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魅力的だったのだ、どうしても


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岡本桃佳(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「どうして?」と尋ねられると、いつも答えられなくて困ってしまう。
 
幼稚園に通っていた頃、手がまめだらけ、血まみれになるまで、鉄棒の練習を繰り返した。友達がくるくると回ったのだ。足をつかずに、鉄棒の上で文字通りくるくると回った。だから私も、真似してみたいと思って、毎日毎日鉄棒で延々と、回ろうとした。あんまり手をけがするので、鉄棒禁止令が出たこともあった。それでも回れるまで、やった。
 
こんなこともあった。家の近くにスイミングスクールがあり、泳いでいる様子が外から見えるような造りをしていた。側を通るたびに、私はそのスイミングスクールの前から動かなかった。そんなことを1年ほど続けていたら、ついにスクールに通わせてもらえることになった。その時、何に惹かれたのかもう覚えていないが、今でもたまに泳ぎに出かける。
 
私には、昔からそういうところがあった。惹かれたものに執着する。一途な努力ととれば褒められるべき側面かもしれないが、特に目的もなくただ黙々とこなすのは、やはり執着や固執だった。こんな子どもは育てにくかったに違いない。
 
子どものころはそれでも、理由を求められるようなことはなかったが、歳を重ねると、たくさんの場面で「どうして?」と尋ねられるようになった。
 
よく、ひとりで飲みに出かける。そもそも、お酒が好きで、また飲みの席も好きだから、まだ状況が許したころは、複数での飲み会にもよく参加した。けれど、ひとりでも飲みに行った。ひとり飲みはまだまだ市民権を得ていないのか、歳のせいか、性別のせいか、ともかくひとり飲みは「どうして?」の攻撃にあいやすい話題のひとつだった。
「どうして、人を誘わないの?」
「どうして、わざわざひとりなのに外で飲むの?」といった具合に。
どうして、も、こうして、もないというのが、正直なところだが、せっかく聞いてくれているのに、「理由なんてない」では、なんとなくいたたまれないないので、「ストレス解消かな」と答えてみたり、「ひとりが好き」と答えてみたりするが、どこかごまかしている感じがぬぐえない。ストレス解消なら、本や映画に没入する方が効果的だと自分で知っていたし、ひとりの時間は確かに好きだけど、誰かといることもまた同じくらいに好きだ。「どうして?」に困ってしまうのは例えばこんなときだ。
 
「どうして、好きなの?」
「どうして、付き合ってるの?」
「どうして、別れたの?」
この手の「どうして?」には、それが野次馬でも、まっすぐな疑問でも、話のつかみでも、答えが見つからなくてほとほと困ってしまう。
本音で話すなら、「ただなんとなく」になる。なんとなく好きになって、なんとなく付き合いたい気がして、でもなんとなくだめになってしまう。でもこれをそのまま言ってしまうと、「ひとり飲みが好きで、なんとなく、くっついたり離れたりを繰り返す人」となり、印象は最悪だ。だから、尋ねられると、相手の長所を並べてみたり、また逆に短所を並べてみたりする。でも、本当は、そんなチェックリストのような恋愛をしないし、「なんとなく」が一番ぴったりくると思っている。
 
看護学を専攻しているのに、文章を書いていることも、よく「どうして?」と尋ねられる。
確かに、聞きたくなる気持ちも分かる。いくら文章を書くことがいろんなことに生かせると言っても、読んでもらえる文章を書くことの必要性から遠いところにいるのは事実だ。文章が読みやすいに越したことはないが、看護記録を書くのに、感動を意識することはないし、いかにして読み手を引きつけるかを考える必要はない。引きつけなくても記録は最後まで読む。読んでもらわなきゃ困る。だから「どうして?」と尋ねられると、困ってしまう。
 
だけど、ふと自分の中でも「どうして?」と問いかけることがある。こんなことをしていていいのだろうか。やろうとしていることは、正しいのだろうか。理由もないのに、どうするつもりなのか。
 
自分に対する「どうして?」は、しばしば私を不安にし、ブレーキとなる。
好きなことをするときも、新しいことを始めるときも、さらには、好きな人にアプローチを仕掛けるときだって。
 
「魅力的だったのだ、どうしても」
 
不安にさいなまれたとき、自分にこう声をかける。
もう幼い頃のように、けがをするまでなにかに夢中になったり、座り込んで主張したりすることはしない。でも、私は私だ。こだわりも、執着も強く、理由なく夢中になり惹かれていくのだ。
ひとり飲みの理由なんてないけど、ちゃんとお酒は美味しいし、どうしても魅かれてしまう人にきっとまた出会う。魅力的な文章を読んで、書くことに惹かれた。それだけで、私を動かすのには十分だった。
 
もちろん、自分の中で理由を問うことは大切なことだと思う。その答えを探す作業も。でも、「どうして?」のブレーキを踏みすぎることはない。ときには、「魅力的だから」と突っぱねたっていいのだ。
 
魅力的だったのだ、どうしても。そう思うことには、まっすぐでいようと思う。これまでも、これからも。
 
 
 
 
***
 
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