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『余白』は思いやり


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記事:ロケットえんぴつ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「余白が命」と言われるほどデザインにおいて『余白』は重要だ。
『余白』とは、何も配置されない空間を指し、視線を誘導したり、情報の整理、印象を操作するなどの効果がある。
そのため、デザインを見る人は、一目見ただけで、自然と必要な情報を受け取ることができるのだ。
 
『余白』の大切さ。
これはデザインに限ったことではないと思う。
私は、人と人との会話でも大切ではないかと思っている。
 
 
まず、話し手について考えてみたい。
私の会社にいる、チームリーダーのタナカさんは、非常に独特な話し方をする。
 
普通の人の場合
「いや、そうじゃないんですよね。〇〇〇をこうしたら、……」
 
タナカさんの場合
「いや、そうじゃないんですよね」
(沈黙)
「〇〇〇をこうしたら、……」
 
周りのチームメンバーは、「そうじゃないんですよね」で話が終わったかと思えば、少しの沈黙の後に、また話の続きが始まる。
タナカさんは非常にマイペースで、おそらく頭の中で考えながら、整理できた言葉を発しているようなのだが、それを聞いている周りの人たちは、いつ彼の話が終わっているのか、わからないのだ。
そうなってくると、タナカさんの話が終わったかどうかを確認するための、少しの沈黙の時間が生まれる。
この沈黙の時間があることで、チームメンバーのみんなは、タナカさんの話に集中するし、タナカさん自身もメンバーがどのくらい理解しているのかを確認できているようだ。
 
最初にタナカさんのチームに入ったときは、その沈黙の時間に思わず息を止めてしまうくらいヒヤヒヤし、沈黙を埋めないといけないんじゃないかと思っていた。
けれども、慣れてしまうと、聞いている私も考える時間ができて、わからないことへの質問の準備ができていることに気づいた。
 
話し手がつくる『余白』には、聴き手に対して「集中」と「理解するための時間」を与えてくれる。
 
 
では、聴き手はどうだろう?
私が人生の師と仰いでいるキョウコさんという女性がいる。彼女はマーケッター、ヨーガ療法士、鍼灸師など、何足ものわらじを履いていて、それらの仕事に共通していることは「誰かの悩みを聞いて、解決のお手伝いをすること」だ。
人の心の悩みを聞くことに関しては、まさにスペシャリストである。
 
私はキョウコさんに、よく人生相談をする。
はじめて彼女と話したときは、その会話のテンポに何とも言えない違和感を感じていた。
 
私が話している間、キョウコさんは一言も声を発することがない。
穏やかな顔で私の目をじーっと見つめ、うなずきはしても、声は発さない。
 
私が話し終えても、しばらくの沈黙が入る。
 
あれ? 会話が返ってこないぞ? まだ伝わってなかったかな? と思い、私は自分の考えや思いを絞り出すように、会話に出し切った。
 
少しの沈黙の後、キョウコさんがようやく話し始め、私への質問だったり、アドバイスをしてくれた。
 
 
彼女と話し終えて、家に帰った私は、今まで味わったことのない気分になっていた。
清々しいというか、デトックスというべきか……
心の中がいい意味で空っぽになったような気分だった。
その正体が知りたくて、私はキョウコさんとの会話を振り返っていた。
 
あんなに話を聞いてもらえたと感じたのは初めてだ。
なんで「話を聞いてもらえた」と思ったのか?
それは、私が話している間に、キョウコさんがまったく遮ることがなかったのはもちろんのこと、私が話し終えた後にしばらくの沈黙があったからかもしれない。
 
私が会話の中で感じていた違和感の正体は、『余白』だったのだ。
 
彼女は私を待ってくれていた。
「まだあるんじゃない? もっと話していいよ。全部出し切っていいよ」
と言わんばかりに、沈黙を作り、私が自分のすべての想いを出し切るのを待ってくれていたのだ。
今まで他の人にも相談をしたことはあったが、キョウコさんと話してみて、心の奥底のもう一歩踏み込んだところに、自分はこんな考えをもっていたのか……と気づくことができた。
 
聴き手がつくる『余白』は、話し手の『本音』を引き出してくれる。
 
 
とはいえ、わかっていても実際に取り入れるのは、意外とハードルが高い。
私が紹介したキョウコさんも、傾聴のトレーニングをしてきたそうだ。
繰り返しトレーニングをしなければ、しようと思っていてもなかなかできることではない。
私もついつい会話の中で、隙間なく相手の話に対し、すぐに反応してしまいがちだ。
あまりにも共感できる話題が振られた時などは「それ、わかる!」と興奮しすぎて、相手の話にかぶせて言葉を発してしまう。
そういう会話もあってもいいと思うし、すべての会話で『余白』をいれていくのは難しいだろう。
まずは、誰かに大切なことを伝えたいとき、または誰かの大切な話を聴くときだけでも、意識して取り入れていきたい。
 
 
情報を受け取るときは、相手が何をいいたいのか理解するのに、ものすごく精神力を使う。相手がなるべく混乱しないように、自然に理解してもらえるようにすること、それは相手への思いやりだと思う。
デザインにしても、会話にしても、『余白』を入れるということは、相手への思いやりのひとつではないかと私は思う。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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