メディアグランプリ

マイナーな時代がつまらないとは限らない


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記事:村人F(リーディング倶楽部)
 
 
1番好きな時代はいつですか?
そう聞かれると多くの方は戦国時代を思い浮かべるだろう。
織田信長などの三英傑を始め、武田信玄、上杉謙信など多くの有名武将が登場する時代だからだ。
実際ゲームやマンガ、多くのモチーフがここから生まれている。
 
一方で影の薄い時代も存在している。
室町幕府あたりの南北朝時代はその代表格だろう。
 
金閣寺や銀閣寺ができた時代だけど、その中身は足利尊氏の名前くらいしか覚えていないんじゃないだろうか。
そのマイナー具合から、そんなに触れるところのないつまらない時代だと思われている方も多いのではないか。
 
しかし、どうやらそんなことはないらしい。
週刊少年ジャンプで最近連載の始まった「逃げ上手の若君」
このマンガを読んだおかげでそう認識することができた。
 
本作の舞台は鎌倉幕府の崩壊直後、南北朝時代の始まりが舞台になっている。
そして主人公は新たな将軍、足利尊氏ではない。
彼に滅ぼされた北条家の唯一の生き残り北条時行だ。
時行はわずか8歳の少年であり、圧倒的な力やカリスマ性がある男ではない。
 
しかし、彼は逃げる時に最も輝く。
 
そう敵の集団に囲まれた、逃げるしかないような場面でこそ真価を発揮するのだ。
その逃げ上手ぶりは多くの仲間を惹きつけ、魅了する。
本作はそんな彼が英雄となる過程を示した物語である。
 
このマンガの舞台はマイナーの筆頭である南北朝時代だ。
しかも主役は足利尊氏ではない。
むしろ彼は一見立派な男に見えて腹に魔物を抱える巨悪として描かれている。
 
そうではなく彼に滅ぼされた北条家の時行を主人公とし、しかも逃げ上手を特徴としているのだ。
この誰も思いつかない目線で歴史を描くあたり、さすが暗殺教室やネウロなどコアなファンを魅了する作品を手掛けた松井優征先生だなと思う。
 
こうしてマンガを読んでみると、存在感のなかった南北朝時代が途端に面白くなるから不思議だ。
出てくる人物も足利尊氏だけではない。
 
信濃国で神と称され、時行を導く胡散臭い男、諏訪頼重。
日本史屈指の外道、五大院宗繁。
現代にまで名を残す弓道一派の創始者、小笠原貞宗。
1巻に出てくるだけでも個性豊かな面々が揃っている。
 
そして信濃国の風土も特徴的だ。
神や霊などの不思議な存在が人々に信じられ、そういった独特で神聖なものがまだ生き残れている時代。
そういった世界観がまた他の歴史物語にない魅力となっている。
 
こうやって作品を読んでいると、歴史の中に面白くない時代は1つもないのだなと実感させられる。
確かに時代の中で起こる出来事の量は差がある。
世の中が不安定で多くの英雄が生まれた戦国時代はたくさんの記録が残っているが、逆に貴族階級が優雅に遊んでいた平安時代なんかは文化の話ぐらいしか教科書に出てこない。
 
しかし、それら記録の少ない時代がつまらないと決めつけることはできないのだ。
なぜなら全ての時代には、必死に生きた人々がいるからだ。
 
各々の地域で自分の役割を一生懸命全うし、その積み重ねの上で今がある。
それらはピックアップしてみると平凡なように見えるかもしれない。
だけど、その人生はそれぞれ劇的なのだ。
今の僕たちと同じ人生を生きていたのだから。
 
そして、そういう人生が積み重なってできた時代は、それぞれに置いて独特な魅力を兼ね備える。
古墳時代、南北朝時代、その時代にしかない世界観が確かに存在するのだ。
その流れを調査すれば、誰も知らなかった面白い物語を見つけることもできる。
「逃げ上手の若君」は、まさにそのことを教えてくれる作品だった。
 
今も毎週ジャンプを購読しているが、その中でも本作は群を抜いて面白い。
松井先生らしい独特すぎるキャラクターもあるし、歴史考証に紐付けられた物語は学ぶ上でも役に立つ。
呪術廻戦やDr. STONEなど多くの作品が連載されているが、次のジャンプを担う作品と言っても過言じゃないと思う。
それくらい時行の逃げ方は魅力的だ。
 
この物語は歴史上では敗北者として描かれることになる北条家の末裔を主役としたものだ。
しかし、だからといって決して惨めな話ではない。
彼には力がないが、逃げる姿は誰よりも輝く。
それは人々に希望を与える光となるほどだ。
この英雄譚はこれまでの歴史物語の中では異質の存在と言っていい。
だからこそ新しい魅力を提供してくれるのである。
 
本作は最近連載が始まったばかりだから8月時点でまだ2巻しか出ていない。
そのため今から読み始めても余裕で間に合うし、2年後あたりに「あのマンガ1巻から注目していたんだ」と自慢できるに違いない。
 
マイナーな歴史に光を当てる逃げ上手の物語。
これは次世代のジャンプの柱になるマンガだ。
私も読者として楽しく読み続けていきたい。
 
 
 
 
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2021-08-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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