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認められたいんじゃない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊藤瞳子(ライティング・ゼミ「超」通信コース)
 
 
私は皮膚科医になってになって14年目。クリニックを開業して5年目になる。
 
7か月くらいの赤ちゃんを抱っこして、お母さんが診察室に入ってくる。
事前に書いてもらった問診票をみて、どんな症状なのかをさっと確認する。
 
場所 顔、腕、足
症状 赤いブツブツ
いつから 今朝から
 
そして抱っこされている赤ちゃんの顔には人差し指くらいの大きさの赤いブツブツが4個ほどあり、両腕にも同じ赤いブツブツがまた、4個ほど見えた。
「あらー沢山刺されちゃったんですね。虫刺されですね。」というと
「外にも出ていませんし、虫になんて刺されていません!朝起きたらあかくなっていたんです!」と怒り出した。
私も困ってしまった。
見るからに虫刺されなのに、虫になんて刺されていないと、どうして言い切れるのだろう。
前日に保育園に行っている間に、刺されて翌日腫れてくることもあるし、蚊が部屋に入ってきてしまって、夜中に刺されることだってないとは言えないのに。
私の娘が庭にでた途端、数匹の蚊に寄ってたかって血を吸われている様子をみたこともあるし、何か所も虫に刺されている患者さんも沢山みてきた。私はそのようなことをお母さんに説明し、薬の処方をして診察を終わりにした。
 
数日後にクリニックのGoogleに☆1の口コミをつけられた。
「子供が一晩の間に多数の虫刺されができ、あまりの数の多さに受診しました。診察室に入った途端にただの虫刺されですね、と患部も診ることもせずにいきなり言われた」と書かれた。
あの患者さんだな、とすぐわかった。
患部を見て、虫刺されと診断したのに、なぜ「診ることもせずにいきなり言われた」なんて書くのだろう。理解に苦しんだ。
皮膚科医にとっての「診る」は文字通り「見る」なのだ。聴診器は使わない。
 
東京の大学病院で働いていた私は、いつも医者不足の中で働いていた。
なので仕事をしているだけで、周りの先生たちから感謝されていたし、必要とされていた。
人手が足りないことがわかっていたので、他の先生達の助けになりたいと、産後も2か月で職場復帰した。
いつも求められ、感謝されて仕事をしていた。
させてもらっていた。
そういう環境で仕事ができていたのだ。
やめるときも送別会を開いてもらった。
今思えば、ありがたいと思う。
 
結婚した主人の実家は東北の田舎で、町には皮膚科の開業医が一人もいないと聞いていた。主人の実家の方で皮膚科として開業してくれれば地元の人も助かるよ、そう言ってもらって、私は内科医の主人と一緒に田舎で開業することにした。
私には皮膚科医として、患者さんから必要とされているところがあるんだ。
せっかく取った医師免許なのだから、この資格はもっと沢山の患者さんのために使うべきなんだ。
東京での生活に未練があったが、そう言い聞かせて、5年前に田舎にやってきた。
 
「今日は県立病院に皮膚科の先生が来ていない日だから、ここが開いていて助かりました」
「いつも隣町まで行くのが遠かったので、ここに皮膚科ができて助かります」
そのように言ってもらえることもある。
「そう言ってもらえると私も嬉しいです」
そう答える。
今でもたまにそのような声をかけてもらえると、励みになる。
最初は1日50人程度だった患者さんも、徐々に増えてきた。
5年たって、最近では1日100人が当たり前になってきた。
多いときは150人ほどになることもある。
 
診察人数が増えるにつれ、問題もでてきた。
患者さん達が2時間も待つような日もでてきたのだ。
電子カルテのパソコンには今待っている患者さんの人数が表示される。
24人。
そんな表示を診ると、焦ってしまう。
これだけの人数を診るには一人にかける診察時間を短くしなければいけない。
一目みて診断できるような虫刺されは、必然的に早く診察を終えることができる患者さんの部類に入る。
「虫刺されですね」そう言うと、
「なんの虫ですか?」と聞かれることがある。
しかし、虫刺された痕をみて、虫の種類がわかるわけではない。
私は虫博士ではないのだ。
虫の種類がわかったところに何になるのだろう。
それで治療法が変わるわけではないのだ。
ある時ふと思いついて
「虫の種類によって出す薬が変わるわけではないんです。刺された痕の腫れ具合を見て薬の強さを選んでいますから」
そう言ってみると、患者さんは
「そうなんですね!」と納得した様子。
刺された虫の種類によって薬の選択にが変わるのかとと思って気にしていたのかな。
「虫刺されでも、あせもでも、乾燥が原因の湿疹でも、原因によって薬が変わるわけではなくて、皮膚の炎症の強さをみて、薬の強さを変えているだけなので、虫刺されでなくてもこの薬で治りますよ。」そう言ってみた。
実際そうなのだ。
「あせもにも塗っていいんですか!?」
患者さんは初めて知った、という顔をしている。
そうだったのか。
診断が違ったら薬が変わるのではないか、そう思って、患者さんたちは原因をこんなに追及してきたのか。
もちろん原因によって薬が変わることもある。感染症が原因の時は抗生物質を使ったり、カビに効く薬を選択したりする。しかし湿疹は薬の強さを調節して塗ればいいのだ。
 
口コミを書いたお母さんにもそこまで説明すれば納得されたかもしれない。
今になってはそう思ったりする。
 
それにしても、Googleの☆1の口コミには恐ろしい力がある。
これだけ患者さんが来ていて、必要とされていると感じていながらも、本当にここにきて仕事していることに意味なんてあるのか?自分でなくてもいいのでは。東京で働いてればよかった。と後悔させられるくらいのパンチ力だ。
患者さん自体が怖くなってきた。
この人、どういう目で私の診察する姿を見ているんだろう。
そう思いながら仕事をしていると、仕事さえも嫌になってくる。
 
この気持ちはいったいなんなのだ。
 
承認欲求なのか?
必要とされて働きたい。
仕事をして感謝されたい。
結局のところ、承認欲求というものに振り回されているのだろうか。
 
人に認められることを目標にしてはいけない。
人のことは自分でコントロールできないから。
自分ができるようになったこと、自分が満足できる結果を出すこと目的にするようにするべき。
そう本に書いてあったのを読んで、他人からの評価は気にしないようにしよう。
そう言い聞かせてみる。
そうは言っても気になるものは気になる。
モヤモヤしたままずっと仕事をしてきた。
金メダリストに浴びせられる誹謗中傷の記事を自分と重ねながら
やっぱりモヤモヤしていた。
 
先日テレビアナウンサーの藤井貴彦さんの「伝える準備」という本を読んだ。
「人生とは誤解との戦いである」
冒頭の1行でハッとする。
そうだ、自分は「誤解されたくない」のだ、と。
「認めてほしい」というよりは「誤解されたくない」のだ。
モヤモヤがすっと晴れてきた。
だったら、誤解されないようにすればいいのだ。
 
病気に関しては、処方する薬の副作用や、その後の症状の変化、その対処法など、伝えるべきことが本当は沢山あるが、短い時間では伝えきれない。
患者さんもあとから不安に思うこともあるだろう。
その時にあとからでも読んで回答が得られるような、患者さん向けの注意書きの紙をもっと充実させようと思った。
説明動画を作って、そのQRコードを書いた紙を渡すのもいいかもしれない。
 
「人生とは誤解との戦い」
本当にそうだと思う。
世の中のトラブルの原因は誤解から始まっていることがほとんどのように思える。
なにかトラブルがあったとき、原因になった誤解はなかったか、そう考えれば、伝えきれなかった自分に非があったこと、誤解させてしまったことを申し訳なく思えてくる。
 
著者である藤井貴彦さんは、「伝える前に伝わり方を想像する」のだそうだ。
私も想像力は大事だな、と感じる。
小さな子供がやけどをしてくる時、多くは想像しきれなかったために起こってしまった、防げたかもしれない事故のことが多い。
お母さんがヘアアイロンを使った後、子供の手の届くところに置きっぱなしにしてしまって、赤ちゃんが指にやけどを負ったり、花火をするときに、サンダルを履かせてしまい、火花で足にやけどを負ってくることが多い。
問題回避するためには、起こりうる問題を予想しないといけない。
 
最悪の事態を予想し、そうならないように、事前に準備しておくこと。
これはスキルだ。
想像力を働かせ、準備すれば防げる。
 
「人に認められたい」という承認欲求は、行動を起こす原動力になってくれる。
悪いことではないと思うが、その気持ちに振り回されると、時として、自分に向かってくる刃にもなる。
 
自分が世の中に何を提供できるのか
自分のエネルギーをどんな形で社会に流すのか
どうすれば誤解なく、そのエネルギーが伝わるのか
 
想像力を働かせるのだ
誤解を防ぐのだ
そうすればやるべきことは自ずとわかってくる
 
 
 
 
***
 
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2021-08-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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