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田舎民、大学受験で教育格差にとまどう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ozuka(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「結局、生まれた場所とお金で、全部決まってるじゃないか」
 
短期で、大手学習塾の夏期講習に通った時、授業の質の違いを見せつけられた。
講習の内容を頭では聞きつつ、自分の境遇とのギャップに、腸は煮えくり返っていた。
 
偏差値50の、平々凡々な公立高校に通っていた。私自身の頭も、平々凡々だった。
しかし、興味がある研究室がある都合上、無謀ながらも、難易度が高い大学を目指していた。
 
「チャンスは誰にでも平等だ」
当時の自分は、生意気にもそう思っていた。
 
私の住む地域には、予備校がなかった。
高校の授業は、地元の大学を受ける人にしか対応していなかった。
必然的に、受験勉強はほぼ独学で、孤独な戦いだった。
 
そもそも、大手の予備校に通うほどのお金はなかった。
大学に行っても、生活費や学費は奨学金で賄うつもりだった。
仮に、予備校がある環境にいたとしても、通える境遇にはなかった。
 
受験勉強を独学で進めていった。
しかし、勉強方法が正しいか分からない中で暗中模索するのは、あまりにも不安だった。
 
「短期の夏期講習に行ってみたら?」
 
当時、頼りにしていた数学の先生は、私を不憫に思って勧めてくれた。
5日間限定で、大阪にある大手学習塾の夏期講習に、泊まり込みで行くことにした。
 
「新幹線、緊張するなあ」
 
そもそも、地元で電車移動することなど、ほとんどない。田舎は車社会である。
大阪の学習塾へついた時には、既にへとへとだった。
 
ましてや、習い事などしたこともない。
そういった自分が、都会の学習塾に行く。
恥ずかしながら、体中の勇気をスカスカになるまで振り絞る必要があった。
 
数学の講義が始まった。目標の大学に特化した内容だった。
小太りだが、明るい講師が、軽妙な口調で話を始めた。
 
数学は、目標とする大学の名物でもあり、最難関でもあった。
半分でも解ければ受かる。そう言われていた。
ところが、講師は次々と問題をパターン化し、解き方をマニュアル化しいった。
 
もちろん、そのマニュアルがあったとて、簡単に解ける問題ではない。
しかし、これを一年間、反復練習を地道にこなした受験生はどうだろう。
高確率で、合格点をとれるのではないだろうか。そう思わせる、優れた授業内容だった。
 
5日間はあっという間に過ぎた。
夏期講習から、いつもの生活に戻った。
 
しかし、私の頭は混乱していた。
夏期講習と、普段の自分の境遇は、ギャップがあまりに大きかった。
 
そもそも、「受験」というゲームのルールを理解していなかったように感じた。
 
例えば、野球のルールは、点を多く取ることだ。
夏期講習にいた彼らは、点を取ることに特化した練習をしていた。
ピッチャーの癖や守備の穴を見抜き、いつか必ず来る、打ちやすいボールに対して、打率を上げる練習をひたすらしていた。
 
私はどうだっただろう。
やみくもにバットを素振りして、足腰を鍛えるために走り込みをする。
地頭を鍛えるという意味では、よかったのかもしれない。
しかし、合格する可能性が高いのは、間違いなく彼らだと思った。
 
「なぜ、誰もルールを教えてくれなかったのか」
 
当時の未熟な自分には、こみ上げる感情の矛先が分からなかった。
混沌とした負の感情は、都会の全ての受験生に向かっていた。
 
彼らは努力していただろう。
苦労もしていただろう。
それぞれ、悩みもあっただろう。
お門違いの感情をぶつけてしまっていた、今は反省している。
 
あの時の感情は、今なら分かる。
一つは、今までの学習時間を、無駄にしていたという脱力感。
もう一つは、先天的な環境で「教育機会」に手が届くかが決まる。それにより、人生が左右されてしまう、やるせなさ。
何より、この状況に立ち向かう勇気を持っていない自分に対する、ぶつけようのない怒り。
この感情が複雑に交じり合い、自分を混乱させていた。
 
そもそも、私は場違いではないか、と思った。
試合に出る前に、メンタルで負けていた。
 
そんな状況で、高校の先生から、ある先輩のことを聞いた。
「あいつは、塾に行かずに合格したよ」
 
自分が恥ずかしくなった。
自分が不遇な環境にいると思い込み、はなから諦めようとしていたのだ。
 
「持っていないものを考えても、仕方ない」
そう思えるようになった。
 
自分なりの創意工夫を始めた。
「持たざる自分」ができることを、考え抜いた。
 
どうしてもコツが掴めなかったのが、
センター試験(今の「大学入学共通テスト」)
の国語だった。
 
インターネットで、受験サイトを片っ端から調べた。
本屋の棚にある参考書を、上から下まで立ち読みした。
参考書に詳しい友人に、片っ端から聞いて回った。
 
その中の一人が、少し変わった本を持っていた。
「選択肢を見れば、正解が分かる!」
「50点も上がりました!」
そういった、謳い文句が怪しい本だったと思う。
 
正直、胡散臭かった。
しかし、点数を上げなければならない自分は、なりふり構っていられなかった。
 
書店に行って、購入した。
表紙も内容も、とても胡散臭かったが、ひたすら内容をこなした。
結果的に、自分でも驚く得点を、センター試験本番で取れた。
 
この「怪しい本選定法」に味を占めた自分は、他の教科にも展開した。
 
自分でも驚くことに、他の教科にも通用した。
どうやら、「怪しい本」には普遍的で不思議な効能があるらしい。
 
結果的に、二次試験でも結果を出すことができた。
目標だった志望校に、合格できた。
 
塾に頼らず、自分の創意工夫の結果が、テストの点に繋がった。
その事実が、大きな自信をくれた。
合格の喜びよりも、独学で戦った自分を褒めてやりたかった。
 
「本というのは、自分への投資だ」
そう言われることが多い。
 
投資は投資でも、本は「株式投資」に近いと思っている。
私にとっては、感覚が大きく異なる。
 
怪しい本であるほど、外れのリスクは大きい。
そのため、胡散臭いほど、多くの人は敬遠するだろう。
しかし、そこに有益な情報が載っていれば、他の人とは差別化した知識が手に入る。
 
「本は自分への投資」と言うという言葉は、
無条件にリターンが約束されているように聞こえる。
 
一方で、お金を無駄に失う可能性があっても、構わずリターンを求める。
その姿勢が、結果を呼び寄せる気がしてならない。
さらに、「怪しいが、役に立つ本」の目利き力を上げることで、リスクを下げ、リターンを最大化させる。
 
大学受験で得られた成功体験と目利き力は、今でも役に立っている。
 
夏期講習で感じた、
「結局、生まれた場所と、お金で大学なんて決まるじゃないか」
ここには、真実も含まれていると、今でも思っている。
しかし、間違いもあると思うようになった。
 
あれは、乗り越えるべき試練だっただけだ。
乗り越えた先で得られたものは、自分の強みになったのだから。
 
ふと、いつか見たスヌーピーの漫画を思い出す。
「You play with the cards you’re dealt…whatever that means. 」
「配られたカードで勝負するしかないのさ……それがどういう意味であれ」
 
あの夏、予備校で感じた感情は、忘れられない原体験だ。
「配られなかった」カードがあるのなら、自分なりの方法で、また見つけに行けばいいじゃないか。
そう思えるようになった。
 
 
 
 
***

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2021-07-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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