メディアグランプリ

28歳無職がつかんだもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:杉下 薫(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「あぁーー……クソぉ!」
僕は書類を投げて膝から崩れ落ちた。
3年前、「君は頑張っているのは分かるがミスが多すぎる。今すぐ荷物を持って帰ってくれ」と言い渡され職場を3か月で解雇された僕は、小さい頃の夢であった公務員になるため新卒時や働いていた頃から合わせて5度目の公務員試験を受けていた。だが、その甲斐空しく第一志望の受験先から手元に届いたのは不採用通知だった。
これまでの勉強時間はカウントしているだけでも優に2000時間を超え、筆記試験はどこも通った。
 
だが、面接試験で採用されない。
 
ハローワークや合格者の人との模擬面接は何十回もした。
受けられるところは全て受け、10以上の団体を受け、昨年は6人受けて5人採用した離島の自治体も受けた。
 
だが、採用されない。
 
筆記の問題ならばどの問題を間違えたかなどは解答を見ればすぐにわかる。
だが、面接では何が問題かわからない。
話す内容が良くなかったのか。
話し方が良くなかったのか。
適性がなかったのか。
そもそも自分は社会で働けるような人間ではないのか───。
来る日も来る日も「お前は要らない」と告げられる毎日。
人間としての存在価値や人格を否定され、常に胃の中に重たい鉄の玉が居座っているような沈鬱な気分が「いつもの」状態だった。
 
公務員試験は何年努力しようが、何千時間の勉強を費やそうが、30分弱の面接で相性が合わないと判断されたらそれまでの労力が水泡に帰す現実がある。
しかも、例えば受験勉強なら第一志望の東大に行けなくてもほかの大学に行ける。資格試験でも他の勉強に応用できたり、漢検や簿記のような級式なら下位の式が取得できたり、TOEICのように少しでもスコアが付いたりするが、公務員試験は難易度の低いものがなくつぶしも効かないためそうはいかない。つまり公務員試験に費やした時間や勉強は、合格しない限り他に活かしたり評価してもらう機会は今の就職活動のシステム上ないのだ。日々目減りする貯金や時間、可能性が減っていくなか焦りだけが募っていった。
 
多くの受験生が例年7月から10月に内定を得ていくなか、僕は3月になっても内定がなく、民間企業に行くか来年度の試験を受けるかの選択を強いられることとなった。しかしこれ以上経歴に空白も空けられないし、あらゆる受験先の年齢制限の上限に差し掛かり始めていた。そのため民間企業をいくつか受けることにし、就職あるいは転職活動について相談するオンラインコミュニティに参加した。そこで、今まで自分は解雇された過去を面接ではひた隠しにしてタテマエを話していたが、それは話してもよいのではないかというアドバイスをいただき次に受ける企業でそれを実践することを決意した。以下はその一部である。
 
面接官「なぜ、前職を3か月で退職されたのですか?」
 
僕は勇気を振り絞りこう答えた。
「はい、『君はミスが多すぎるから今すぐ荷物をまとめて帰ってくれ』と言われその場で解雇を言い渡されたためです」
否定的なことを言われるのか、深掘りされるのか、とても不安な予想を内心していたが、面接官は温かい声でこう言った。
 
「……そうですか……とてもつらい経験をされたのですね。ただそれは、会社側の都合であなたを切っただけで本来はあなた育てるべきだ。大変な会社に入ってしまっただけであなたは悪くないと思う」
 
目頭が熱くなった。面接中はこらえたが、帰り道は涙が止まらなかった。ひょっとしたら気持ちよく帰ってもらうための方便だったのかもしれないし、事実採用はされなかった。
だが、あの日のことは今でも忘れられないし、あの時の通行人はアラサーの男が一人で涙を流しながら歩いていた姿を忘れられないだろう。
 
そしてその後、僕はある省庁から面接を受けに来ないかとお声をいただき、そこで内定をいただきギリギリで公務員となれた。そこでは離職理由はきかれなかったが、民間企業で自分を肯定していただいた経験が良い結果につながったと思う。考えてみれば面接も人と人とのコミュニケーションの場である。体裁を整える必要はあれど用意してきた答えばかりで全く素が見えない人間を採用するはずがなかったのだ。
 
この年の公務員試験は特に孤独であった。周囲の友達が遊んだりするなか、一人で勉強する孤独と戦うのは本当に苦しいのに、コロナによる試験延期で一時期はいつ開催されるのか、そもそも開催されるかすら分からないゴールの見えない状況に放り出された。
そのうえ、勉強が終わってもコロナで旅行はおろか遊ぶこともままならない。特に大学生の受験生は学生として最後の自由時間が減った辛さは察するに余りある。
 
いかに勉強や面接が得意でも、20科目以上ある科目の多さや学生生活と両立することの難しさから勉強を放棄し、受験を諦める人も多い。結果が出なければ誰も評価してくれない。それでもあきらめず戦い続けたことはなにより優れた才能だし、無駄にはならないと今なら言える。
 
なぜなら、僕は今でも前述のオンラインコミュニティやSNSで公務員試験のことやメンタル維持など様々な場面で相談に乗ったりしている。完全業務外のボランティアではあるが、自分の努力や苦労が無駄とならず、むしろ意味があったと思えるのは本当にありがたいことである。
 
ひょっとしたら今これを読んでくれている方の中にも自分の努力が無駄なのではないかと虚無感を抱いている方がいるかもしれない。ただ、それに対しても本気で誰かに手を伸ばせば、必ずそれをつかんでくれる人がいて決して無駄にはならないと信じてほしい。
 
 
 
 
***
 
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2021-07-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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