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散らばっている点をつないで楽しい絵を描こう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:みつしまひかる(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
自分に起きた出来事は、大きなインパクトがあれば覚えている。
かといって、ちゃんと整理や意味づけができているとは、限らない。
 
コロナ禍による自粛生活、完全在宅勤務、一人暮らしをしていると、時間をうまく使えていないことに気づいてしまった。
時間はあるのに、時間がないのだ。
この明らかなパラドックスにがんじがらめになっていた。
やりたいことはいっぱいあり、積ん読本もどっさりとあり、TVレコーダーのハードディスクはこの2年間ほどほぼパンパンで、毎日何かを観て消さないと次の日の分が録画できない。
それらをこなすための一番大事と思われる要素、それは疑いようもなく「時間」のはずで、今の僕には潤沢にあるはずなのだけれど、時間があったらあったで、貴重な時間をそんなことに使ってられないぜとでも内心思っているかのように体はちっともそれらを片付けようとはしない。
 
なぜか。
 
きっかけは、転職関連の本を読んだことだ。
「自分の人生を振り返って、どういったときに喜びを、どういったときに不満を覚えるか整理しよう」という趣旨のことが書いていた。自分の人生を振り返ることは、記憶を辿ることであるので、作業自体は難しくないのだけれど、なんとなく気が進まなかった。なんだか黒歴史とまではいかないまでも、改めてイヤなことを追体験することになる予感もあり、また手にしたものがその程度か、と感じてしまうのも怖い、という気持ちがあって着手できない。
 
読書やら撮りためた番組を観て気を紛らわせられればいいのだけれど、ずっと頭の片隅に居座り続けている。
しかし、今の仕事場でのストレスがいよいよ膨張しており、転職願望は心のコップから溢れだしそうだ。
表面張力が残りどれくらいもつかも怪しい。
というわけで、じぶん年表とまでいかないまでも、ざっと振り返ってみることにした。
 
結果、何だかんだ過去にあったイヤなことは悪いばかりではなく、バネにして得られたこともあることに気づいた。
たまには自分の軌跡を見てみると、前向きになれることがあるかも、という観点で筆を進めてみたい。
 
 
 
元々、過去を振り返るタイプではない。
僕の優先順位は、今>未来>>>過去である。過去はもう終わったものとして押入れに仕舞っていた。
なんとなく写真を撮って、撮って。見返すことなくどんどん増えていくタイプだ。積ん読もそれと近いように感じる。
 
よくよく考えてみると、過去は現在とも未来とも地続きなのだから、現在の僕は過去の僕の集大成である。
集大成というとプラスの意味で用いられるだろうが、一方ではマイナスも当然あり、そちらの意味ではなれの果て、とも言える。
 
実は生きてくる中で無数の分岐点があり、人生がレールだとすると、レールを切り替えるようなスイッチを自ら押す・押さないを決めてきているようなものだろう。
いや。スイッチというよりも、ボタンがより近いかもしれない。
「スイッチ」であれば、現状を変えるために「オン」に切り替えるイメージだが、これだと何もしないことに対して意識しなくなってしまう。
「変化」⇔「現状維持」のように、大別すると「変える」⇔「変えない」のボタンがあり、「変えない」ということも意志を持って選んでいる、というほうが健全なように思う。
実際には「変えない」も重大な選択であり、「変えなかった」ことは、後々の人生に影を落とすことも少なくないからだ。
 
高校生活と大学受験の話から始めよう。
 
高校入学後の1学期、僕は学年でトップ10くらいの成績だった。思いがけない好成績だった。
僕は完全に油断した。初っ端から慢心してしまったのだ。
ご想像の通り、よくあるパターンで僕の成績は順調に下がることになった。1年生では帰宅部だったが2年生になるとテニス部に入り、さらに勉強から遠ざかった。テストは一夜漬けだ。楽しかった。
そう。僕はここで「変えない」ボタンを連打していたのだ。
 
3年生になるとテニス部も引退し、受験モードに突入した。いよいよ勉強と向き合わざるを得なくなったのだ。
 
全国統一模試ではまざまざと現実を見せつけられた。高校のテストで中位に転落していることは知っていた。
それでも本気出したら楽勝で上位だぜ、とずいぶんな楽天ぶりだった。
だがしかし。
模試ではテスト範囲が断然広い。
冬直前のキリギリスである。コツコツ準備したアリにはかなわないのだ。圧倒的なビハインド状況だった。
 
10月を過ぎても十分なキャッチアップができず、志望校に対し安定のE判定。
そんな状態でも僕の脳は現実を見つめなかった。認めなかった。俺なら大丈夫と、強力な自己暗示をかけていた。センター試験が終わってE判定確実であっても変わらなかった。二次試験で挽回できるぜと。
 
そして僕は大学受験に落ちた。
 
え、俺、落ちた? そんなことありえる?
今なら某洗濯洗剤の広告フレーズがチラつく。もちろんあり得る。
まさに落ちるべくして落ちたといってよい。
 
我ながら本当にアホだと思うのだが、ほとんどそんな可能性を考えてなかった僕は、すさまじいショックを受けた。
これが人生で最初の挫折であり、この時点では疑いようもなく、完全に「悪いこと」だった。
 
もちろん、これで終わりではない。
 
大学受験に失敗した僕は、志望校の代わりに駿台予備学校へ”入学”した。
幸いにして仲の良い友人も多くが浪人生となり、大半が同じく駿台に通っていた。
 
駿台の授業は非常に良かった。
特に理系の教科が素晴らしく、例えば物理は数学の微分と積分を用いて計算した。
高校の授業とは違った本質的な授業は、はるかに深い理解を与えてくれた。
とは言っても、受験失敗はまぎれもなく「恥」である。
 
なんとか浪人1年目で志望校に合格し、晴れて大学生になった僕は、1つ大事な取り決めをした。
大学4年間でちゃんと英語を使えるようになることだ。
1年ビハインドを背負った僕は、それくらいはできなくてはならない。
この「決意」が、僕の「変える」ボタンとなった。
 
英語を選んだのは、憧れからだけでなく、ビジネスパーソンにとって重要なスキルだと確信していたから、より具体的には将来海外で仕事をしたかったからだ。
英会話スクールも最初考えたが、あまりに学費が高いので、自力で何とかする道を選んだ。
具体的には、NHKラジオ英会話を毎日聴くことにしたのだ。
月々のテキスト代350円程度、時間も15分と短くて毎日聞いても無理がない。
3つ講座を受けたところで月々1200円もかからない。
 
ただこの作戦は、シンプルだが、カンタンではない。
自律的に毎日聴くことが必要となるからだ。毎晩、同じ時間帯にラジオ英会話を聞ける大学生が、世の中にどれほどいるだろうか? 何人がこのプランを考えついて、実行し続けられるだろうか?
結論から言うと、僕はこれを見事に達成した。
振り返ってみても、我ながらよくやったなあと感心してしまう。客観的に見てもクレイジーな感じがする。
同じことを今求められても、僕はやり遂げる自信がない。
しかし、それをできたのはやはりすさまじいまでの劣等感が支えになったのだと思う。
「失敗の烙印」は今後の人生に付きまとい続けることを、予測できていたのだ。
実際に、今なお余計な烙印を得てしまったと胸が痛むことがあるほどなのだから。
 
さて、ちゃんと聞き続けたとはいえ、半年間ほどは全くと言ってよいほど上達の兆しはなかった。
先ほど言った決意は実は結構グラグラに揺れていたのだ。ただそれでも懸命に、「シャドウイング」を毎日繰り返していた。「シャドウイング」とは、聴き取った音を単語が分からずとも自分で発する行動だ。英語のリズムや音に関する注意力を鍛えていた。すると、半年後ようやく、聴き取った時にはわからなかった言葉が、なんと自分が発した音によって意味がわかるようになったのだ。
これで英会話力の素地が身に着いた。
 
そう。僕は、今度は「変える」ボタンを連打していたのである。
この甲斐があり、TOEICでは730点を超えた。加えて、学内の英会話サークルに顔を出したり、他にも英語教材を聴いたりしてレベルを上げたり、大学院で英語留学プログラムに参加したりして、着々と英会話力を鍛えた。
留学はたった1か月ではあるが、アメリカのシアトルで生活していると、自分が思いのままに話せる感覚も得ることができた。
 
ところが、である。良い面ばかりではなかった。
僕が留学中、同期は就活真っ最中だったのである。
たった1か月、されど1か月。
僕は思いがけないビハインド感を味わった。英語力は身に着けた。書類選考やSPI試験も通過する。
しかし、面接で落とされまくった。
「みつしまさまの今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます」と、何十回言われただろうか。
 
同期はどんどん内定をゲットしていき、内定を得ていない人のほうが少なくなった。
焦っていた。とにかく内定が欲しかった。
すさまじい劣等感を味わった。心はどんどん死んでいった。
これが僕の2つ目の挫折だ。
 
いろいろともがいて、親のススメと協力ももらい、結果として、僕は総合部材メーカーに研究開発職として入社し、希望の医薬部門に配属された。
地獄からようやく抜け出した気分だった。
 
就活地獄を経て、振り返って1つ、大きく学んだことがある。
 
面接で落とされ続けて面接への苦手意識が極度に高まっていたが、本当は面接が下手というよりも、言うべきことが定まっていないだけだった。だから面接でうまくいかなかったのだ。
 
面接では大学院修士での研究説明も行う。
自分が何をやっているかは説明できたが、手段のデメリット、それを埋める対応策あるいは解釈が不十分だった。
平静時にできないことを、面接時にできるはずがない。
最大の敗因は単なる自分の思考力、研究力の不足だ。研究職で薬学、食品系でエントリーしていたから、なおさら致命的だった。
結局普段からどれだけ考えているかの勝負だ。準備がすべて。
そう、この意味では僕は、ちゃんとした本質的な思考をできるようになるため、「変える」ボタンを押すべきだったのに、「変えない」ボタンを押し続けていたのだ。
 
この発見は研究開発職だけでなく、現在就いている企画職にも活かされている。
 
仕事を進めるには、他者を納得させられる論理力が必須である。
課題は何か? なぜそう思うのか? どうしたら解決できるか?
上司との相談や発表でも質疑応答がある。
非常にシンプルな、仕事の基本。
それが就活時の僕には大きく欠けていた。
就活地獄の渦中で溺れている僕にはわからなかった。
だからこそ、今は念頭において仕事をしていられる。
 
この後にも、僕には大きな分岐点が複数あった。
会社に入って3年後、僕はアメリカのサンディエゴに駐在したこと。
そこでちゃんと成果を上げることができたこと。
しかし、急遽帰任命令が出てしまったこと。
なんとか回避しようとしたが努力が実らず、世界的な観光都市から、宮城県の片田舎に移ることになったこと。
意に添わぬ研究テーマを担当し、パワハラ風土に身も心もクタクタになり、うつ状態になって休職したこと(=3つ目の挫折)。
休職してからしばらくすると、自らビジネス書の研究を進めたり、ジムに行ったり、コピーライティングの講座を受けたりと、前向きに取り組んだこと。
無事復職を果たし、いろいろと問題は生じたものの、何とか乗り越えてきたこと、乗り越えられるという自信も身につけられたこと。
 
人生をあらためて振り返ってみたら、3つの挫折は、いずれもダメージが非常に大きいものだったことを痛感する。
当然ながら、それら自体はまぎれもなく、「悪いこと」だ。今なお心に負った傷は大きく深いのだから。
 
でも、だからこそ、「良いこと」ももたらしたことを、疑いようがないのだ。
痛みがあるからこそ、教訓になる。同じことを繰り返さない、あるいは失ったものを埋められるような、「良いこと」を獲得できる。「変える」ボタンを押すためのエネルギーを生み出せる。
「変えない」ボタンを押してきたこともまた、そのエネルギーになる。
 
もし、3つの挫折が1つも僕に起こることなく、波風立たず順調に進んできたとしたら。
きっと僕は今も非常に非力で、薄っぺらい人間のままだっただろう。そしていずれ何らかの大きい波がやってきて、ただなす術もなく呑み込まれ、最悪の場合死んでいたと思う。
大げさじゃなく、本当にそう思うのだ。
 
スティーブ・ジョブズが2005年のスタンフォード大学の卒業式で有名なスピーチをした。
過去の単発と思われた複数の出来事(=dots)を後から振り返ると有機的につなげることができるという趣旨のエピソードで、”Connecting the dots”のフレーズで知られる。
彼の人生は非常に劇的で、僕との比較はおこがましい。けれど、僕の人生でもこんな風に線を引くことができた。大なり小なり誰にでもこういった経験はあると思う。
大事なのは、解釈。
それも短期的にではなく、長期的に俯瞰してみた時の解釈だ。
 
人生はどう転ぶか、転ばされるかわからない。
良かったと思うことが悪いことを招き、悪いことと思ったことが良いことを招く。起承転々々々々々々々結、そんな奇妙な点からなる線が人生かもしれない。それもその時々の解釈で異なる、見え方の異なる線。
 
同じ本を読んでも、読むタイミングによって印象が変わるのと本質的には同じだ。
 
たまには、自分の人生のページをめくってみるのもよさそうだ。
当時はイヤでどうしようもなかったことが、だからこそ、良いこともあったなあと思えたら、そういう側面を発見出来たら、前向きに人生を楽しむ第一歩になる。
二歩目、三歩目と、歩みを進めていけそうだから。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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