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若くしてこの世を去った鬼から授かった金棒と教訓


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山田 学(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
10歳の時、家族以外で初めて、とてもお世話になった方が亡くなった。
塾の先生が、亡くなった。
 
私は生まれつき、ぎっちょ(左利き)だった。
ボールを投げるのも、はさみを持つのも、ご飯を食べるのも、字を書くのも。
 
当時、私は4歳。文字は右手で書けたほうが何かと便利だろうと考えた母は、矯正を試みた。しかし、母が独学で教えるには限界があった。そもそも、父が独立したばかりで家にほとんどいなかった。母も看護師として働きながら一つ上の兄と私を育てており、時間の余裕がなかった。
 
今でこそビデオ通話をすればニコニコと話をする母だが、当時はとても厳しい人だった。よく叱られた。私は、よく泣いていた。
 
仕事と家事、炊事、育児で母自身にも気持ちの余裕がなかったと思う。ただ、あまりにも怒られすぎて、保育園の先生に母のことを「鬼」と吹聴していた。
 
そんな母が、私が右手で字を書けるようにと、家の近くの個人塾を探して、入塾させることにした。塾の代表の先生は中山先生(仮名)。今は、うっすら輪郭が出てくるかどうか程しか覚えていない。30代半ばの女性で、細身な体格に肩まであるストレートの黒髪、キリッとした目つきに円縁のメガネで、見た目からして厳しそうだった。
 
「怖そうな先生……」
 
母さんと似ていた。
母さんが入塾させる際、中山先生にこう伝えた。
 
「この子はきっと、できないと言って泣くと思う」
「泣いている時は放っておいてくれていい」
「泣き止んで、諦めがついたら、必ずやる(机に向かう)」
「その日の課題が終わるまでは、お迎えの連絡はいただかなくて大丈夫」
「迷惑をかけると思うが、どうかよろしくお願いしたい」
 
塾側にとってはこの上なく迷惑な話だと思うが、中山先生が母の考え方に共感し、すんなりと受け入れてもらった。
 
母の期待どおり、私の想像どおり、中山先生は、厳しかった。母と同じ鬼だった。母の依頼どおり、私が泣こうが喚こうが、やるまで、できるまで、終わるまで、帰らせてくれなかった。
 
子供の頃はよく癇癪を起こしていた。周りの生徒に比べてやっかいな生徒だった。そんな私を中山先生は、匙を投げることなく、根気強く向き合ってくれた。
指導のおかげもあって、最初は点と点を結ぶだけの作業が、右手で字が書けるようになり、いつの間にか、勉強そのものが習慣になった。やればやった分、テストでも好成績を出せるようになった。
 
勉強が呼吸するようにできる。
鬼から金棒を授けられた。人生最大の武器になった。
 
この武器は自分のキャリア形成に大きな影響を与えた。高校、大学のどちらも第一志望に進学することができた。勉強を無意識レベルでできるようにしてくれた中市先生のおかげだと思っている。
 
中山先生には5年間、お世話になった。
 
小学校4年生の頃、中山先生の体調が良くないことを母から知らされた。私はその変化に気がつかなかった。中山先生の体調は一向に良くならなかった。体力が日に日に衰え、塾の運営ができなくなった。いよいよ塾を閉めなければならなくなった。
 
最後に「さようなら会」をやった。
笑顔で「さようなら」をした。
 
その後、母さんから中山先生の病名を聞いた。脳腫瘍だった。具体的なことは分からなかったし、どれだけ事が深刻であるか、当時の私は想像できなかった。
 
ある時、入院中に中山先生が母に手紙をくれた。ペンを持つ体力さえもなかったのだと思う。文字が震えていて、何を書いているのか、私には読めなかった。普通の状態ではない、ということを察知した。
 
その1~2ヶ月後だった。中山先生はこの世に「さよなら」を告げた。若くして亡くなった。とてもお世話になった方がこの世から、同じ空間からいなくなった。
 
悲しかったのと、まだいるような気がするのと、不思議な感覚だった。
 
20年以上経った。私は32歳になった。
結婚して、奥さんと息子と3人で暮らしている。私はお酒を飲んだ時など、
 
たまに奥さんに、
 
「明日死んでもいいように、後悔のないように生きたい」
「いつ死んでもいい(という気持ちで生きたい)」
 
と話す。
奥さんからはすごく怒られる。
『死』という言葉を安易に使うなと。
安易に使っているつもりはない。ただ、なぜ僕がこういう言葉を不意に使ってしまうのか、つい最近まで自分でもわからなかった。
 
ふとゆっくり考えた時に、中山先生のことを思い出した。
 
「人は、いつ、どうなるか分からない」
「いつの間にか近くの人がいなくなるかもしれない」
 
多分、自分の無意識に書き込まれているのだと思う。だからどう、というわけではないが、仮に明日、自分の身がどうなってもいいように後悔なく、1日1日悔いなく過ごしたい。
 
僕の武器を存分に使って、自分の生命時間を人の役に立つことに注ぎたい。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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