小4で嫌いになった写真撮影を、セクシーで克服できたかもしれない
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:荒川ゆうこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「なんか分かんないけど、めちゃくちゃ楽しかった……!」
まったく言語化できてないけど、帰りの電車で何度も思った。マスクの下で口角が上がりっぱなしだったのか、翌朝ほっぺが痛かった。
先日、写真撮影に行ってきた。撮られる側。二週間ほど前に行った本屋の店員さんに誘われたから。なぜ本屋で写真撮影?とか、疑問はいっぱい。しかも、撮影会のキャッチコピーは『自分史上最高にSEXYな一枚を撮る』。セクシーな写真とは、一体。よく観る『ノブナカなんなん?』という番組で取り上げてほしいレベルで「なんなん?」だ。
が、その場で参加を決めてしまった。
長く応援し続けているアイドルが「セクシーにゃんこ」という肩書きを使っていたこともあり、平均的な人よりはセクシーという言葉に抵抗感は小さかったのかもしれない。変なことだとは思わなかった。加えて普段から、「誘われたとき面白そうと思ったらできる限り行く」と決めている。どういうイベントなのか、会場で何が行われるのか、興味しか湧いてこない。これは行って、見てこなければ。
何より一番の決め手になったのは、イベントの開催日。この撮影会は結婚するとか妊娠中とか、自分のなかの区切りとして参加する女性も多いらしい。そういう予定は、特にない。ただ、イベントの開催日を見て「この日、誕生日直前だ」とつぶやいたのを、店員さんは聞き逃さなかった。「誕生日、いいじゃないですか! ぜったい記念になります! 自分へのプレゼントに、ぜひ撮りましょう!」勢いに押される形で、申し込みを済ませてしまった。
家に帰って、イベントのフライヤーを初めてちゃんと見ながら心配になってきた。あれわたし、カメラの前でちゃんと笑えるかな、と。どんなイベントなのか見てみた~いという好奇心が優先してたけど、わたし、撮られるんじゃん。
写真を撮られるのは、好きじゃない。小学4年生のころから。家族で外出するとたいてい父が姉妹の写真を撮ってくれたのだけど、わたしはあれが嫌だった。映えそうなスポットの前で姉妹で並んで、ポーズをとること。ほかの人の行き来があるなか、その場で数秒、数十秒固まっていなければいけないこと。邪魔にならないようにと足をとめてくれた通行人がこちらを見ていること。そんな中、「もう一枚」とかいってさらに人を待たせること。そんな状態で、カメラの前で笑うこと。苦痛でしかなかった。
そのうち「あたしは映りたくない」といって、カメラの前に並ばなくなった。アルバムも見ないけれど、もし見直してみたら小4からの写真は極端に少ないだろうし、笑顔のものなんてほぼないんじゃないかな。
今は友達同士とかで撮る写真には抵抗はないし、自分でもカメラをはじめた。けれどやっぱりわざわざ「はい、こっち見て笑ってー」っていうのはできれば避けたいし、撮るときもふとした瞬間をさりげなく収めたい。いずれにしても、完全なる隠し撮りタイプだ。
申し込みしてしまったことを後悔する気持ちが8割のまま当日を迎え、当日時間に間に合うようにスタジオへ。受付を済ませて楽屋に入ると下着の女性たちが鏡の前に並んでいる。あぁぁ大丈夫かしら。開始時間がくると、参加していた10名ほどの女性たちはカメラの前でどんどん笑ってポーズをとって、どんどんどんどん脱いでいく。いやらしさとかは、ない。自分でここに来たくせに、恥ずかしがっている方が恥ずかしいやつだこれ。みんなの撮影を見学しながら、「もうどうにでもなれ」と成り行きに任せることに決めた。「お先にどうぞ」を言い続けてほかの全員が最初の撮影を終えた後で、やっとカメラの前に立つ。「いいね!」「できてる!」「その顔いいよ!」飛ばしてくれる誉め言葉を頼りに、カメラの前に言われるままにポーズを撮ったし、脱いでみましょうかと言われれば脱いだ。すべてを任せることにした。
撮影が2セット目、3セット目と進んでいく頃には、頭のなかはそのシチュエーションでどうすれば「より良い」を創れるかのみ。それしか頭にない。ひとりずつの写真を会場みんなでの創作していく感覚。口から漏れるのは誉め言葉だけだった。
これまでわたしは、写真は誰かのために撮るものだと思っていた。
撮影してくれるカメラマンのため、あとからこの写真を見るだれかのため。その誰かに少しでもよいものを見てもらうための演技を『撮影』と捉えていたようだ。
でも今、写真は、撮られている瞬間の自分のためのものではないかと思うようになっている。
セクシーの意味を辞書で引いてみると、「性的魅力のあるさま。性的なものを感じさせるさま」などと載っている(デジタル大辞泉)。つまり、異性に向けて、気を引いたり気に入られたりする目的で媚びる行為というのが一般的なセクシーだ。
しかし今回の撮影でセクシーは、誰に向けられたものでもなかった。だって撮った写真は頼まれて誰かのために撮った訳でもないし、わたしに限れば誰かに見せるつもりもない。自分のために好きな衣装で、自分のために表情をつくって。カメラマンさんや当日ご一緒した女性たちに手伝ってもらって、ただただ自分のために撮ってもらった。日常のなかに、こういう行為って意外と少ないんじゃないかしら。結果切り取ったその瞬間をあとから写真の形で見られたら、それはすごくうれしいよね。
日本人は気ぃ遣いな国民なので、いつも誰かにどうみられるかを気にしてしまうことが多いように思う。校則で決められた制服の着こなしは「いい生徒に見えるように」が最重要な気がするし、服を買う時も心底好きなものを選んでいるというよりは「可愛く見られたい」「ダサいと思われたくない」など人からの見られ方を気にしてしまっている。無意識にすりこまれた「誰かのために」で自分を隠したりつくったりすることで、思った以上にエネルギーは奪われる。もっとわがままに生きても、誰も不幸にならないと思うよ。
とはいえ、いきなり全部を変えることは難しいのだけれど。例えば、今回撮影でも使われたような明らかに機能的ではない、見た目だけを目的につくられた下着。ああいうの下着やさんで目にする度に、いつ、どんな目的で使えばいいんだ恥ずかしいって思ってた。でももし好きならば、自分一人のときに、自分のために部屋着としてつかうことだってぜんぜんありだ。写真撮影だって下着だって何だって、自分のために楽しめばいい。
しみ込んでしまった「誰かのために」を脱ぎ捨てた先に、瞬間瞬間を自分のために楽しめる自分がいる気がしている。そういう風に、一緒になってみませんか?
「自分が楽しめているか」を最優先にしてきたいよねって思う、誕生日の夜。今年は、脱ぐぞ。
2021.8.30 届いたばかりの写真をみながら。
***
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