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メディアグランプリ

大丈夫という解釈


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:とわにこ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「大丈夫と言う人ほど大丈夫じゃない」
 
一度浮かんだフレーズが頭から離れない。
カレーは飲み物、みたいな妙な説得力を持ったこのフレーズが、脳内リピート再生される。
 
息子を、電動アシスト付き自転車の後ろに乗せて走っていると、信号が赤に変わった。
走っていない時はただただ重いその自転車を、両手とつま先で支えながら信号待ちをしていると、一人の女性が交差点に差し掛かってきた。
 
ヒールが9cmはあろうかという、ベージュのエナメルパンプスを履いた、その女性の足元は覚束ない。顔色もよくない。タイトスカートからすらりと伸びた脚も、その体を支えるには頼りなく見える。
 
彼女は花壇の縁に腰掛けようとして足が絡まり、ついにコンクリートの地面に転がってしまった。そう、コケたのではない、転がっていた。まるで自分の体の制御が効かなくなったように、その女性は立ち上がれず、右に左に転がっていた。
 
周囲の人が手を差し伸べるべきか躊躇していると、制御可能になった彼女の体は、予定していた花壇の縁に腰掛けられた。それと同時に信号は青に変わり、人が流れ出した。
 
わたしは自転車を停め、彼女に駆け寄った。
掛ける言葉に悩み、とにかく顔を覗きこむことしかできなかった。めまいがしたのかなと思い、ようやく「頭?」と聞けた。
 
「大丈夫。頭打ってない」
 
そうか、聞き方が悪かったなと、次の質問を考えていると、
 
「大丈夫大丈夫! 行って!」
 
こどもを連れたわたしに気を遣ってくれているのが分かった。
 
「脈とか……大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。大丈夫だから」
 
最後はわたしの方が慰められ、なだめられるようだった。
 
息子の習い事が始まる時間が迫っていたこともあり、促されるまま、わたしは自転車を走らせることにした。医学の知識のない自分を恨みながら、自分にできたことはなんだったのだろうと思い巡らせた。
 
それからだ。
 
脳内リピート再生が始まった。
 
「大丈夫と言う人ほど大丈夫じゃない」「大丈夫と言う人ほど大丈夫じゃない」
 
タイトスカートにパンプスを履いて、書類を携えてフラフラ歩く彼女を見た時から、数年前の自分と重ねていたことに気づいた。
 
「大丈夫です!」
 
そう、よく言っていたことも思い出された。
 
わたしにできたこと、あったじゃないか!
 
息子を行き先へ送り届けると、踵を返して交差点へ戻った。
 
彼女の姿はなかった。
緊急車両のサイレンも聞こえなかった。
彼女は彼女の大丈夫のまま、行き先へ向かったのだろう。
 
わたしの心臓は大きな音を立てて脈打った。呼吸が乱れ、苦しくなった。
わたしだからこそ、掛けられる言葉があったはずだ。
もう一歩踏み込んで、彼女に起きていた事実と、彼女の大丈夫について、客観的に言葉掛けができたはずだ。
 
その時彼女に伝えたかったことを、罪滅ぼしのごとく、ここでみなさんに伝えたい。
 
わたしが伝えたかったこと、それは、数年前のわたしに知人がくれたアドバイス、
 
「事実と解釈を分けなさい」
 
というものだ。
 
彼女の大丈夫。
それはつまり、彼女の解釈だ。解釈にしか過ぎない。
白昼、たくさんの人が行き交う中、背中から転がるように倒れた事実は、決して大丈夫だとは思えなかった。
 
彼女は自分に起きている事実と、自分の解釈を混同してしまっていたのではないだろうか。無理をすることに慣れ、大丈夫という解釈を根拠に、さらに無理を重ねてしまっていたのではないだろうか。
 
そうやって休職を余儀なくされた、数年前の自分と重ね合わせた上で、そんな注意喚起がしたかった。
 
とはいえ、通りすがりの人間に突然、
「事実と解釈を分けたほうがいいですよ」
と言われても、足早にその場を去ることしかできなかっただろう。あの彼女に伝えることは、今思えば大変困難であったと思う。
 
そこで、事実と解釈を分ける実例をここで紹介し、大丈夫じゃないのに大丈夫という人に伝わればと願う。
 
例えば、上司に体調不良を伝える場面。
 
「申し訳ありません。頭が痛いのですが、熱もないですし、風邪だと思います。今日はお休みをいただけないでしょうか。薬を飲んだので、もうすぐ効いてきます。明日には良くなっていますので、大丈夫です」
 
このように伝えることはないだろうか。
 
わたしには、自分の体調不良によって迷惑をかけてしまっている罪悪感、自己管理ができていなかったと自分を責める気持ちから、事実と解釈を混同してしまっているように感じる。
 
ここでいう事実は、
「頭が痛い」「熱は平熱」「薬を飲んだ」の3点だ。
 
一方、
「風邪だと思う」「もうすぐ効く」「明日は良くなる」「大丈夫」は、全て解釈に過ぎない。
 
もし薬が効かず、明日も体調が優れなかったら、この人はさらなる罪悪感に苛まれることになるだろう。
 
相手に伝える際には、まず、解釈を省き、実況することをおすすめしたい。
 
「頭が痛くて辛いです。今日はお休みをいただけないでしょうか。熱は平熱でホッとしました。薬を飲みましたので、これから眠ります。明日また連絡いたします」
 
同じ状況を説明していても、こちらは、事実と行動予定しか伝えていない。
「辛い」「ホッとした」ももちろん事実である。
自分の気持ちを伝えることに抵抗を感じる人もいるかもしれないが、自分がそう感じているのなら、それは紛れもない事実だ。
 
事実しか伝えていなければ、翌日も体調が悪くても、前例の罪悪感は感じずに済むだろう。
 
大丈夫なのかどうか、相手も、自分自信も、「事実」から判断することが大切だと思う。「解釈」に頼れば、自分の首を絞めることに繋がり、相手からの信頼を損なうことにも繋がりかねない。
 
みなさんはどんな場面で「大丈夫」と使っていますか。
それはあなたの「解釈」ではないですか。
自分の気持ちを「事実」と受け止めていますか。
 
 
 
 
***

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2021-07-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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