メディアグランプリ

日本縦断の代替手段としての250冊


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記事:ひら(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「本を1年間で250冊読む、今から!」
 
年間250冊、ひと月当たりにすれば21冊程度。
本気の読書家なら、当然のようにこなす量なのかもしれないが、月に6冊がせいぜいだった私にとっては一大決心だった。
なにがなんでもあの男の口を塞いでやる、という執念に燃えていた。
 
大学2年の頃、友人のある男がヒッチハイカーになった。
高校時代から付き合いのある男で、大学入学時点ではそんな素振りをいっさい見せていなかったにもかかわらず、2年になるやいなや、突如として〝かぶれた〟。
突如ヒッチハイクに〝かぶれた〟彼は、何十台もの車にお世話になりながら四国から北海道まで、日本を縦断した。それも四国-北海道間の往復全旅程をヒッチハイクでやってのけた。
今思えば普通にすごい。
 
その縦断旅ののち、ヒッチハイカーと2人で飲む機会があった。
ヒッチハイクやればいいのに。絶対やだ。楽しのに。こわいから無理。
2人ともお酒が入っていたし、笑いながら話していたはずだが、きっと私の目は笑っていなかった。
極めつけに放たれた「ヒッチハイクしたら人生観かわるよ」という発言で私に火がついた。
ヒッチハイクをした自身に満足している彼と、ヒッチハイクをした自身に満足している彼にいらだちながらも彼のような行動力はない自分がイヤになる私。
完全に妬みといらだちでやけくそになっていた私は、人がやってなさそうなことをやるしかないと決意した。
インドア大学生なりのささやかな復讐劇のはじまりだった。
 
居酒屋を出てヒッチハイカーと別れ、酔いのまわった頭で、人がやってなさそうなことを懸命にひねり出した。
ヒッチハイクなんかしなくても、私の大学生活は充実させられるはず……。
好きなことを突き詰める以外にない……。
ならば本を浴びるほど読んでやろう、と決めた。
大学2年だった当時、私の周囲ではインターンの話題がちらほら出始めていた。就活準備もインターン申込も何もしていなかった私は内心焦っていたので、このネタ学生時代のエピソードトークのひとつにもなるし、とややよこしまな考えがあったことはいうまでもない。
 
読むと決めたら、人気の小説・ビジネス書の新刊書はもちろんのこと、講義で教授が紹介する本、古典名作系、手当たり次第に読んだ。24年の人生で、支出に占める書籍費が最も高かった時期は間違いなくこの1年のはずだ。仕送りとわずかなバイト代から書籍費をひねり出すのは至難の業で、真っ先に食費が削られ、図書館と古本屋には無意識で体が動くくらいに通った。
 
大学の講義と課題とバイト2つと学生団体とサークルと友達と恋人と、本。
一大決心の数週間後、あ、死ぬ、と思った。
本の読みすぎで死んだ人間は聞いたことがない大丈夫と言い聞かせ、睡眠時間を削ったり、翌日の1限を寝坊したりしながらも本を読み続けていた。当時付き合っていた恋人には、急に連絡の頻度が落ちたことで随分と怒られた。
最初は恐ろしいまでの執念で読んでいたはずが、1ヶ月を過ぎるころには習慣化され、ちゃんと1限に出席し、友達と旅行に行き、バイトのシフトを増やしながらも大量の本を読めるようになった。
教授の紹介する本まで手当たり次第に読んだおかげで、当然のことながら講義の理解力が格段に上がった。一方で、寝坊の続いた火曜1限の文学論はぎりぎり低空飛行での単位取得となった。恋人にはやはりずっと怒られていた。
 
1年間で読めたのは、238冊だった。
 
執念で続けた250冊復讐劇はとてつもない充実感を私にあたえた。
ヒッチハイカーの方はといえば、私に復讐されているとも知るわけもなく、長期の休みになるとふらりと出かけ、西に行ったかと思えば北を目指していたりした。
結果として、ヒッチハイカーは今も私の一番の友人の1人だし、この復讐以降私は本の沼から抜けられず、大学4年間ですさまじい量の本を読むこととなった。
なお、私のよこしまな考えは一切あてにならず、どんなに本を読んでいても就活で面接官と話に花が咲く事はなかった。
 
日本縦断は日本縦断だし、250冊は250冊。
それはそれ、これはこれ。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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