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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:内藤 睦(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「あのね、保育園行きたくないの……」
娘の小さな声の告白に、「やっぱりそうだったか」と思う。
 
1か月ほど前から、5歳の娘は朝食時に「お腹が痛い」と訴えるようになった。元々、食が細く、特に朝食はなかなか進まないタイプだった。私は朝から「お腹空いた」とパクパク食べられる方なのでよくわからないのだが、旦那が「朝はあまり食べられない」と軽めの朝食を希望するタイプなので「わかるわかる」と至極同情していた。
腹痛は登園時にも続き、先生に「お腹痛い」と訴える。私も気になりながら子どもをお願いして保育園を後にする。しかし、日中に呼び出されることは一度もなく、お迎え時には娘は機嫌よく遊んでいて、先生にも「注意してましたがじきに大丈夫になったみたいで、元気でしたよ」と報告を受ける日が続いた。先生も私も「一時的なものだろう」と思っていた。
 
しかし登園時の「お腹が痛い」は続き、先生に「お腹痛い」と朝だけでなく昼食の頃も訴えるようになってきた。2週間くらいその状態が続いたので、小児科に行ったところ、診察した先生は「特に問題はないですけどね……」と首をかしげ、「年長さんでいろいろ頑張っているからかもしれませんね。消化剤1週間分出しておきましょうか」ということになった。
 
その粉薬は美味しいようで、娘は毎日朝食前にきちんと「お薬飲みたい」とねだってくる。
でも様子を聞くと、薬を飲んでもやっぱり腹痛は完全にはなくなっていないと言うことだった。
ちょっと精神的なものかな……とは思った。たまに「給食の苦手なものがなかなか食べられなくて先生に言われるのがイヤ」とか「お友達の○○ちゃんに『遊ぼ』って言ったのに『後で』って言われた」などと言っていたので気にはなっていた。
でも、そこから「保育園イヤだ」にはつながらなかったので、気なるもののそれをどうこうしようとはしなかった。私も仕事があるので、ずっとつき合っていることも難しい。
 
でも、消化剤を飲んでも治らず、数回目の通院の後、ついに娘は「保育園に行くのがイヤだ」ということを言ってきたのだった。
まあ、そうだよね。年長さんになると、いろいろ敏感に感じて、イヤなこといろいろ出てくるよね、と思う。
 
しかし、イヤと言う娘に「もうあと2日で保育園の夏休みだから。そうしたら、一日中家で一緒に遊ぼう。今日はプールもあるから、行って遊んでおいで」と精いっぱい励まして、私は保育園を後にした。ごめんね、今日の仕事は休むわけにはいかない。
 
娘の気持ちをぼーっと考えながら、仕事先の京都市内に向かって車を走らせる。私は郊外に住んでいて、前は電車で行っていた大阪や京都の繁華街にも、最近は車で行く。
 
自分自身は、小さい頃はストレスを感じないタイプだった。夏生まれで体も大きく、先生に言われることは一通り素早くこなしたし、気が強く喋りも早かったのでイヤなことを言われても言い返した。「私は強い」と自信満々だった。
が、今となっては他人への関心が薄く、他の人の気持ちがわからないイヤな奴だったと思う。
娘は正反対で、早生まれで小柄。いわゆる女子力が高くて、共感力があり、他人の気持ちを考えて行動できる子だ。家で我がままを言うことがあっても、私が厳しく言うとサッと態度を変えて神妙になったり、「お母さん大好き」といったこちらの気を引く言葉を絶妙のタイミングで言ったりできる。
そんな我が子が、もう早、微妙な人間関係で悩んでいる。しかし、子どもの頃鈍感すぎた私に何が言える?
 
京都市内は車とバスとタクシーで賑やかだ。大きな通りはバスと路駐の車が多い。右車線を走っていても、慣れた車はスピーディーに左車線を走り、停まったバスや路駐の車を右車線に膨らんで避けるので、気が抜けない。碁盤の目の道は細いし、自転車や歩きの人が車のすぐ脇を通っていく。
私は運転がヘタだ。十分注意をしながら、様々な角度に気を配りながら、周りの車と適度にスピードを合わせながら、車を進める。いろんなことに気をつけないといけないので疲れる。でも気をつけ過ぎるくらいが丁度だと思う。まあ、子どもの頃のことを考えたら、自分のことを謙虚に見られるようにはなったのだろう。
とはいうものの、周囲の車両や通行人に気を取られて譲りすぎると、自分の行きたいところに行けなかったり、行くのに時間がかかり過ぎたりする。それではつまらない。
 
そこで私はハッとした。娘も私も、同じだと。
私たちは、自分という車を運転している。周りをいろんな車や通行人が通っていく。カーブなどで急に抜かしていく車や、強引に割り込んでくる車に、なんとなくびくついてしまう。でも、びくついてスピードを緩めたり道を譲ってばかりだと、自分の目指す方向になかなか進めない。ストレスも溜まる。
ルールは守った上で、他の車や通行人と適度な距離感を保ちながら、自分の行きたい方向へ進むことをしっかり意思表示することが大切なのだ。運転がヘタなのは仕方ない。ヘタなりに迷惑をかけないように注意し、時には「すみませーん、ここで曲がりたかったんです」と車線変更するために他の車と車の間にうまく入り込むような、やや強引な自己主張も必要だろう。
自己主張をしてばかりだと、自分はよくても周りがたびたび迷惑するかもしれない。周りに道を譲ってばかりだと、自分のストレスが溜まる。適度に自己主張し、適度に相手を許す。自分とペースの合わない車が縦横無尽に車線変更したり抜いたりしていった時は「私がヘタだってことかな」と心がざわつくが、「まあそういう人もいるんだな」とあまり気にしないことだ。
そうやって、周りとうまく折り合いをつけながら、自分は自分の行きたい方向へ、自分らしいスピードで走っていく。
 
私はかつて自信家のイヤな子だったが、いろいろ経験を積んでそれなりに他人のことを考えながら自己主張できるようになった。
娘は、今は他人のことを考えて自己主張がなかなかできないかもしれないが、いろいろ経験を積んで、自分らしく走れるようになってくれたらいい。
時には立ち止まってもいい。私のように時間はかかるかもしれないけれど。
 
車を長時間走らせていくと、前や隣りをなんだか同じくらいのペースで似たような方向に向かって走っていく車に、なんとなく親近感が湧く。
家族とは、そのようになんとなく一緒の方向に向かって走っている車たちなのだろう。
娘の車を代わりに運転することではなく、娘の運転にいろいろ口出すことではなく、傍らを一緒に走り、声をかけ、娘の気持ちを思う。私にできることはそれではないだろうか。
 
やがて、娘と走る方向が変わる時が来るだろう。でも今は、娘の運転能力が、技術が、意思表示できる力が育まれるよう、精いっぱい並走しよう。
 
自分には行きたい先がある。なんとなく走っていると言えばそうだけれど、やっぱりどこか「こんな感じ」という目的地に向かって、日々走っている。
そうやって、娘の側を一緒に走る。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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