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魂を燃やせ、さすれば君の手は緑に輝く


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:浦部光俊(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「わたし、緑の手になりたいんです」
クライアント先のチームリーダー松子さんから相談を受けた。
表情は真剣そのものだ。
 
園芸の世界では、花や木を育てるのが上手い人のことを
「緑の手」 を持った人と呼ぶ。
同じように見える種も、住んでいる地域や、季節、
その年の気象状況などによって、育ち方は違う。
マニュアルどおりに世話をしてもうまく育つとは限らない。
緑の手を持つ人は、個性の異なる植物の求めているものを瞬時に読み取り、
ベストなタイミングで与えることができる。
松子さんはその緑の手になりたいという。
 
と、いかにも園芸に通じているような書きぶりをしたが、
園芸に関して、ぼくは全くの素人。
専門は、会計コンサルタントである。
将来、どれくらいのお金が必要になりそうか、
今年の利益を確保するために、どんな施策をとればよいのか、
お客様から相談を受け提案をする。
提案だけではなく、お客様の現場に入り、
文字通り手を動かして、問題を一緒に解決していくこともある。
 
松子さんの会社とは、もう、5年もおつきあいをさせていただいている。
机をつきあわせて仕事をしていることもあり、雑談もよくする間柄
時には、会計以外の分野の相談を受ける。
 
とは言え、ぼくは園芸の話は全くわからない。
松子さんだって、それくらいは分かっているはずである。
緑の手になりたいとはいったいどういうことだろうか。
詳しく教えていただけますか、そう促すと松子さんは語り始めた。
「わたしの後輩の女の子、マリコちゃんについての相談なんです」
 
最近のマリコちゃんはどうも元気がない。
気になった松子さんが声をかけたところ、その第一声が
「もうわたし、仕事なんてどうでもいいんです。
一生懸命やってもどうせ評価されないし」
最近あった人事評価、その結果が期待外れでしょげ返っている。
 
有能なのは確か、仕事は正確だし、
コミュニケーションのタイミングもいい。
決して愛想がいいわけじゃないけれど、
それも仕事にかける真剣さゆえのこと。
松子さん曰く、もっと高く評価されるべき人材。
 
ただ、会社の人事評価には様々な要素が絡み合う。
男女の格差だって事実として存在するし、
去年はあの人、だから今年はこの人、
そんな「順番」 のようなものもある。
全くおかしい話なのだが、会社に噛みついたからって、
すぐに何かが解決するわけじゃない。
「だから、わたし、マリコちゃんの緑の手になりたいんです。
彼女はもっと伸びる子。わたし、そう信じているんです」
 
人事評価の結果を変えてあげられるわけじゃない。
でも、今みたいにしおれたまま放置しておいたら、本当に枯れてしまう。
マリコちゃんのような有能な人材を失うなんて会社にとっての損失。
だけど、それ以上にマリコちゃん本人にとっての損失。
もっているものを自分で腐らせてしまうなんて、本当にもったいない。
だから、わたしがマリコちゃんの中にあるきれいな花を咲かせてあげたい。
わたしにできること、ありませんか?
と、いうわけだ。
 
落ち込んでいる後輩のために一肌脱ぐ、
なるほど立派な考え、その気持ちはよく分かる。
ぼく自身、今まで20年近く会社という組織の中で、評価を受け、評価をしてきた。
人事評価の理不尽さは身にしみている。
その後、コンサルタントして独立し、たくさんの会社と関わる中で、
直接、間接に、人を評価する難しさを見せつけられてきた。
 
だから、松子さんのことも、マリコちゃんのこともなんとかしてあげたい。
ぼくにできるアドバイスはないものか、
2人ともがんばれと応援したくはなるのだが、
その一方でぼくの中で何かが違うと言っている。
「緑の手」 になりたいという松子さんの気持ちは尊い。
それは間違いない。ただ、それが本当の答えなのだろうか、
確信の持てなかったぼくは、「すこし時間をいただけますか」
松子さんにそう伝えた。
 
 
ぼくの感じた違和感の正体はいったい何だったのだろうか。
会社という組織の中では必ずしも「平等」 な評価が行われるわけじゃない。
ハッピーになる人もいれば、不満ばかりの人もいる。
それ自体は特に珍しいことではない。
だけど、そのことにしょぼくれていても、現実は変わらない。
だから、ということで、松子さんが出した答え、
それが、マリコちゃんの緑の手になって、魅力を引き出してあげること。
 
まるで、園芸の達人が、水や肥料を与えるように。
日当たりのよい場所に移動させ、雑草を抜いてあげ、
余計な芽、つぼみは間引いてあげる。
育てている植物がちゃんと花を咲かせるように、
これでもかというほど環境を整えてあげる。
至れり尽くせり、これだけやってもらえたら、
あとは、本人が思う存分やればいい、
仕事だっておもしろくやれるかもしれないし、
結果として人事評価の結果だって、よくなっていくのかもしれない。
マリコちゃんも、松子さんもハッピー、
めでたし、めでたし、なのだろうか。
 
窓の外に目をやると、近所の公園が見えた。
夏も真っ盛り、木々の緑が濃い。
よく手入れされているのだろう。
彼らはまさに、緑の手によって育てられた植物。
栄養を管理され、キチンと剪定されている。
 
ふと地面に目を移せば、そこにはたくさんの雑草。
抜いても抜いても、彼らはいつの間にか生えてくる。
どんなに踏みつけられても、
むしろ、それをエネルギーにするかのように立ち上がってくる。
雑草魂とはよく言ったもの、本当にしぶとい、たくましい、
そう思ったとき、緑の手に感じていた違和感の正体が見えた気がした。
 
人が困っているときに、手をさしのべる、
その考え方自体は間違っていないはずだ。
ただ、ここで考えなければならないのはその方法だ。
 
松子さんのいう緑の手のように、
相手の個性を引き出すため、こちらが一生懸命、世話をする。
「これが、あなたの成長ために必要な知識ですよ、勉強してね」
「こんな場所にいたら、あなたの力は伸びないわ。こっちにいったらどう」
まるで、公園の木々のように、きちんと手入れをしてあげる。
必要な栄養を与え、剪定し、成長を邪魔するものは取り除く。
こんな風にしてあげたら、確かに相手は伸びていくのかもしれない。
 
ただ思う。
そんな風に「整えられた」 環境にいつまでも居続けることは可能なのだろうか。
子供のうちならまだしも、いったん社会に出れば、
そこは良くも悪くも基本的には弱肉強食の世界。
生き抜くため、誰もが必死に自分の「場所」 を確保しようと競争している。
 
弱肉強食? 競争?
そんなのプロのスポーツ選手や、
一部のエリートビジネスパーソンだけの話でしょ、
ぼくたち「普通」 の人間はもっと優しい世界に生きているよ、
そういう人もいるかもしれない。
 
でも、考えてみて欲しい。
アルバイトの仕事にだって優劣があり、時給には差がつけられる。
ホームレスの人たちだって、より過ごしやすい場所をめぐり、
公園、地下道と場所の取り合いをしている。
それが現実、生きるということは、競争なのだ。勝負なのだ。
スポーツやビジネスの世界との違いは、
それが露骨なのか、オブラートに包まれているか、
ただそれだけだ。
 
だから、人間だって他の生き物と変わらない。
公園の雑草が、ちょっとした隙間に生えてくるかのように、
森の木々が、日の光を求め、少しでも高く成長するかのように、
誰もが、与えられた環境の中で、自分の持っているものを発揮して、
生き抜くために知恵を絞って懸命に生きている。
生きるために争っている。
そして、そこには「整えられた」 環境はない。
求められるのは、自分が持っている力を正確に把握する力、
その力を存分に生かせる環境を見抜く力だ。
自らの力で環境を「整える」 力と呼んでもいいのかもしれない。
 
実際のところ、雑草は雑草の生き方を貫いている。
名前を知られることもなく、たとえ誰かに踏みつけられようと、
地にはいつくばって、踏まれたことを糧にするかのように立ち上がる。
誰も好んで住まないような場所に、知らないうちに根を張り、
あっという間に仲間を増やし、環境を独占する。
まさに、彼らが自らの力で整え、手に入れた環境だ。
 
それは、高い木だって同じ。
彼らはとにかく上に伸びるしかないことをわかっている。
そこで負けたら、一生、日の目をみることはない。
だから、「高く伸びることができる」
この能力を精一杯駆使して生き抜いている。
 
自然界には、あれこれと世話をしてくれる緑の手など存在しない。
他の何かに依存して、成長するのを待っていたら、その先にあるのは死だけだ。
だから、雑草だって、高い木だって、自ら環境を整えて生きている。
彼らが選んだのは、自らが自らの緑の手になることなのだ。
 
そして、それは人間だって同じに違いない。
誰もが「成功」 したいと思っている。
でも、その成功は、決して公園の木になることではないはずだ。
緑の手に守られ、導かれて歩く道は楽かもしれない。
でも、所詮は誰かの基準で測られた成功、真の満足感は得られない。
 
本当の意味での成功とは、自分らしい色の花を咲かせること。
ひょっとすると、それは他人から見たら、ただの雑草なのかもしれない。
やせこけて、ひょろ長いだけの木なのかもしれない。
でも、他人の評価などは関係ない。
自分が自分らしくあるために、自分自身を深く振り返り、
進むべき道を見つけたとき、それに勝る成功はないはずだ。
そして、その道を見つけるために必要なのが、
自らの緑の手になることなのではないだろうか。
 
そのことに気づいたとき、松子さんへの回答のヒントが見えた気がした。
 
松子さんに必要なのは、マリコちゃんを引き上げてあげることではない。
緑の手になり、あれこれと世話をしてあげれば、
短期的にはマリコちゃんはハッピーかもしれない。
でも、その効果はきっと長くは続かないだろう。
うまくいかないことがあれば、
また、もとのふてくされたマリコちゃんに戻るだけだ。
 
大切なのは、マリコちゃんが自らの緑の手になる方法を伝えること。
本当の自分の進むべき道を、自らの方法で見つける方法
これこそが松子さんがマリコちゃんに伝えなければならないことなのだ。
 
でも、どうやって?
残念ながら、その点について、ぼくは明確な答えを持っていない。
でも、一つだけ言えることがある。
それは、「人は人の生きざまから学ぶことができる」 ということだ。
 
ぼく自身、過去を振り返ったとき、誰かから直接、こうした方がいい、
そんなアドバイスを受けたことがないわけではない。
ただ、それよりも圧倒的に影響を受けたのは、
上司、先輩、友人の働く姿、仕事に向かう姿勢だ。
 
お客様のために、ここまでやるのかといった姿
プロフェッショナルとして、真相を解明するまであきらめない姿
そこには単なる責任感という言葉では語りつくせない何かがあった。
こだわり、ゆずれない思い、とでもいうのだろうか、
「これが俺の生きざまなんだ」 そんな風に魂が熱く叫んでいた。
 
そして、そんな熱に触れるたび、ぼくは考えさせられた。
ぼくが絶対にゆずれないものとは何なのか。
これが俺の生きざまなんだと、言えるものは何なのか、と。
そして、自分の中の炎の正体を問い続けてきた結果、今のぼくがある。
 
だから、松子さんにはこう伝えようと思う。
 
あなたは、今のままでいい。
マリコちゃんのことを思う気持ちを持ち続け、
そのうえで、自分自身が今まで自分が信じてきた道を進めばいい。
何も語る必要はない。
成功することも、失敗することもあるだろう。
その姿をすべてマリコちゃんに見せてあげればいい。
 
そうすれば、マリコちゃんはきっとあなたの姿から何かを感じるはず。
あなたの中に燃える炎を見つけるはず。
そして、きっと自分自身に、こんな風に問うことになるだろう。
「これが松子さんの生きる道?
それじゃ、わたしの生きる道はなに?
わたしの魂は何て叫んでいる?」
そして、きっと動き出す。
自分色の花を咲かせようときっと自ら動き出す、
そう信じてみませんか、と。
 
松子さん、あなたなら、きっとできるはずです。
だって、あなたはこう言っていたじゃないですか。
「彼女はもっと伸びる子。わたし、そう信じているんです」
 
あなたが人を想う気持ち、それはあなたが人を信じている証(あかし)
そして、それこそが、あなたが自分で見つけた緑の手。
だから、松子さん、あなたならきっと信じてあげられるはず、
「マリコちゃんの手はきっと緑に染まり始める」
あなたならそう信じてあげられる、
ぼくはそう信じています。。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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