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甘い醤油は百薬の長


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記事:永島 美与子(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
甘い醤油がスタンダードな九州の方々、稚拙な持論をお許しください。私は関東の出身で、元々「しょっぱい醤油」しか知りませんでした。幼い頃、祖父母に会いに行く道中ではキッコーマンの工場がある千葉県野田市に入ると、車の窓を開けて香ばしい醤油の香りを楽しみにしていました。ほうれん草のお浸し、豆腐、刺身など、ちょっと味を足したい時の調味料は間違いなく味覚を満たす「しょっぱい醤油」でした。……それが、今は常備する調味料にしょっぱい醤油がありません。あるのはネットで取り寄せる甘い醤油ボトルです。
 
結婚した当初、夫の実家の九州に帰省する度、甘い醤油には少なからず抵抗がありました。餃子を食べる時は、「やっぱりキッコーマンでしょ」と、小さいマイボトルを用意したものです。そばやうどんのおだしは、東京のつゆのように甘みがない白だしなのに、醤油が甘い。醤油そのものをなめると本来の醤油らしさが先に来て、甘みを強く感じる訳ではないのに、つけて頂くと食材が大変甘く感じる、不思議な印象でした。
 
次第に白いおだしのうどんの魅力に気づき、豚骨ラーメン、ちゃんぽん等、九州の美味しい食に目覚めていった頃、正月に立派な寒ブリのお刺身を頂きました。私にとって刺身といえばマグロが定番だった当時、白身の鯛のように透明ではなく、血合が鮮やかに見える脂の乗った白色のブリが苦手で箸が進みませんでした。ところがその日は、皆が「美味しい」と満喫する姿に誘われ、ブリのお刺身をワサビ入りの甘い醤油につけておそるおそる口に運んでみたのです。するとその瞬間、固めの歯応えの寒ブリに甘いワサビ醤油がからみ、なんともいえない美味しさが口いっぱいに広がりました。
 
その時から甘い醤油の見方も味わい方も変わりました。私の実家は、幼いころからシンプルといえば聞こえが良いですが、質素な食生活でした。味付けは塩か醤油か味噌。醤油は何にでも使う万能調味料でした。そのため勝手に、「九州の人たちは何にでも甘い醤油をかけたりつける」と、少々先走った勘違いをしていたのかもしれません。もちろん調理にも甘い醤油は使われていますが、その魅力が引き立つのは素材そのものを単品で頂くような時、刺身や豆腐で真価が発揮されていたのです。煮物などの調理では砂糖を足すため、甘いかそうでないかが分からなくなります。バラエティ豊かな食材が手に入る土地柄、甘い醤油を食材と美味しく頂く繊細な味覚が根付いてきたのだろうと、今は甘い醤油文化を敬愛しています。
 
今や大好きな餃子も甘い醤油にカラシです。そもそも、天丼、鰻重、みたらし団子の甘いタレ味が大好物なので、餃子に甘い醤油をつけ、ごはん茶碗でバウンドすると、油分にまじって白米に絡み、たまらない風味を感じます。冷奴も以前は豆腐だけであったところ、今は甘い醤油をつけてごはんと一緒に口に運ぶのが普通になりました。
 
ちょうど甘い醤油に目覚めた頃、夫が大病を患いました。生活習慣を見直さなければいつ何が起こってもおかしくないと医師より忠告を受け、禁煙、食生活の見直しを迫られたのです。たばこも吸えない、美味しいもの食べられない……、夫の落胆ぶりを横目に1日6g以下の塩分調整と、日々の血圧のにらめっこがはじまりました。普通に一人分食べていたラーメンの塩分が軽く6gを超えていること、外食の一皿には塩分がかなり含まれていることを知り、1回の食事で2,3gに抑えるのがいかに辛い現実かを突きつけられました。薄味のものばかり食べていると気持ちが満たされません。試行錯誤の末、みそ汁等の汁物を思い切って食事からサヨナラすることにました。その分、おかずはしっかりした味付けで頂く。舌の満足感をあげるために、なるべく調味料は食材に直接つけて口に運ぶ形に変えました。
 
肉に焼肉のたれは間違いなくご馳走です。しかし、コレステロールを下げる効果のある魚類も食べるように栄養士から指導が入っています。そこで真価を発揮したのが甘い醤油です。刺身にワサビをたっぷりいれた甘い醤油をつけると、少量でもツルっとした身に染み込み、味わいが一気に美味しくなるのです。寿司ネタの「漬け」が、一瞬で出来上がる感覚です。大きめに切った海苔にくるんで頂くと、食物繊維のおかげで白米にボリュームが出てお腹が膨らみます。少々贅沢な感じもしますが、ありがたいことにどんな魚でも美味しく頂けるため、かなりの頻度で、甘い醤油の巻き寿司が我が家の定番になっています。汁物がないことも気にならなくなってきました。
 
「百薬の長」とは、酒も飲みすぎてはいけないと戒める意味もあるそうです。甘い醤油もつけ過ぎてはもともこもないのは当然です。適度に頂いてこそ、美味しさ、楽しみが生まれ、薬にもなるのでしょう。夫はここ数年、140を下らなかった血圧が110前後と、30以上も下がった状態を維持しています。もちろん、処方された薬の力も、ダイエットや禁煙の効果も大きいですが、何より「食への希望」を人生に与えてくれた甘い醤油には心から感謝しています。医師が、「あなたの病気は治らないけれど、今のように気をつけていれば、長生きしている先輩がたくさんいるからね」と話してくれました。
 
 
 
 
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2021-09-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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