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心を潤すムーミン谷の世界観


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:みつしまひかる(ライティング・ゼミ「超」通信コース)
 
 
なんだかここのところ心がカサカサする。
友人にも会えない、遊びにも行けない、そんな1年半が経過したのだから当然だ。
同じ関西圏の家族に会うのでさえちょっとためらってしまう。両親は高齢であるし、県をまたいでしまうから。
そんな中、盆休みでせっかく家族で集まって墓参りに行くことになったのに、なぜこんな暑い時期に集まろうとするのか、熱中症になるリスクまでかけて頭悪すぎじゃないか、などと恒例行事にまでケチをつけて両親を黙らせてしまった。
 
何もそんな言い方しなくてもいいのに。
そう思っても口に出した言葉は撤回できない。たとえ撤回すると言っても、もう遅い。
すでに相手の心をひっかいてしまったのだから。
非難するにしても言いようがある。伝え方が悪すぎる。最低限の配慮もない。
 
心に落ち着きがない。
我ながら不甲斐ないなぁと感じると、改めて触れたくなるのがムーミンの世界だ。
心が落ち着くことを「癒される」という。確かにそのニュアンスはよくわかる。でも、より近いイメージは「潤う」という言葉のように思う。
 
僕には小さい頃からアトピーがある。空気も乾燥し、部屋の中でも暖房をつける冬ではひどくなりがちで、決まって皮膚が乾燥しており、かゆくなるとそのかゆみを打ち消そうとひっかいて、でもそのひっかきがさらなるかゆみを引き起こす、というまさに悪循環に悩まされてきた。
つまりは刺激に対して過敏になっているのだ。
ではどうやってこのかゆみに対処するかというと、ステロイド剤と保湿剤を用いるのだ。
 
今回焦点を当てたいのはいわゆる「くすり」のステロイド剤ではなく、保湿剤のほうだ。
ステロイド剤には抗炎症作用があり、アトピーのかゆみを抑えるのに強力な効果を発揮する。非常にありがたい。
しかし強力であるあまりに、長期的に用いるのは体にとって良くない。
そこで効果を発揮するのが保湿剤だ。
その名の通り、乾燥を防ぎ、皮膚の潤いを保つクリームである。
ごく単純化すると、油の膜を皮膚に張ることで、水分の蒸発を防ぐのである。
 
勘の良い方なら僕が言いたいことに気づいたかもしれない。
そう、ムーミンの世界はこの保湿剤にとても近い。
ステロイド剤ほど強力なわけではないけれど、蒸発してしまいそうな水分、つまりは他者への思いやりや寛容の気持ちを、心に留める効果があるのだ。
要するにムーミンの世界には、心を潤す効果があるのだ。
本記事では、同じように縁がなかった方にこの素晴らしい作品を紹介したい。
 
これまでに複数回、ムーミンは映像化されている。
白状すると僕は年季の入ったファンではない。あえて言おう、にわかファンだ。
2019年に海外で制作された「ムーミン谷のなかまたち」を観てから、ムーミンの世界にハマったのだからペーペーである。
しかーし!
30代後半男性でもハマる魅力がある、と言ったら少し興味が湧いてくるのではないだろうか?
 
本アニメはこれまでの2Dアニメと異なり、フルCGの3Dアニメとして制作され、しかも4K技術による豊かな色彩感や空気感が表現されている。これまでに2つのシリーズが制作されており、日本では、NHK BS4Kで放送されていた。
何といっても、この出来が素晴らしい。
これまでムーミンの世界に触れたことがない方はもちろん、過去のアニメ作品をご存じの方にも、自信をもってオススメできる。
 
映像のすばらしさは実際に観ていただくとして、印象的かつ代表的なストーリー、個性のはっきりしたキャラクター、そのセリフと振る舞いなどを紹介しながら、魅力を語りたい。
まずは主人公のムーミントロール(日本では通常ムーミンと言われる)と、その親友スナフキンとの間のエピソード「春のしらべ」だ。
 
ムーミン一家は冬の間は冬眠し、春になると目覚める。
スナフキンは春から秋までムーミン谷に滞在し、冬になるとムーミン谷を去り、また春になるとやってくる。
音楽を愛する彼は「春のしらべ」を毎年つくり、それをハーモニカで吹いて春の訪れを告げる。
まるで鳥のように。
 
ムーミントロールは目覚めるなりすぐにスナフキンの訪問を待ちわびる。彼の冬の冒険談と、新しい「春のしらべ」を早く聴きたくてたまらないのだ。
ガールフレンドのスノークのお嬢さんが会いに来てもうわの空で、花でひっぱたかれてしまう。
 
待ちに待ったその日を今か今かとはやる心。
どことなく、子どもの頃の夏休みのワクワク感、あるいは遠足の日などを思い出さないだろうか?
この描写だけでもスナフキンに対するあふれんばかりの友情が伝わってくる。
 
だがしかし、対するスナフキンはドライである。
例年通り、彼はムーミン谷へ向かっていた。しかし心の準備ができていない……新しい「春のしらべ」もできていない。
だから、道の途中でムーミントロール(ひどいことに彼の見間違いで、ただの残雪だった)と会っても、「春のしらべ」がまだできてないから今夜は曲と向き合いたいと言ってさっさと去っていく。
 
そりゃないよスナフキン。
 
そう思いながらも彼に共感を覚えてしまう。
なぜなら僕個人はスナフキンに似ているところがあるからだ。
 
自分のことは自分だけでできてしまう(そうなるようにしてきたからこそだけれど)。
すると他者を基本的に必要としない。だから群れない。
加えて強いこだわりがあり、久々の親友との再会であっても、曲作りを優先してしまう。
THEマイペース人間……。
そんなわけで自戒を込めつつも、僕は彼に自分自身を投影してしまう。
 
さて、今の話だけ聞くとただただスナフキンって勝手だよね、となるだろうが、話はここでは終わらない。
ここからがムーミンの世界の奥深いところだ。
 
いつもどおり森の中でテントを張り、焚火をしながら夕食をする彼。
いよいよ曲作りに向き合おうとするが、ちっちゃな生き物につきまとわれてしまい集中できない。
その生き物はスナフキンのことをうわさで聞いていて彼にあこがれており、ハーモニカをふいてほしいし、自分には名前がないので名前をつけてほしいという。
 
しかし、スナフキンは「誰かを崇拝しすぎると自由になれないぞ」と言い放つ。
名言キター!
でもこの場面では、明らかな拒否の姿勢だ。
 
なんだ、やっぱりイヤな奴じゃん。
そう思ったあなた。違うんです。
 
「頼むからほっといてくれ」
そう言いながら一度はテントに引っ込むスナフキン。
あきらめて去ろうとするその生き物に、名前を提案するのだ。
そして、ハーモニカもふいてやるという。
 
そうなのだ。
彼はひとりの時間を確保することを大事にしている。けれど、他者を思いやる心もまた持っている。
ちゃんと振り返って思い直すことができる男なのだ。
生憎、名前を付けられたその生き物は興奮し、どこかへ去ってしまっているのだけれど。
 
その晩、急に彼は孤独を感じ、悪夢にうなされ、ムーミントロールに会いたくなる気持ちが(ようやく)募る。
目覚めた彼のそばには、昨夜名前を付けた生き物がいた。
別れの挨拶をして、ムーミン谷へ向かうことを告げる。
 
「さぁて。今年の春のしらべは一味違うぞ。期待で始まり、春の悲しみもあるけど、何より、一人歩きの孤独を楽しめる、大きな喜びがあるから」
彼には孤独をも楽しめる心の余裕が生まれ、そのために曲作りのひらめきも得たのだ。
ハーモニカで新しい「春のしらべ」を吹きながら、彼は親友の元へと足を進める。
 
僕はこのエピソードを観るまで、スナフキンの性格をあまり知らなかった。
マイペースで、自分の思うことを貫く半面、他者には深く関わろうとしない、自由な芸術家。そう思っていた。
もちろん、これらは正しい。先のエピソードからも明らかだ。
でも、それだけではない。
彼は期待した以上に賢明で、気遣いができ、他者の大切さを感じられる人だったのだ。
このエピソードの他にも、彼は自分自身のマイペースな振る舞いで、きっと親友のムーミントロールに寂しい思いをさせたであろうことを想像するシーンもある。
 
この話を観て、僕はスナフキンのことをもっと好きになった。
自分もこうでありたいとそう思った。
 
彼のこのキャラクターは、他の有名な物語を見回しても、非常にユニークではないだろうか?
いたとして、それはきっと彼の後に生まれたキャラクターだろう。
 
彼には他にも、「自分のしたいことを知ってるって、大事だよな(原作:「大切なのは、自分のしたいことがなにかを、わかってるってことだよ」)」という名ゼリフがある。
これは彼の家族、リトルミイの振る舞いに向けられたセリフだ。
 
リトルミイは一見、非常に自分勝手で、口が悪くて意地悪な小さな女の子だ。しかもエネルギーに満ちている。
友達になりたいと思う人はほぼいないだろう。
でも、彼女をよくよく知ると、実は他者を尊重しようという態度に思えてくる。
彼女は「なんで自己主張しないの?」と他者を非難するのだ。
みんな自己主張するべきだと。
 
もちろんこれは意見の押しつけだが、ここでいう”自己”とは相手のこと。
みんな、自分自身を大事にすべきだというメッセージといっていいだろう。
 
最後にちゃんと主人公であるムーミントロールと両親についても触れておこう。
正直なところ、先に述べたスナフキンの言葉と比較すると、そこまで印象的なセリフは少ないし、怖がりで気が少し小さいところはドラえもんでいうのび太や、ピーナッツでいうチャーリー・ブラウンにも似ているため、主人公として望ましい性格かというと肯定は難しい。リトルミイには部屋を乗っ取られてさえいるし……
 
それでも自発的に冒険しにいくところからは、のび太よりよっぽど主人公らしい。
彼には頼りになるドラえもんはいないし、ズルをしようというタイプでもないのだから。
 
そして一番の長所は、気やさしく、友達や家族思いであるところだと思う。
両親、とりわけムーミンママからの愛情に100%自信を持っているところは印象深い。そんなことを言える子どもなんているだろうか…… 今の不安定な時代を鑑みると非常に重要な資質であるように感じる。とはいえママも実際すさまじく、とある不思議なアイテムによって姿がすっかり変わりはてたムーミントロールを、ママだけはその仕草だけで、唯一愛する息子であることを見極めることができる。
 
ムーミンパパは小説家(空想家)で、冒険家で働きもしない困った父親だが、「父と息子は苦難をともにするものだ」と認識しており、ムーミントロールとの絆の深さが感じられる。
また、ガールフレンドであるスノークのお嬢さんは、あかるくておしゃれ好きだが少々気分屋で付き合うのは大変なのだが、ムーミントロールは気遣いを欠かさず、彼女の愛情をしっかりと受け止めているし、彼女は彼女でそれをちゃんと感じ取っている。
 
キャラクターとストーリーをごく簡単に紹介したが、お互いに心を配る様が感じ取れたのではないだろうか。
 
新作アニメにはさらに魅力がある。
作者トーベ・ヤンソンの作画にも、過去の映像化作品も観たところそれぞれに味があるけれど、登場人物の造形は、僕からすると今回のシリーズがダントツで愛らしい。
 
まず、登場人物はみんな大きな目をしており、感情にあわせて形が大きく変わる。とても表情豊かだ。
驚いたときはまん丸に、あきれたときは半眼に、怒っているときは目尻が上がり、うっとりしているときは目尻が下がる。目線は細やかに動き、自然にまばたきが入っているし、びっくりしたときに黒目の部分がかすかに揺れている。
対照的に、口はあまり描かれないのだけれど、全く違和感なく感情がわかる。
さらに、しっぽ、姿勢、手や指づかいといった仕草が非常に丁寧で、お互いがお互いを思いやる心が、手をつないだりハグをしたりする動きで十二分に伝わってくる。こういったスキンシップの見事な表現は、この作品の大きな特徴だと思う。特にアニメでこの細やかさは類がないのではないだろうか。
 
もちろん他にも見どころは満載だ。
登場人物のモフモフ感や洋服などの質感もさることながら、精緻にデザインされた建物とインテリア。
 
物語が進むにつれて四季が移り変わる様を、あふれる色彩で描いたフルCGの映像美に目を奪われる。
春は鮮烈な緑、秋は目の醒めるような紅葉が表現されている。
場面をさらに彩る声優陣の見事な芝居と、それを効果的にする音楽。
これらの要素が互いに高め合う傑作だ。
 
観ているとゆったりとした気分に包まれ、そして気づく。
最近の自分が他者への思いやりに欠け、また日々を楽しもうとする心構えを失っていることに。
だからこそ、一旦リセットして、日々を丁寧に生きなければと改めて思うきっかけをくれる。
 
Netflix やAmazonのprime videoでも第1シーズンを観ることができるので、興味を持たれた方はぜひ観ていただきたい。Blu-rayなら第2シーズンも観ることができる。そして、どうやら本場では3つ目の制作に入っているようだ。
冒頭のスナフキンを待つムーミントロールのように、待ち遠しくてたまらない。
 
ここで、1つ僕の好きなムーミンママの言葉を紹介しておく。
どしゃ降りの夜の翌日、ムーミンやしきがすっかり水につかってしまい、あたらしいおうちを探すことになったときのセリフである。
しょんぼりするムーミントロールに、ムーミンママはやさしくこういった。
「残念よね、あんなにすてきな家だったのに。でもいろいろあるのが人生。危険な目に遭わずに来る人もいるけど、それはそれでつまらない人生だって思わない?」
 
先日、8月9日は作者トーベ・ヤンソンの誕生日であり、「ムーミンの日」として知られる。
発祥の地フィンランドにはムーミンの世界を再現したテーマパーク「ムーミンバレーパーク」があるのだが、フィンランド以外に初となる「ムーミンバレーパーク」は、実は日本の埼玉県にあるのだ。
 
この日は朝から埼玉県の「ムーミンバレーパーク」より「ムーミンバレーTV」がYoutubeライブにて放映されており、つい見入ってしまった。
この記事を読んだあなたも来年、「ムーミンバレーTV」を観ているか、あるいは現地にいるかもしれない。
 
まずはこの夏、ムーミン谷で心をたっぷりと潤してみてはいかがだろうか?
心がカラカラに乾いているなら、今のあなたに一番必要かもしれないから。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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