メディアグランプリ

じいじは呼び捨てではない、最大級のがんばり


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記事:ヨシダエイコ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ある日の「おたまじゃくし」にこんなやり取りが載っていた。
 
孫「ばーたん!」
祖母「はぁーい」
孫「じーたん!」
祖父「じーたん?じーちゃんと言えんのか!」
孫「じーじ」
 
「おたまじゃくし」とは、中日新聞の県内版(愛知県)に掲載される、子供同士、あるいは親御さんとの、面白く心温まるやり取りを50文字程度で綴った名物投稿コーナーである。この投稿は、おばあちゃんが1歳のお孫さんとのやりとりを投稿したもので、タイトルは、「呼び捨てで十分」。
 
かわいいお孫さんの突然の呼び捨てに、ちょっとだけ厳格であろうと予想されるおじいちゃんのとまどう姿が想像できて、思わずクスっと笑ってしまう。
 
でも、おじいちゃんには悲しまないでほしい。なぜなら、これは、お孫さんがおじいちゃんを目下の人と思って呼び捨てにしたわけではなく、むしろ、大好きなおじいちゃんに、ちょっとだけ成長した姿を見せた証なのだから。
 
呼び捨てが成長?
 
この「じいじ」という呼び捨ては、子供の言語習得に大きく関係している、興味深い現象なのだ。
 
子供は、個人差はあるものの、大体1歳頃から言葉らしきものを発するようになる。1語発話から2語発話、そして3語以上の発話へと、段階を追って言葉を習得していく。そして、音の習得についても段階がある。
 
子供は、簡単な音から難しい音へと、順番に獲得していくのだ。
 
「簡単な音と難しい音? アが難しくてイが簡単っていうこと? どちらも何の苦労もなく発声できるけど」
 
確かに、大人になってしまうと分からなくなる。しかし、人は初めからすべての音を等しく完全に言えたわけではないのだ。
 
普段は無意識のうちに出している声だが、口の中の動きに注目してみると、私達人間は、とても器用に唇や舌を使って色々な声を出していることに気がつくだろう。簡単な音と難しい音の違いは、ひとつには口の中のどの部分を使うかが関係してくる。口先を使う音は簡単で、喉の奥に行くにつれて、その音を出すのが難しくなっている。
 
一番口先を使う声は、「ま」「ぱ」「ば」など。これらの音は、最も口先である両唇を使っている。試しに発音してみて欲しい。その次は「た」。舌先を歯茎につけているのが分かるだろう。これは、両唇よりもちょっと奥の部分を使って出していることになる。次は「じ」。舌を歯茎よりも少し後ろの硬い部分の口蓋(こうがい)につけてるはず。「た」よりも「じ」のほうが口の奥を使っている。そして、その次は「ちゃ」「ち」。この音は、舌の少し後ろの部分を、先ほどよりも奥の口蓋につけて出す。ちなみに一番奥を使うのが「か」。これは喉の奥の方に、舌の後ろ部分を一瞬くっつけて出す。口先から喉の奥、というイメージはできただろうか。
 
あらためて、口先から喉の奥へという、ここで挙げた音声を順番に並べると、「ま」「ぱ」「ば」>「た」>「じ」>「ちゃ」>「か」となる。この順番が、そのまま簡単な音から難しい音の序列になる。
 
「でも簡単な音から獲得してるって、どうしてそんなこと分かるの?」
 
お母さんを表す世界中の言葉が「ま」で始まるものが多いのも、赤ちゃんにとって、一番出しやすい簡単な音だから、と考えると妙に納得ができるのではないだろうか。英語は「ママ」、イタリア語は「マンマ」、中国語は「マーマ」、フランス語は「マモン」。日本でも、まずは「ママ」と言うだろう。そして、「ぱ」も出しやすい音だから、お父さんを表す言葉はパで始まる言語が多い。とはいえ、自分の子供の最初の言葉が「パパ」ではなくて「ママ」で、大喜びしたお母さんと、肩をがっくり落とすお父さんを何人も見ている……。それは、別の話。
 
また、子どもがケーキのことを「ちぇーち」というのを聞いたことがあるだろうか。これも、偶然の言い間違いではない。「ケ」と「チェ」、「キ」と「チ」、どちらが口の奥の方を使う難しい音か分かるだろう。「ケ」や「キ」は難しい音だから、それよりも簡単な「ちぇ」「ち」で代用しているのである。子供たちの言い間違いの多くは、難しい音がまだ習得できていない段階に出てくる、子供ならではの規則的な間違いなのだ。
 
さて、おたまじゃくしのお孫さん。じーちゃんの「ちゃ」の音は、難しくてまだ言えないけれど、それでも、「た」よりは難しい「じ」で呼びかけたのだ。じーちゃんと呼んで欲しい、というおじいちゃんの期待に応えようと頑張ったのだ。「じーじ」は呼び捨てではない、お孫さんの言語習得の過程の中では最大級の頑張り。「じ」を2つ使えたことを褒めてあげてほしい。呼び捨てはお孫さんの成長の証なのだ。
 
子供の言葉の変化は、実に面白い。言い間違いは言い間違いではない。でたらめのようでいて、規則がある。子供は5歳頃までには、大人と同じ言語を習得すると言われている。4~5年という、大人の言葉になるまでのこのほんのわずかな期間は、この時期にしか出てこない宝物のような言葉の数々を拾い集めることができる神様からの贈り物のような時間だと思う。子育て中の皆さん、子供の言葉ひとつひとつ、ちょっと別の視点から観察してみると、子供の成長がまた楽しくなるのではないだろうか。
 
 
 
 
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2021-08-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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