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メディアグランプリ

ヤンキー宣言


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記事:樋口 紀子【6月開講ライティング・ゼミ平日コース】
 
 
「ママ、俺明日からヤンキーになるわ」
今から7年ほど前の春、息子が14歳になったある日突然宣言してきた。
私は、彼が10歳の時からの母だ。そのころまだ母歴は4年だったとはいえ、この息子がとても優しく、人一倍寂しがりなことはもうわかっていた。そしてびっくりするほど視野が狭い。まるで野生のハンターが獲物を捕らえる時のように、いつも自分が興味のあること以外、何も見えていなかった。
そんなハンター君が、ヤンキーになりたくなったのだ。これはもう止めたところで、どうしてでもなるだろう。そんな宣言をするぐらいだから、何かに心が病んでとかではなく、見かけだけに憧れているのだろうと思った。どうも、都会に引っ越していた幼馴染がこの田舎町に帰ってきて、彼の知らないヤンキーの世界をたくさん教えてくれたようだ。そのかっこよさを、母親に目を輝かせて語って聞かせている。
「人は見かけが9割っていうよ。損しかしないと思う」
私がそういっても、ハンター君にはもう聞こえない。
なんせ、その見かけがヤンキーなことが、彼にとって今一番大事なのだから。これはもう、やってみないと分からないだろう。
私は少々とやかく言われることになるだろう。ほらやっぱり継母だから、そんな声がもう聞こえてくるような気がした。何を言われたとしても、血は繋がらないが、私はもう彼のたった一人の母なのだ。その責任を取る覚悟もできなければ、私のしていることは、おままごとでしかない。腹をくくるしかないだろう。このヤンキー熱が冷めたあと、彼の得るものはとても大きいはずだから、それを信じることに決めた。
ただ、少しの約束だけはした。自分がされて嫌なことは絶対しないこと。ありがとうとごめんなさいは、必ず言うこと。それは、今まで彼がちゃんとしていたことで、ヤンキーになったからと言って絶対に捨てないことだけは、すんなり誓ってくれた。
 
そうして、ヤンキーになったはずの息子だが、家では一向に変わる気配がない。「ただいま!」と帰ってきて、今日あった話をキッチンに立つ私の後ろでずっとしゃべっている。少し違ったのは、友達が喧嘩したから加勢したとか、少々荒っぽい話が増えてきたぐらいだ。それも、そのあと喧嘩相手とも友達になったという報告だったりするので、「なんか青春だねぇ」なんてのんきな返事をしながら、約束は守っていると安心していた。
 
しかし、学校からは毎日電話が掛かってくる。反抗してきたとか、掃除をさぼったとか、授業に遅れてきたとか……それは、別に彼がヤンキーでなくても、今までもしていたことだ。小学校のころから懇談に行くたびによく謝った。それをわざわざ電話で報告されることになるのが、ヤンキーの特徴なのかもしれないなと思った。
「家では今までと何にも変わりませんけど、注意しておきますね」
そんな返事くらいしか、私に言えることはない。
息子は、何も変わってないのに、大事件にされることに怒っていたが、それが「見かけが9割」ということだと、やっと伝わった。そもそも、だから人は別にヤンキーになって損をしようと思わないのだが、そこまでは、まだハンター君の視界には入らないようだ。
「だったら、見かけで自分を判断しない人を大切にしないとね、自分もそうでないとね」と、伝えた。それは深く彼に刻まれたようだ。
 
すぐに冷めると思った彼のヤンキー熱は、思った以上の長患いとなった。
家では、いつまでも10歳のままの素直な彼ではあったが、友達が大切になり、私に言えないこともたくさん増えてきたのだろう。なんとか行った高校も3年になって辞めてしまい、そこから坂を転がるように転落した彼がやっと目覚めたのは、19歳だった。
 
私はやっと責任を取る時が来たと思った。
彼に合うだろう本をたくさん選んで渡した。
松下幸之助さんやスティーブ・ジョブズ氏が、どんな人生を歩んできたか? それは、決して輝かしい失敗のない道ではなかったこと、今からでもなんにでもなれることを知ってほしかった。
大きな夢をかなえるために必要なのは、ちいさなちいさな努力の積み重ねと、失敗と、くじけずにまた挑戦し続けることでしかないことも知ってほしかった。
彼が憧れ始めていた成功者とは、たくさんのお金を持つことや、派手な生活をできる人でなく、人の幸せを作り出すことのできる人のことだとわかってほしかったのだ。
彼は、それを貪るように読んだ。そして、そのたびにきらきらとした目で感動を伝えてくれていた。
そのあと、寂しがり屋の彼が一番怖かったであろう、地元や友達と離れる決心をした。遠い地で一人寮生活をはじめ、働きながら高校卒業認定も受け、コツコツと自分のできる事業を模索し始めた。やっとヤンキー卒業宣言をしたようだ。
 
そんな彼も、もう21歳になった。
それでもまだ家族は、私も、彼の行動に時々ハラハラする。またとんでもない方向のものにロックオンしてしまうのではないか?そう思ってしまう。
何回失敗しても、また挑戦したらいいのだけれど、大人のヤンキーだけは勘弁してほしい。
 
 
 
 
***
 
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2021-07-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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