だから、人生が決まっていくのはまだまだこれからだ。
でも、彼女の「誰かの役に立ちたい」と願い、でもその方法がわからないもどかしさは多くの人が経験してきたこと、あるいは経験することだろう。
彼女の経験に自分の人生を重ね合わせて、自分の心を改めて見つめ、問い、考え直す機会をくれるはずだ。
それは、自分をリセットする贅沢な時間になる。
印象的なセリフを紹介しよう。
気象予報士「山は、水を介して空とつながっています。海もそうです。永浦さんは、海で育って海のことを知っている。山のことも知ろうとしている。なら、空のことも知るべきです」
祖父「山は海とつながっている。関係ないと思われることが、何かの役に立つ」
モネの中でこの2つのセリフが重なり合う。
「ぜんぶ、つながっている」
「みんな、誰かの役に立てる。もし、わたしが天気の勉強をしたら、おじいちゃんの仕事や、みーちゃん(妹)の研究の役に立ったりできるかな。誰かの役に立てるかな」
これは、小さく見ると水の循環のお話だ。
でも、大きく見ると、僕たち個々人の仕事にも同じことが言える。
15分間、このお吸い物をゆっくりと味わう時間をもってみてはどうだろうか?
きっと、自分のみずみずしい感性を思い出すきっかけになってくれる。
***
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