メディアグランプリ

オタクがチェックすべき、新たな聖地巡礼スポット


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大村沙織(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
目の前のエレベーターのドアが開かれ、私は足を踏み出した。辿り着いたフロアは28階。下に敷かれている絨毯はふかふかで、暑い中歩いてきた私の足を柔らかく受け止めてくれた。表面上は平静を装っているが、内心は緊張と期待で1歩歩くごとに舞い上がってしまいそうだった。歩き方は不自然ではないだろうか?
「こちらになります」
前を歩く案内人に導かれ、ある部屋の前に立ち止まる。一見すると他の部屋と代わり映えのしない普通のドアに見える。しかしこのドアの向こうの空間こそ、私がここに来た理由だ。案内人がドアを開け、中に入るように促された。逸る気持ちを抑えるため、唾を飲み込んでから、数歩踏み込む。
 
白を基調にした壁。
すっきりと配置された木目調の家具。
若葉色のカバーがかけられ、整えられたベッド。
それらを横目に、私は部屋の突き当りにある窓に駆け寄る。目の前には新宿のビル群やピカピカの新国立競技場も見える。
「素晴らしい景色ですね」
「でしょう? 僕もこの景色が一番好きなんです」
思わず漏れてしまった声に、丁寧に答えてくれる案内人。同意を得られて、何だか嬉しくなってしまう。彼は部屋の中の設備の説明を簡単にすると、「ごゆっくりおくつろぎください」の言葉と丁寧なお辞儀を残して部屋を出ていった。ようやく緊張から解放されて落ち着いた私は、窓辺にあったソファに深々と座り込む。そしてこの場所、ホテルニューオータニに来てしまったことをいよいよ実感するのだった。どんなに安くても1泊2万円はくだらないこのホテルに来たのは、深い理由があった。しばらくソファで休んだ後、持参した一眼レフカメラを荷物から取り出す。撮るのは景色ではない。今は景色なんてどうでも良い。私は額装され、壁に飾られた1枚の絵に向かってシャッターを切った。何枚か写真を撮った後、改めてその絵を見る。「言の葉の庭」の文字と共に、藤棚の下で傘をさす男女が並ぶそのビジュアル。満足いくまでそれを眺めた後、冷蔵庫から缶ビールと板チョコを出した。プルトップを開けてビールで喉を潤し、チョコをつまむ。映画のヒロインの雪野が新宿御苑の東屋でやっていたように―。
 
それを見つけてしまったのは全くの偶然だった。インターネットを何気なく見ていて飛び込んできたニュース。「ホテルニューオータニで『言の葉の庭』コラボレーションプラン開始」の文字に目を見張った。「言の葉の庭」というのは「君の名は。」が世界中で大ヒットとなった新海誠監督の作品の1つで、私が彼の作品の中で最も好きな作品だ。最初に映画館に観に行ったときに衝撃を受けて、それ以来何度も繰り返し観ている。年の離れた男女が新宿御苑を舞台に繰り広げる恋模様が切なくもあり、たまらない作品だ。ストーリー以外に特に素晴らしいのが、梅雨から初夏にかけての緑と雨の描写の美しさだ。木道を打つ雨の雫の動きがあまりにリアルで美しくて、感動したのは今でも忘れられない。きっと彼の後の作品「天気の子」にはこのときの経験やノウハウが存分に生かされているのだろう。
閑話休題。ホテルニューオータニでは「シネマティック・ステイ」という企画で、様々な映画の世界観に合わせて部屋を提供し、作品に浸るというサービスを実施しているらしい。今回その作品として「言の葉の庭」が選ばれたようだ。大ヒットした「君の名は。」ではなく、あえて「言の葉の庭」を選定した担当者に勝手に拍手を送った。部屋は1日1組限定で、1週間はシネマティック・ステイ向けの仕様になるとのことだった。部屋には作品のセル画やビジュアルが飾られ、食事も作品のストーリーに合わせたオリジナルのものが出てくるという。更に作品の美術画集もついてくるという豪華プランに、オタクの血が騒いだ。あの美しい世界の美術画集を手元に持つことができ、かつあの世界観にはまれるなら是非とも投資したいと思った。ところが、価格は朝夕の食事付きで4万円前後。さすがはニューオータニ、うかうかした気分では泊まらせてくれない。軽く数時間は迷った。しかし数時間後、プランの空き状況を確認して1日だけ空白があるのを見た瞬間、心は決まった。
「きっとこの部屋は私を待っていた、そうに違いない」
半ば勢いで予約ボタンを押して、当日を迎えた私の舞い上がりっぷりは冒頭の通りである。
 
缶ビールとチョコレートですっかり雪野気分になったその後も、私は「言の葉の庭」の世界を思いっきり満喫した。壁に飾られたセル画の写真を撮りまくり、窓から見えるビル群を見ながら新宿御苑に思いを馳せ、雪野と孝雄の気持ちを妄想した。美術画集を見ながらアニメでは一瞬で過ぎ去ってしまったシーンへの想いを読んで、そのこだわりに涙ぐんだりしてしまった。この日のために、ちゃんと映画のDVDを観て予習してきて良かった! 小説も持参し、部屋にいる間に美術画集と一緒に読んだ。この作品を世に出してくれた新海監督や映画スタッフの皆さん、この作品でシネマティック・ステイを企画し、実行に移してくださったホテルニューオータニの皆さんに思わず深い感謝の気持ちを捧げてしまった。何の疑問もなく自然にそのような感情が湧いてくるほど、素晴らしい空間だった。翌日も結局私はチェックアウト時間ぎりぎりまでその部屋に滞在した。
部屋を出るときはディズニーランドから出るときのような、現実に戻る感覚があった。あの感覚を思い出すと今でも胸が締め付けられる思いだ。もう「言の葉の庭」でのシネマティック・ステイを楽しむチャンスはないかもしれない。そう思うと、あの空間を味わって本当に良かったと、心の底から思える。そして今回の体験で、ホテルもオタクの「聖地巡礼スポット」になりうることに気づいてしまった。オタクの皆さん、次の「聖地巡礼」の機会には作品の舞台だけでなく、ホテルもチェックしてみてはいかがだろうか? そこでは100%充実した時間を過ごせることを固く保証いたします。
 
 
 
 
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2021-08-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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