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我が子が発達障害かもしれないと言われたら


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:宮村柚衣(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「息子さんは発達障害かもしれませんね」
 
思ってもない言葉に私は絶句した。
 
 
 
私は自分の子ども達が待機児童になったことをきっかけに、娘が2歳、息子が1歳の頃にスカイツリーが見下ろす街で小さな保育園を開園した。
 
園庭はなく、25坪しかない住居用マンションの一角を使った園児19名の小さな小さな保育園だ。
 
右も左も分からず飛び込んだ保育の世界は、想像を絶するほど大変だったで子ども達を抱えて、朝も昼も晩も働いた。
 
そんな開園当初の馬車馬期が過ぎた頃。
保育士さん達との確執や赤字経営を乗り越え、ちょっと一息ついた頃。
 
「息子くんの発達が他の子に比べて遅いように思います。一度、専門機関へ行ってみたらどうでしょうか?」
 
3人の息子を育て上げた肝っ玉かぁちゃんの園長が、珍しく神妙な顔で切り出した。息子は人懐っこく、誰にでも笑顔を振りまくような子だった。チリチリの天然パーマが特徴で、食べてしまいたいくらいに可愛かった。
 
「えっ、息子のこと?」
 
寝耳に水の出来事だった私は、キョトンとして応えた。
 
「息子くんの保育園での様子を見ていると、もしかしたら、発達障害かもしれません」
 
発・達・障・害?
 
初めて聞く言葉だったが、何となく良い言葉ではないような気がした。
 
言葉が遅く、2歳になっても全く言葉を話さなかった息子。
気に入らないことがあるとレストランでも電車の中でも大きな声で泣き叫ぶ息子。
保育園の帰り道、毎日、片道15分の距離を全力疾走する息子。
 
今、思い返せばシグナルは沢山あった。しかし、当時の私は全く気付かなかった。1歳違いのお姉ちゃんの発達とは明らかに違っていた。しかし、男の子は手がかかるのね、くらいにしか思っていなかったのだ。
 
園長に言われて私は直ぐにスマホを引っ張り出した。
 
子ども達が楽しそうに遊ぶ声が響き渡る明るい園内。その片隅にある薄暗い3畳ほどの事務室の端にうずくまり、ザワザワする心と共に「発達障害 子ども」と打ち込んだのを覚えている。
 
【発達障害】
発達障害は、生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態です。そのため、養育者が育児の悩みを抱えたり、子どもが生きづらさを感じたりすることもあります。
発達障害には、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習症(学習障害)、チック症、吃音などが含まれます。
(厚生労働省のHPより抜粋)
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html
 
障害? 息子が? いや、違うでしょ。別に育児の悩みとかないし。
保育士さん達も心配性やな。息子、全然“普通”やし。
 
楽しそうに狭い園内を暴走族のように走り回る息子をみて、私はそう思った。
 
息子の事は私が1番解っている。
そう、だから、大丈夫。息子は発達障害じゃない。
 
私は勝手にそう思った。いや、今、思い返すとそう思いたかったのだ。
 
私は園長の助言には従わず、区の専門機関へ息子を連れて行かなかった。
 
 
 
それから1ヶ月後……。
 
子ども達を夫に預けて、私は起業家達が集まる勉強会に参加していた。
 
そこには、子どもの発達の専門家も参加していた。御年60歳程の細身の紳士だった。話し方は穏やかで、目尻が下がった顔は私に安心感を与えた。
 
その紳士は日本で初めて発達障害を持つ子ども達のための通信制高校を創った人だった。自身の息子さんにも発達障害があり、息子さんが通うために設立したと話してくれた。
 
「うちの子どもも発達障害かもしれない、って保育士さんに言われたんですよ」
 
勉強会後の懇親会で、私はワインを片手に紳士に話しかけた。
 
「息子さんは発達障害かもしれませんね」
 
家や保育園での息子の様子、園長の話などを私から聞いた後に紳士は言った。
 
「早めに専門機関に連れて行ってあげたほうがいい」
 
「えっ、でも、全然“普通”なんです。息子は」
 
「発達障害はパッとみて判る障害ではないのです。発達障害の子どもは、自分の得意・不得意の凸凹(でこぼこ)と、その子どもが過ごす環境や周囲の人とのかかわりのミスマッチから、社会生活に困難が発生することがあります」
 
「周囲の環境?」
 
「そうです。凸凹ゆえの困難さは、環境を調整し、特性に合わせた方法で関わり教育していくことで、軽減されると言われています。お子さんと周囲の人がその子の個性・能力・希望など理解した上で、その子に合ったサポートをしていくことが大切なのです」
 
朝の息子の登園風景が目に浮かんだ。決まった先生以外の受け入れを泣きわめいて全身で拒否する息子。
ウチは小さな保育園のため、一人一人の特性に合わせて保育をしてくれている。先生達は、コミュニケーションを取りながら息子が大泣きしないように特定の先生が受け入れを担当出来る工夫をしてくれていた。
 
しかし、これが大型の保育園だったらどうだろう? きっと、毎朝、特定の先生が受け入れをすることは難しいだろう。
 
「凸凹は年齢とともに成長していく部分もあり、必ずしも不変的な障害とはいい切れません。定型発達の子が日常生活で自然と身につけるスキルやコミュニケーション能力がある部分だけ抜け落ちているようなイメージです。発達障害を見逃すと、その子どもが自分の特性に合わない対応を周りからされ、2次障害を引き起こす可能性が高くなってしまいます」
 
「2次障害?」
 
「はい。発達障害のある子どもは、得意なことと不得意なことの凸凹が大きいため、できないことがあると本人の努力不足などと誤解されてしまうことがあります。また、ほかの人が当たり前のようにできることができないと言って、叱責を受けたり否定的な評価をされてしまったりすることがあります。そのような体験が子どもの自己肯定感を下げ、ストレスや集団からの孤立を招き、精神疾患やひきこもりなどの2次障害を発症しやすくなると考えられているのです」
 
「えっ! じゃあ、もし息子が発達障害だったら引きこもりになる可能性が高いってことですか?」
 
「様々な要因があるため一概には言えませんが、定型発達の子どもよりは可能性は高いでしょう。だからこそ、小さい頃からその子の特性に合った環境設定をしてあげることが重要なのです。そのためにはまず、発達障害を持つ子どもを早期に発見してあげることが最も重要になります」
 
ひと昔前までは、発達障害の子ども達は“ちょっと変わった子ども”と認識されていたという。授業中に立ち歩いたり、先生の話を全く聞いていなかったり、子供同士で遊んでいるとすぐに喧嘩になったりする子。クラスに1人か2人はいた“あの子”だ。
 
そう、“あの子”も“普通”の子だった。ただ、他の子とちょっと違うだけの変わった所のある“普通”の子だった。
 
そして、私もそういう子だった……。
 
次の日……。
 
私は区の専門機関である『児童発達支援センター』に電話をし、息子の発達検査の予約を取った。
 
今、出来る事を息子にしてあげたい。私はそう思ったのだ。
 
検査結果、2歳6ヶ月の息子は発達障害の1種である、知的障害の無い自閉症スペクトラム(ASD)と診断された。
 
【自閉症スペクトラム(ASD)】
人との関係性を適切に築くことや情緒的なやりとり等、社会性の発達が遅れる発達障害である。空気を読み、相手の気持ちや意図を読み取ることが苦手なため、集団活動で孤立しやすいのが特徴だ。興味や活動が限定された行動、強いこだわりがあって融通がきかない、字義通りの言語使用などが特徴。日本社会では生きにくい。
(脳の学校HPより抜粋)
https://www.nonogakko.com/hir/
 
人懐っこい息子は、てっきり発達障害の中でも注意欠如・多動症(ADHD)だと思っていたのでビックリだった。自閉症スペクトラム(ASD)というと、殻に閉じこもって誰とも話さず一人でいるのが好きっていうイメージだったのだ。しかし、自閉症スペクトラム(ASD)の中にも孤立型、受身型、積極・奇異型という種類があり息子は、積極・奇異型の自閉症スペクトラム(ASD)だったのだ。
 
人との距離が近すぎるため、パーソナルスペースにもズカズカと入り込んでいくタイプだ。
 
例えば、思春期になり異性に対しての距離のとり方が解らず、異性にくっつき過ぎてしまったりして「あいつ、キモいよね」と陰で言われたりするかもしれない危険性がある特性だ。(まぁ、息子が超イケメンに育った場合は問題にはならないだろうが……)
 
そして、自閉症スペクトラム(ASD)の特性は見事に私の特性とも一致していた。きっと、息子の発達障害は私の遺伝だろう。
 
息子は『新版K式発達検査2001』という発達検査を行い、【言語と社会】項目の発達が1年ほど遅れていることが解った。反対に【姿勢と運動】項目の発達は1年ほど早かった。
 
運動は得意だけれども、言葉を話したり、場の空気を読むのが苦手な息子。
発達障害とは本当に得意、不得意の凸凹だったのだ。
 
凸凹の凹をフォローするため、私と息子は『児童発達支援センター』の『療育(発達支援)』に通うようになった。『療育』とは、発達障害のある子どもの凹を見つけて訓練を行うプログラムである。
 
臨床心理士や言語聴覚士、作業療法士などの専門家がそれぞれの発達に応じたプログラムを組み実践するのだ。
 
例えば、息子は目線の移動が人より苦手だったため紙風船を手の平で打ち上げ、落ちて来た紙風船を下に落ちないように打ちあげる訓練をしていた。紙風船を目で追う行動は目線移動の練習になるし、紙風船が割れない方に打ち上げる行動は力の加減の練習になるという。
 
ニコニコしながら、ポンッ! ポンッ! と楽しそうに紙風船を打ち上げる息子の姿は遊んでいるようにしか見えなかった。しかし、この早期療育のおかげで小学校では目線移動が伴う板書が問題なく出来るようになっていた。
 
本人が何に困っているのかきちんと把握して、きちんと教えてもらうこと。
それが重要だと知った。
 
もし、息子が療育を受けずに小学校に進級していたら……。
きっと板書は出来なかっただろう。
 
「息子くん、いつもノート取ってないね。ちゃんと取りなさい!」
 
担任の先生に、そう怒られていたかもしれない……。
 
 
 
そんな息子も今では小学3年生だ。
相変わらず、息子は発達障害な日々を送っている。
 
例えば、泣いているイラストを見て、『め○め○』の○に当てはまる平仮名を書きなさいという国語の問題に『めんめん』と答えたり、忘れ物が多かったり。
 
しかし、発達障害があることを学校や学童に伝え理解してもらうことで息子は伸び伸びと生活できている。
 
『避難訓練を行いました。その中で、「最初に火事を発見してみんなに知らせる役」を決めたのですが、その役に手を挙げた人が息子くんを含めて4人いました。
 
「誰にする?」となった時に、数人から「息子くん向いているよね」という声が上がっていました。ただ単に「大きな声を出せる」というものではなく、息子くんを信頼する雰囲気が子ども達から感じられました。最終的に役割はじゃんけんで決まり息子くんは譲る形になりましたが、その後の避難訓練では素早く並んでいました。
 
思えば、キャンプ班長に立候補した時にも「息子くんならまかせられる」と投票理由に書いた子がいたり、プログラムの実施する時には全体に集合の声掛けをしたり、進行にもチャレンジしたりと息子くんはこれまで頼りがいのある姿をたくさん見せてくれています。
 
息子くんが積み重ねてきた行動と信頼がとても素敵です。キャンプでもぜひ班長として、信頼され活躍する姿を見せてくれることを楽しみにしています!』
 
息子が通う学童の先生からもらったメッセージだ。
泣いてしまうかと思うくらい嬉しいメッセージだった。
 
息子は衝動的な行動を取りやすく集団行動が苦手という特性を持って産まれた。しかしながら、小学1年生から子どもの特性を丸ごと受け入れる少人数制の学童で集団生活を送りながら、友だちとの信頼関係を培ってきた。そして、集団生活も負担を感じない程度に社会生活を送る術を身に付けたのだ。
 
発達障害は治らない。
 
しかし、自分の特性を理解し、やり方や環境を変えることで問題は改善するのだ。
 
そう、だからもし、我が子が発達障害かもしれないと言われたら……。
 
焦らず探偵になった気分で子どもの凸凹を見つけてあげて欲しい。
そして、その子の凸凹が凸凹のままで居られる場所を創って行ってあげて欲しい。
 
私はそう思う。
 
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2021-08-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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