メディアグランプリ

繊細な人こそ鈍感であれ


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記事:なしの花(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
私は1度心を病んだことがある。
大学卒業後に就職した先で、今で言うところのモラハラを受けた。そこに、失敗するとひどく自分を責める性格が残念なマッチングをしてしまい、病んだ。キレイに言えば“繊細”、イヤな言い方をすれば“超神経質”な私。そんな私なのだが、恐ろしく鈍感な一面も持っている。
もしも人間の心に形があって、それがハート型だとしたら。私の心は左半分がガラス細工、右半分が鋼鉄で出来ているのではないかと考えることがある。ただ一つ残念なのは、何かイヤなことが起きたとき、どちらで対応するか選べないことだ。そんな不便さはあるが、この鈍感さに人生の半分以上は救われている。
 
あれは20年くらい前だろうか。中学2年生のクラス替えが終わり、しばらく経った頃の昼休みだった。図書室で借りてきた本を教室でのんびりと読んでいると、数人の足音がバタバタと聞こえてくる。しかもその足音はどうやらこちらに近づいてくるらしい。何気なく顔を上げてみると、同じクラスの女の子たち3人が私めがけて走ってきていた。今にもこちらに突っ込んできそうな勢いで近づいてくるので、私は思わず身を引いてしまう。そんな私の前で止まった3人が声をそろえて叫んだ。
 
「ごめんなさい!!!」
 
いきなりの謝罪に面食らう。彼女たちから謝られるようなことがあっただろうか。しかもなんだかやけに切羽詰まっているように見える。今朝から今までのことを思い返してみても、これといって何も無い。いつもの日常しか思い浮かばなかった。
「なんで謝るの?」
読んでいた本を閉じながら恐る恐る聞いてみると、3人はばつが悪そうに顔を見合わせた。
 
「だって私たち、この3ヶ月間花ちゃんのこと無視してたから……」
 
悲痛な告白を受けた私は少し考えた。
(……無視? 無視というと漫画で見るアレか。挨拶しても返してくれなかったり、話しかけても逃げられたりするやつ)
そこまで考えて不思議に思った。
 
「私って……無視されてたの?」
 
私のこの言葉に妙な空気が流れる。神妙な面持ちだった彼女たちも今や困惑気味だ。もう一度3人で顔を見合わせると、一人が言いづらそうに口を開いた。
「Mちゃんがクラスの皆に、花ちゃんを無視しようって言い出して……この3ヶ月ずっと皆花ちゃんのこと無視してたんだけど……もしかして気付いてなかった……とか?」
なんということだ。40人から一斉に無視されていたにも関わらず、全く気付いていなかっただと……! しかも3ヶ月間も……!
「……全然気付いてなかった」
自分の鈍さに愕然としながら正直に答えると、3人は少しホッとしたように力を抜いた。
「花ちゃんずっといつも通りだったから、見てられなくて……ほんとにごめんね」
ええ、ええ、そうでしょうとも。だって気付いていないのだから……。
心底申し訳無さそうに謝る彼女たちに、勇気を出して謝ってくれてありがとうと告げた。そこから数日間、私はクラスメイト達からの謝罪をチラホラ受けることとなった。時には「お前ってすげえな」という複雑なおまけ付きで……。
 
この一件は、私が群れるタイプではなかったことが幸いしていた。
お手洗いに行くのも、移動教室も、昼休みを一人で過ごすこともよくあった。何より、先生がいるところでは皆私と普通に話していたのだ。そんな小さな偶然がいくつも掛け合わさって、挨拶が返ってこなくても「聞こえなかったのかな?」くらいの認識しか持たなかった。
 
この無視を皮切りに、すっかり大人になった今に至るまで、誰かから「あれは嫌味だよ」と教えられるまで気付かないということが度々あった。1度病んだことはあったが、後から振り返ってみると、私が逞しくなるための通過点に過ぎなかったと思える。病んだことで自分を責める心の癖に気付けたのは大きな宝だ。お陰で自分を責めそうになると、「いかんいかん!」と思考を切り替えられるようになった。
 
今お世話になっている職場にとても面倒見の良い先輩がいるのだが、私はこの先輩に憧れている。
私の気まぐれな鈍感さなど足元にも及ばないほど、精神的にタフなのだ。そのタフさがどこから来ているのか考えてみると、“考え方”と“受け取り方”にあるように思う。
例えば仕事で何かミスをしたとする。私の場合はくよくよと悩んでしまうのだが、その先輩は違う。上司にきちんと謝ったうえで、「チェックは上司の仕事だから。ミスが広がったのは私のせいじゃない。同じ間違いはしないように気をつけるけど、別に私は悪くない」と考えるらしい。
人によっては、そんな考え方はダメだ! 反省していない! と思われるかもしれないが、自分を責めすぎる癖のある人は、時にはこれくらい大胆に考えても許されるのではないかと思う。先輩の名誉のために書いておくが、自分の後輩がミスをしたときには、一切責めずに自分に責任があるからと完璧にフォローしてくれる。
 
もう一つ、先輩を見ていると、使う言葉もタフさを支えている気がする。
「私、これくらい出来ちゃうから」「私、モテるから」のような、自信のある台詞を良く口にする。アスリートは使う言葉に気をつけることで自己暗示をかけると言うが、それに近いのではないかと思う。もし自分のことを嫌う人がいても、「色んな人がいるから。あの人にはハマらなかっただけでしょ」とケロッとしている。
 
昔に比べれば随分と鈍感さに磨きもかかったし、自分を責めなくなった。とはいえ、気を抜きすぎると心の柔らかい部分に刃の侵入を許してしまうこともある。ガラス細工と鋼鉄。皆の心はどんな割合で構成されているのだろう。これからもじっくりと時間をかけて、自分のベストバランスを模索していきたいと思う。
 
 
 
***
 
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2021-09-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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