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「好きを仕事に」と「仕事を好きに」


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記事:なべぞう(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「システムエンジニアってことは、理系?」
「学生時代から、その分野を専攻していたの?」
 
私が初対面の人に自分の職業について話すとき、このようなことを聞かれることが多い。私は新卒で入社してから6年以上、IT業界でシステムエンジニアとして働いている。だが実は、私は学生時代の専攻が法学の文系人間である。特にITに興味があったわけでもない。どちらかというと、PCの操作やITなどを苦手としていたタイプの人間である。
 
そんな私がなぜIT業界に入ったかというと、「それしかなかったから」である。特にITが好きだったわけではなく、学生時代に専攻していた法律など他に好きなことはいろいろあったのだが、ITを仕事にせざるを得なかったのだ。世の中では、好きなことを仕事にした人もいる一方で、私はそうではない生き方を選んだ。だが結果的には、それでも自分でこの選んだ仕事に面白さを見出して、この仕事を好きになって、ここまでやってきている。
 
私は大学在学時の就職活動では、文系なので事務系や営業系の職種を中心に選考を受けていた。しかし、このような職種では、話すことなどのコミュニケーション能力が比較的重視されるため、話すのがあまり得意ではない私は面接に苦戦し、選考にほとんど通らなかった。
 
選考に通過しないまま、大学卒業までの期間が迫ってきていた。人によっては「就職浪人も視野に入れて事務系の職種や営業系の職種の選考を受かるまで受け続ける」という選択肢もあるだろうが、私は卒業までに内定を得て、早く社会人になって経験を積みたかった。
 
そこで私は、選考を受ける職種を変更することにした。比較的求人数の多かったシステムエンジニアにいくつか応募した。すると、今まで文系の職種で面接選考が通らなかったのが嘘のように、ほとんどの企業の選考を通過することができた。専門性の高い仕事のため、それほど高いコミュニケーション能力は求められず、それよりも勉強に取り組む姿勢などが評価の対象として重視された。私の場合、大学時代に自身の専攻分野の勉強に熱心に取り組んだ姿勢などが評価され、無事卒業までに内定を得ることができた。こうして、私はシステムエンジニアとして就職することになった。
 
「私の人生、この黒い画面を見続けて終わるの?」
 
入社してすぐの頃、業務に直結する実践的な研修を受け、絶望的な気持ちになった。「システムエンジニアはPCに向かう仕事」というイメージはあったものの、ここまで地味な仕事だったとは……。専用のツールを使い、コンピュータ言語を黒い画面にひたすら入力していく、という仕事内容。ずっと見続けている黒い画面に、気持ちまで暗くなってくる。これを定年まで続けるのか。
 
「やっぱり、別の業界に行くべきだったかな」
 
入社して2カ月、私は早くも第2新卒向けの転職サイトを眺めるようになっていた。やはり大学時代に妥協せず、文系の職種を受かるまで受け続けるべきだったか。でも、受け続けたとしても果たして通るのだろうか。
 
というのも私は、自分の努力ではどうにもならない障害を抱えている。そのため人前で話すのが得意ではなく、「面接受け」があまり良くないのだ。この障害さえなければ、本当の自分を出すことができ、人前で上手く話せて、希望する職種の面接に通っていたはず。だが、障害がなくならない限り、それらの職種の選考に通ることは事実上不可能なのだ。そう思うと、悔しくてならなかった。
 
そして同時に、別の思いも浮かんでくる。それならば、障害がなければ入らなかったはずの、このIT業界でシステムエンジニアとして成功すればよいのではないか。もともとITに苦手意識のある私がこの業界に入ったのも、何かの縁であり、自分にしかできない視点を活かすチャンスでもある。
 
そう思うと、仕事に向き合う姿勢が変わり、意欲が湧いてくるようになった。IT関連の資格の勉強も積極的にするようになった。自分がもともとITを苦手としていたので、その視点を活かし、ITが苦手な人の目線に立ってシステム開発することを心掛けた。自分なりの視点や考えを持って取り組むことができるこの仕事に面白さを見出せるようになった。その結果、社内で若手社員の個人賞を受賞することもできた。気が付けば、それしか選択肢がなくて就いたこの仕事を好きになっていた。
 
私はこのように、「好きを仕事に」するのではなく「仕事を好きに」なる生き方を選択して、社会人7年目になった。正確には、障害のため希望する職種は面接で通らなかったため、「好きを仕事にすることができなかった」といえる。だがそれでも、縁があって入ったこの業界・この職種で仕事に面白さを見出して今までやってきている。
 
世の中には、最初から好きなことを仕事にした人、一度は別の業界に就職したが転職して好きなことを仕事にした人など、様々な人がいる。もちろん、それも生き方の選択肢の一つとして尊重されるべきだろう。ただ、思うことがある。雑誌などメディアで取り上げられるのは、転職して好きなことを仕事にした人が多く、私のように「好きを仕事にしなかった」「好きを仕事にできなかった」人も多くいるはずなのに、そのような人にはなかなかスポットが当たることがない。もっとスポットが当たってもいいのに……。
 
私は、「好きを仕事に」ではなく「仕事を好きに」なる生き方を選択してよかったと思うことがある。それは、いい意味で「こんなはずじゃなかった」と思えることである。好きなことを仕事にした場合、その仕事に対して良いイメージを持っているはずであり、実際に仕事をしてみて何か悪い面を知ってしまうと、がっかりすることが考えられる。減点方式の考え方である。だが、特に好きではないことを仕事にした場合、その仕事に対して良くも悪くも先入観がないため、がっかりすることがない。そして逆に、何か興味深い発見があると「あれ、意外と面白い」と思うことができる。いい意味での「こんなはずじゃなかった」である。加点方式なのである。私の例でいえば、ITが苦手な人の視点を活かしたシステム開発ができることなどである。
 
もし、「好きを仕事にできなった」人で、今後の仕事に迷っている人がいたら、転職して好きなことを仕事にするのも、もちろん、一つの手だと思う。一方で、もう一つの選択肢として、何かの縁で選んだ今の仕事を好きになるのもありではないだろうか。自分なりの視点を取り入れて取り組めば「あれ、意外と面白い」と思えることがあるかもしれないし、いい意味での「こんなはずじゃなかった」に出会えるかもしれない。
 
 
 
 
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2021-08-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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