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目線一つで信頼を失った話


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:喜多村敬子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
信頼を失ったのは、以前、英語教室で小中学生に英語を教えていた時のことだ。
それは中学2年生のクラスでの事だった。
前年度から週2回ずっと一緒だったので、生徒同士もこちらもすっかりなじんでいた。
その中の1人の男子生徒は熱心に授業を聞いていてくれた。
ある日、授業中に教壇にいた私はその子と目線があった。
私は、そのまま、何気に目線をすっと外した。特に意味があったわけではない。
その時の彼の目の表情が忘れられない。
びっくりしたような、ショックを受けたような目をした。
「あっ、今、切れた? まさか」と私は思った。
 
数週間後、英語教室の室長から話があった。
彼が授業が分からないと言っていると、お母さんから相談があったとのことだった。
あの一瞬で、私は彼の信頼を失ったのだとその時に分かった。
あれから、距離感のようなものを感じることがあった。
あの瞬間に、視線を受け取ってもらえなかった、
無視されたと、私への信頼が切れたのだった。
私は、それを室長に話したかどうかを覚えていない。
室長から怒られることもなく、他からは授業が分からないという相談はなかった。
彼は、英語教室を辞めた。
後にも先にも、講師としての3年間でクレームを受けたのはその一回だけだった。
視線を他に移す前に、彼の視線を受けて、丁寧な目線を返すべきだったのだ。
 
教室では、教師が授業をコントロールしている。
学ぶ場では、教え、指示を与える点では教師の方が強い立場にあるが、
生徒からの信頼がなければ、「学ぶ・教える」場は成立しない。
生徒の理解度と気持ちにいつも気を配る必要がある。
強い立場がゆえに、生徒に圧をかけたり、気持ちを無下にすることは、
教師自身が一番自戒すべきことだ。
 
そのために、教師がしてはいけない仕草がある。
大学で教職課程を履修したのだが、そこで、「腕組み」をしてはいけないと教えられた。
腕組みをする癖がある人は、そんなに威圧感を与えるものなのか疑問に思うだろう。
腕組みをすると、体が腕で閉じられ、相手に否定感を感じさせる。
自分を守ろうとする気持ちが腕組みになることもあるのだが、
同時に相手を拒絶や威嚇する仕草でもあるというのだ。
生徒から見たら、強い立場の教師が腕組みをすることは、想像以上の威圧感を与える。
生徒への不信感や怒りを表していると、とらえられてもおかしくない。
 
他にもやってはいけない仕草に、「服のポケットに手を入れる」がある。
これは、マナー講師が、自分が気を付けていることを書いた新聞コラムに紹介されていた。
学校の教師にも、仕事でプレゼンする社会人にも共通することとして読んだ。
講師がポケットに手を入れたまま話すと、上から目線で受講者を見ているように映る。
そもそも、きちんとした場でポケットに手を突っ込んで話すのは、相手に失礼である。
ポケットに手を入れる癖のある人は気を付けなさいという事だった。
それでも癖が直らなかったり、やってしまいそうな人は、
ポケットのある服を着てはいけない。
ポケットがあるなら、ポケット口を縫い付けてしまって、
手が入らないようにすべきである。自分はそうしているとあった。
講師にその気がなくても、失礼な態度であると思われるというのだ。
それぐらいで? と思った。
映画「インディ・ジョーンズ」で主人公インディは、
大学で講義する時にポケットに手をいれていなかったっけ?
そういうシーンは洋画や欧米のTVドラマでよく見る。
むしろ、リラックスしていて、カッコ良いと感じていた。
 
ところが、このマナー講師が書いていたことを実感することがあった。
若い女性が講師を務める半日講座を受けに行った時のことだった。
講義の内容は問題なかった。
途中から、なんだか、下に見られているようなイヤな感じを受ける。
講師が気を使って話しているのは分かるが、
途中から反感を抱くようになってきた。
受講者からの意見、質問について、
否定もせずに普通に説明や訂正しているだけなのに、である。
そう、彼女はパンツのポケットに片手を入れたまま話していた。癖なのだろう。
思い返すと、講座開始時には手を入れていなかった。
途中からポケットに手を入れるようになった。
そうと分かると、その仕草が気になって仕方がなかった。
 
同性の私が、不快感を持ったのだ。
年季の入った男性参加者は、ムッとしたことだろう。
社会人向けの講座では、
受講者からこういったことを、直接に指摘されることはまずないだろう。
その講座では受講者からのフィードバックの機会もなかった。
その講師は気づかないままだろう。
私だけに直接に向けられたのではない仕草で、講師に対する不信感を持った。
だから、私から自分に向けられた目線を逸らされたあの生徒が、
どんな気持ちになったかと後悔する。
 
著名な投資家ウォーレン・バフェットはかつて、こう言ったそうだ。
「周りの人から評判を得るには25年かかるが、それは5分で崩れることがある。
そのことを頭に入れておけば、今後の人生が変わるはずだ」
その通りだ。実際に私が経験したように、
目線一つで、仕草一つで信頼を失うことがある。
 
 
 
 
***

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