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ひとり暮らしの母がトイレに閉じ込められた


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記事:伊藤瞳子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
私の母は72歳になるが、東京にひとりで住んでいる。
私は結婚して主人の実家のある岩手に来たので、東京へは年2,3回くらいしか行かない。
コロナ渦になってからは一度も東京を訪ねていない。
母に最後に会ったのは昨年の1月だ。
もう1年以上会ってない。
 
今母との連絡は主にLINEだ。
電話はあまりかけない。
 
なにか用事があってめずらしく電話をかけた時だったと思う。
用事が済んで電話を切ろうとすると
「実は私、この前さ。
トイレに閉じ込められたんよ」
と言うではないか。
 
どういうことだ。
ひとりで住んでいるのに。
 
実家のトイレは、なぜか、鍵が外側についていた。
おそらく私が子供だった時に、中で間違って鍵をかけてしまって、開かなくなったら困る、ということで、ドアノブを外し、中と外を入れ替えたのだ。
だから実家のトイレは中から鍵をかけることができなかった。
必然的に、そのトイレは、私が怒られると閉じ込められる、お仕置き部屋として使用されていた。(もちろんすぐ出してもらえたが)
 
母はふと、もう鍵を外につけておく必要がないと思った。
たまに訪ねてくる兄夫婦のためにも、鍵をまた内側につけ直そうと思い立ったのだ。
 
トイレのドアは内開きだった。
トイレの中に入り、ドアを開けた状態で、ドアノブを外す作業に取り掛かった。
ドアノブと鍵の仕組みを確認する。
鍵をかけて、ここの出っ張りが出る。
ここのねじを回して外せばいいのかな。
そんなことをやっているうちに、
ドアがスーッ ガチャッ!!!
しまった……。
 
鍵をかけた状態で、鍵の出っ張りを押さえたままドアを間違って閉めてしまったらしい。
 
ここまで聞いて、血の気が引いた。
たった今、母は私に電話をかけているので、結果的に大丈夫だったのだ。
でもどれくらい閉じ込められていたんだろう。
数日?
体調は大丈夫なのだろうか?
どうやって出てこられたの?
どんなに怖い思いをしたんだろう。
 
母は出かけるときしか携帯を持たないので、トイレにはもちろん持ってきてない。
窓は?
トイレの壁に小さな窓がついている。
しかしタイムリーなことに、本当にごく最近、寒さ対策のため、トイレの窓の外に納戸をつけてしまっていた。しかもその納戸はまたハイテクなことに、ボタンで開閉できる最新式だ。
開閉ボタンはトイレの中にはない。リビングだ。
窓を開けても、納戸が閉まっているために、出ることはできないし、大声をだしても聞こえないかもしれない。
隣のおうちにまで声が届くだろうか。
そうだ、希望はある。
コロナ渦になってから、母は毎晩、歩いて20分ほどのところに住んでいる、80過ぎの母の姉のアパートまで散歩するようにしていた。
お互い直接会う事を控え、アパートの下に着くと携帯から姉に電話をかけ、窓から顔を出す姉と、互いの生存確認をする、ということになっていた。
今晩行かなかったら、姉がおかしいと気づいてくれるから、そしたら来てくれるかも。
おかしい思って訪ねてくれるまで、出られないのか。
母はふと、トイレットペーパーを保管している扉をあけてみた。
すると、何かの説明書が置いてあった。
母はその説明書を、手に取り、トイレのドアの隙間に差し込んでみた。
すると鍵の出っ張りが、押し込んだ紙に押されて引っ込んだのだ!
ドアノブをそっと
引っ張った。
 
あいた……。
 
母はその場にへたり込んだそうだ。
 
私も最後まで聞いてホッとした。
 
ライフハックだ。
よくそんなことに気が付いたなと思う。
私なら何もできなかっただろう。
 
どれくらいの時間閉じ込められていたのだろう。
その時の母の気持ちを想像すると、今でもドキドキする。
自分だったらどうしてた?
 
ひとり暮らしの高齢者が、トイレやお風呂で亡くなっていた、なんてことは聞くが、母がトイレに閉じ込められるなんてことは想像もしていなかった。
 
高齢者施設で働く知人に今回の母の話をすると
「それって、結構あることらしいですよ」と言われて驚いた。
なんでも、外開きの扉の前に物が倒れてきて出られなくなったりするケースもあるのだそうだ。それで亡くなった方もいるのだろうか。
 
改めて、母がトイレや風呂場で何かあった時に連絡できるようなシステムを考えた方がいいなと思った。ひとり暮らしの親を持つ人なら、一度は考えたことがあるだろう。
 
とりあえず、母にはアレクサを買ってあげるのはどうだろうか。
「アレクサ、〇○に電話かけて」というだけでビデオ通話もできるらしい。
トイレやお風呂からでも声が聞こえれば反応するだろう。
ここまで考えて、もっと簡単な方法を思いついた。
母にはiPhoneを持たせていたのだった。
Hey,Siri
と言えばいいのか。
わりと簡単なことだった。
 
今度東京に行ったら、まず母のiPhoneの設定を確認することとしよう。
Hey Siri 母を頼んだぞ。
 
 
 
 
***

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2021-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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