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残された時間のために残す家族のこと

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:村人F(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
僕の家庭事情は、現代では少し特殊だったかもしれない。
まず核家族ではなかった。
僕と弟、両親とおばあちゃん、おじいちゃん。
そんな昔ながらの構成だった。
 
もう1つあった特徴は、近所のおばあちゃんのたまり場だったことだ。
というのも、居間のスペースがちょうど人の集まるのにちょうどいいスペースだった。
そのうえお茶などを売る商店でもあったから、お菓子やお茶もタダで飲み放題。
しかも築100年は超えているのに、段差なしの完全バリアフリーで行けるわけだから、もうおばあちゃんたちにとってはいたれり付くせりの場所だったのである。
 
そんなんだったから家では毎日のように、おばあちゃん方がのほほんと会話していた。
この様子をどう思っていたかというと、まああんまり気分がいいものじゃなかった。
なぜならその団らんスペースの居間が、ちょうどゲームなどをやるテレビ部屋と地続きだったのだ。
そして僕もそこで遊んでいたから、ある意味ずっとおばあちゃんたちにその様子を見られる形になっていた。
 
考えてみてほしい。
自分がゲームしてゴロゴロくつろいでいる空間に、おばあちゃんがずっといるのである。
それに加えて近所のおばあちゃんが更にプラスされているのだ。
しかもちょくちょく話しかけられて、その対応もしないといけない。
だから正直にいって当時は嫌だった。
 
とはいえ振り返ってみると、あのおばあちゃんたちと会話することでご近所の雰囲気だったり、昔の様子だったりを色々学ぶことができてよかったのかなあと思う。
喉元をすぎればなんとやらって、こういうことを言うのかもしれない。
最近になって、そういうふうに昔を思い返していた。
 
そのきっかけになったのは、「ライティングゼミ」などを実施する天狼院書店が新たに企画した「ファミリー・レコーディング講座」だった。
この講座は文字通り、家族について記録するための技術を学ぶ講座だ。
カメラや文章、これらスキルを用いて家族をテーマにした作品を残しましょうということを行っている。
 
僕は家族でそういった作品を作るのが恥ずかしかったこともあって、申し込みをしていなかった。
しかし、あの講座の名前を聞いた時から、僕の中でゾワッとした感じがずっと残っている。
その理由はなにか。
このことを考えた時、おばあちゃんと触れ合える時間が、もはや数日という表現すらだいぶ盛っているくらいしか残っていないことに気づいたからだ。
 
おばあちゃんも今は施設に行ったため、自宅に戻るのは月に1回くらいしかない。
その上僕は実家から離れているので、そもそもお盆などそういう機会でしか帰ってこられないのだ。
だからそういうことを考えると、僕がおばあちゃんと話せる時間は本当にわずかしか残っていない。
そのことをまざまざと自覚させられたのである。
 
こう考えると、本当僕たちの時間認識は雑なものだなあと思う。
実家に住んでいた高校生までは、なんとなくずっとこんな感じの日々がずっと続くと思っていた。
毎日学校へ行き、部活かなんかに出て、家に帰りご飯を食べる。
こういった毎日が永遠に続くような錯覚をしていたかもしれない。
だからおばあちゃんに対する対応も雑になるわけだ。
めったに起きないようなことには集中してそりゃ取り組むわけだけど、それが日常になった途端ずさんになる。
人の生き方って、そういうところがどうしてもあると思う。
 
だけど実際は違う。
学生生活だって6年、3年、3年ごとに区切りがある。
当時は想像もできない長さだったけど、大人になって振り返ってみればもはや数秒にも満たない刹那な時間だ。
そして振り返る度にあの時もっとしっかりやっておけばよかった、もっと集中して毎日を生きればよかったなんて後悔をする。
代わり映えのない毎日がずっと続くなんて絶対にないという認識が、当時の僕には大きく欠けていたように思う。
 
それが今はどうだ。
あんなに集まっていたおばあちゃんたちは、もう僕の家を除いてみんな亡くなってしまった。
おばあちゃんも施設に行っているから、コロナ禍の今だとちゃんと調整しなければ電話することすらできない。
実家で会うことまで考えたら、時間は本当にわずかしか残っていない。
この事実に気づいたとき、「だからみんなもっと親孝行すればよかった」って後悔するんだなあって思った。
 
今の時代、僕みたいな田舎出身の人は半分くらい、他の都会に移住するようになっている。
だから多くの場合、実家に帰る期間は年数日、そんな具合の規模になっているだろう。
そして結婚なんかした日にはもっと短くなることだろう。
別々の県出身の夫婦だったら、お盆はこっち、正月はあっちみたいにやりくりしなきゃいけない。
そのうえ子どもを連れていくことも考えると、金額的に結構デカイ出費になるから中々手が出しづらくなってしまう。
そういうのもあって、大人になればなるほど、実家と関わることは困難になっているなと思う。
 
そうでなくても毎日が忙しいのだ。
仕事もそう、子どももそう。
家族サービスやら残業やらなんやらで毎日が精一杯で、もはや実家のことなんて考える暇すらないと言っていいだろう。
 
そうして毎日を生きているうちに、突然両親がいなくなる。
 
そして気づくのだろう。
ずっと続くと思っていた生活は全然永遠なんかじゃなかったんだと。
 
そして後悔するのだろう。
どうしてもっと親孝行ができなかったのかと。
多分この思いは現代を生きる全ての人に通じることだと思う。
 
これを少しでも和らげるにはどうすればよいのだろう。
ひょっとしたらその解決策は「ファミリーレコーディング」かもしれない。
なぜなら残そうと思うとき、否応なく「残されたもの」のことを考えるからだ。
たとえばネタを探すために家族をあれこれ調べるわけだけど、そうすると年齢の話が絶対に入ってくる。
そして、これを意識すれば同時に平均寿命も頭によぎる。
この時、いつかやろうと思っていた親孝行の時間が、実はほとんど残されていなかったことを自覚するわけだ。
こういう具合に、残すことを意識することで、あやふやになっていた残された期間もはっきりとした輪郭を帯びるのである。
そうすれば、家族に対する意識が大きく変わることになるだろう。
 
そして、具体的な親孝行の手段としても、ファミリーレコーディング講座で行う作品作りは最高のものかもしれない。
ここで取り上げる作品は、大切な家族についての記録だ。
そのためのインタビューやら写真撮影やらを課題として行っていくわけだが、その時の会話は、間違いなくこれまで経験したことのないほど密になるはずなのだ。
 
たとえば取材の前情報として、色々な調査をしなければいけない。
その中でどんなことをしていたのか、どんな友達がいたのか、今までなんとなくしか認識していなかった生きた道を明確化することができる。
そしてそれを頭の中に踏まえた上で、いい記事を書くための会話をインタビューとして行うわけだ。
その時に行う話は普段じゃ絶対にありえないほど強度を持つ。
 
そして協力してくれた家族と完成した作品を共有するとき、また同じように会話が生まれるのである。
そして相手も自分も、お互いがこんな立派な作品を生み出せるくらいに思っていたんだと再認識できる。
だから、こういった時間を生み出してくれるファミリーレコーディング講座は最高の親孝行の手段と言っていいものなのだろう。
 
しかし、このことに今の段階で気づけた僕は幸運かもしれない。
なぜなら孝行したい両親、おばあちゃんがまだ元気でいてくれているからだ。
他の人を見てみると、残された時間が少なかったことに気づくのは、本当にわずかな期間だけになってしまったタイミングとなることが多いように思う。
そのため、気づいたときには時すでに遅し。
こういった後悔をすることになるのだろう。
 
だけど、僕は「ファミリー・レコーディング講座」でそのことを認識できた。
そして相手に対峙するときも、意識して大事に過ごそうと思える。
これだけでも凄い親孝行なんじゃないだろうか。
普段の生活をなんとなく過ごすことが多い現代において、共に過ごす時間を意識的に大事にする。
もうそれだけで価値のあることになっているのだ。
 
そして、この時間を通してお互いに実感することができる。
 
あんなに小さかったあの子が、こんな素敵な作品を作れるくらい大きくなったのだなあ。
私を育てるためにこんなに一生懸命頑張ってくれたのだなあ。
 
記録された作品を元に、相手のことを深く考える。
こういった時間ほど、幸せなことは他にないと思う。
それに気づかせてくれただけで、「ファミリー・レコーディング講座」は本当に素晴らしい企画なんだなって思った。
 
そしてこのファミリーレコーディングをするという意識は、講座を受けなくても各々で可能なことでもある。
毎日の生活を記録するように意識する。
これにより誰でも今日から実践することができるのだ。
だから作品を残すなんて恥ずかしいと思っている僕みたいな場合でも、この考え方さえできれば今よりずっといい親孝行ができるはずだ。
 
でもやっぱり講座を受けてみようかな。
そこで教えてくれるスキルは、相手のことをもっと深く知るための手法だ。
お金を稼ぐことだけを目的としたセミナーが多い中で、この内容は血の通った温かい技術を教えてくれるなあと思う。
そういった意味でも、とても素敵だ。
 
もうすぐ久々に帰省することができる。
こんな大変な時期なのに許可してくれた実家の両親、近所の人には本当感謝の気持ちでいっぱいだ。
だから、僕も「ファミリーレコーディング」の意識をもって触れ合いたい。
こういった思いこそ、お土産みたいなもので表現できない親孝行だと思う。
 
残された時間はもう少しだけかもしれないけれど、その1日1日を素敵な記録として残せるように大事に過ごしていきたい。
待っていてね、みんな。
 
 
 
 
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2021-08-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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