メディアグランプリ

異星人の名は、習慣


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記事:長尾将徳(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「火星人に出会ったことはありますか?」何を突拍子もないことを、と思うだろう。もちろん私も、地球外生命体としての火星人に会ったことはない。しかし、“習慣という名の異星人”であれば話は別である。彼らは私たちに日々接触し、気づかぬうちに日常を規定しているのである。
 
カフェで働いていた時のこと、毎日百件は下らない注文を受け取りながら気づいた。体型とドリンクサイズが恐ろしいほどに比例していることに。ふくよかな体型の人はいかなる時も大きなサイズのドリンクを頼み、高カロリーなトッピングをふんだんに盛り付ける。すらっとした人や精悍な顔つきの人は、必要最低限のサイズのドリンクを頼み、余分なトッピングは付け足さない。この傾向に気づいてからしばらく様々なお客さんの注文を集計したところ、かなりの確率で当てはまることが分かった。慣れてくると、注文を聞く前からおおよそのドリンク種類やサイズを推測することができるようになった。別にどこで役立つスキルでもないが、多少の時短ができたので、お客さんの方にもメリットがあったと言えなくもない。どんな飲食店にも常連さんのような存在はいるものだが、私のいたカフェでもご多聞にもれず常連さんは存在し、いつも変わらぬメニューを注文するのだった。彼らの注文は並大抵のことでは変わらず、こちらから強い提案をしない限りは、“これでないといけない”メニューを手に取られるのだった。それはあたかも、一種の儀式のようですらあった。コーヒー一杯で朝のすっきりした目覚めを演出していたものが、いつしかコーヒーなしでは一日が始まらなくなる。ドリンクに飲まれるとは言い過ぎかもしれないが、言えなくもない。
 
果たして月日は過ぎ、私の職場もカフェから、人の身体をケアする場所へと移っていった。カフェの常連さんの記憶も薄れゆくなか、カフェの体験と似たような出来事に出くわすようになった。それは、体型と服装、そして性格の比例関係だった。服装が個人の趣味であることを念頭に置きながら言えば、服装の選択は体型を形作り、性格にまで影響するのだ。日常的な感覚では、「サイズを合わせる」と言うように、自分の体型に合った服装を選ぶだろう。しかし、服装は“容れ物”であると同時に“身体感覚の延長”であることも忘れてはいけない。空間に隙間があれば空気が充満していくように、服装と身体の間に隙間があれば、身体はそのギャップを埋めるように成長していく。つまり、体型に合わせて服装を選択しているつもりが、実は服装の選択が体型を作っているのだ。ここまで言われると多少のショックがあるかもしれないが、ここに留まらない。選択された服装は体型を形作り、果てには性格や行動まで変えてしまうのだ。
 
分かりやすいように、私の身近な例を挙げよう。筋トレ好きのある男性がいた。もともと身体づきが豊かで、食べれば肉がつき、動けば筋肉がつくような傾向を持っている。彼は大柄な身体つきでも動作がしやすいようにと、常に二つほどオーバーサイズな服装を選んでいた。彼の体型変化を見ていると、面白いことに気づいた。比較的サイズの小さな服を着ている時期は痩せていき、大きな服を着ている時期は太っていったのである。また、小さな服を着ている時期は性格や行動が几帳面になり、細かく、素早く動ける。大きな服を着ている時期はその逆で、何事もラフに、ルーズにこなすようになった。仕事面ではだらしなさが目立つようになっていたのだ。もちろん、服装だけが影響していたわけではないだろうが、選ぶ服装が体型に影響し、性格や行動を形作っていたとしても不思議はないわけである。
 
私たちは誰でも、自分の選択は自分の意思でもって決めたものであると考える。その点に異論はない。しかし、条件付きでの同意だ。“選択を迫られる当初に限って言えば“、選択は自分の意思で決めているのである。日常という名の大河では、努力して決めた選択はすぐに飲み込まれてしまい、習慣となってしまう。流れに乗ってしまえば手で櫂を漕ぐ必要がなくなるように、私たちは習慣によって思考しなくなり、日常を形作る努力の可能性を失うのである。やがて習慣が私たちの行動を規定し始める。流れに乗っていると思っていた河は、実は私たちを流しているのである。主従逆転現象だ。自由意志で決めた選択で形作る人生が至高であるとするならば、習慣という名の異星人は侵略者であり、破壊者である。選んでいると思ったドリンクのサイズに、そのカロリーに身体を握られ、知らない内に太っていて良いのだろうか。好きで選んでいると思った服装に体型を支配され、果ては性格や行動まで規定されていいのだろうか。冷静になれば身震いするような習慣がいくつか思い当たるだろう。習慣という名の異星人に支配されず、本当の意味で自由な選択を続けられればと、切に思う。
 
 
 
 
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2021-09-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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