メディアグランプリ

リンダは女になった


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記事:Hisanari Yonebayashi(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
映画館のように大きな観音開きのドアを開けると眩いばかりの光に思わず足が止まった。
 
「いらっしゃいませー!」
 
太高い声の大合唱だ。
 
僕はキラキラと輝く万華鏡の中に吸い込まれていくように真っ赤な革のソファーに促された。
そこは1年ぶりに訪れたニューハーフクラブ。
顔ぶれは多少変わってしまったようだが、座ると中央にぶら下がった大きなミラーボールが時折強烈な光を飛ばしてくるのは相変わらずだ。
 
「やだー! おひさしぶりー!」
 
と、隣に座ったのがリンダ。
彼女と初めて会ったのは3年前、その時、彼女はまだ21歳だった。
とっても華奢で可憐な少女のような美少年だった。まだ伸びきっていない髪をかき上げながら慣れぬ手つきで水割りを作る姿が印象に残っている。
 
そして、3年後のリンダは24歳になっていた。少しだけあどけなさを残しているが、キラキラと輝くとっても可愛くて綺麗な女性になっていた。
彼女は細くて長い指でグラスを持ち上げると、僕の好みの量で水割りを作った。
 
「久しぶりですよね。お元気でしたか?」
 
リンダは自分のドリンクをおねだりすると座り直し、僕の膝に手を置き、真正面から僕を見つめた。
 
「私、変わったと思わない?」
 
「ピアスが増えたね」
 
「鋭いけど、そこじゃないっ!」
 
「うーん、なんだろ?」
 
「私ねぇ……。アレもコレも海外で取っ払ってきたの!! リンダは正真正銘の女になりましたー!」
 
「うわぁ! すごい!! 良かったねぇ!!」
 
「はい! 人生で最高の喜びでした!!」
 
リンダの笑顔が弾けた。
 
リンダが入店してしばらくたち、髪がショートボブになった頃、お店終わりに食事に行ったことがある。
彼女は旅行が大好きで専門学校を卒業後、大手の旅行代理店に就職が決まり、大きな大きな夢を抱えて上京してきたのである。
就職3年目を迎え、やりたい仕事に確実に近づいてはいたのだけど、男でいることに耐えられなくなったそうである。
髪も伸ばせず、毎日ダーク系のスーツを着て通勤する自分の姿がビルのガラスに映る度にめまいがしたそうだ。
やっぱり私は女になって、大好きな男の人に告白したい!
そんな思いがドンドン大きくなって「女になるっ!」リンダは決めたのだった。
 
「私たちは人を好きになったって告白すらできないんですよ。だって普通の男の人は男から好きって言われたら引いちゃいますよね。だから切ない思いをたっくさん胸にしまってきてるんです」
 
なるほど。告白したのにふられてつらいなんていうのは贅沢な悩みのようだ。
彼女たちには告白することにすら大きな壁が立ちはだかっているのである。
 
「私たちの感受性は日本海溝より深いのよ!」
 
一緒にいたママの言葉が笑いを誘った。
 
帰りのタクシーはリンダと二人きりになった。
 
「本当は夜の仕事はしたくないんです。でも、ママはとってもいい人だし、ここには私のことを本当に理解してくれる人たちがたくさんいるんです」
 
リンダは幼い頃からの話を始めた。
 
母が与えてくれる電車や車の描いてある服は大嫌いだった。
家では小学生の頃はいつもお姉ちゃんのお下がりを着ていて、そのときの心地よさに自分は少し人と違うことに気づき始めたという。
そして、中学生になったときにバレーボール部にいた先輩が大好きになった。
運動なんて苦手なのに先輩に近づきたくてバレーボール部に入部した。
カッコイイ先輩だったから女子からは大人気で3年生になったとき先輩に彼女ができた。
バレンタインにチョコレートをあげることも、告白なんて当然できっこない。
 
「先輩の笑顔をずっと見ていたいって思ってた。ずっと、ずっと好きだったの」
 
酔いが回り眠気が襲ってきたのだろう。
そう言ったリンダは鼻をすすりながら目を閉じた。
 
激しい曲が大音響で流れてきた。
中座したリンダがドレスを纏いステージで踊っている。まるで熱帯魚の群れを見ているようだ。ステージに立つリンダは自信に満ち溢れていた。
細長く折られたお札が次々とダンサーの水着に挟み込まれていく。
 
ショータイムが終わり、リンダが戻ってきた。
「ねぇねぇ、旅行代理業務やりませんか? 私を雇ってくださいよ! そこで絶対いい仕事するっ! 美しくなりたい、より女として磨きをかけたい。という気持ちは誰よりもあるんだから、美しくなる海外エステツアーなんて、最高の企画立てますよ!」
 
多様な性が話題となり、LGBTを理解するための授業が中学校でも始まった。
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字をとったこの言葉も良く耳にするようになった。
外見と心のずれは本人と話せばなんの抵抗も無く受け入れられる。
リンダは性転換する前から女性だった。
男らしく、女らしくは過去ものに、言葉は人間らしくに代わり、彼氏、彼女という言葉もパートナーという言葉に置き換えられていくのだろう。
性別を変え、力強く生きているリンダを見ていると自分が見上げていた壁がどれだけ低い壁なのかを痛感させられる。
リンダが就活してくれるような会社を作れるくらい頑張らなければ!
 
僕はリンダに聞いた。
 
「念願の女性になった。じゃあ、これからの目標は?」
 
「とりあえず普通のOLになりたい」
 
そう言ったリンダの横顔は眩しいくらい素敵な女性だった。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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