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『Café de Chanoma』を休業することにした話 ~時代は変わっても、変わらないもの~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:宮村柚衣(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
お客さまへ
 
日頃よりご愛顧くださり有り難うございます。
コロナウイルス感染拡大防止の観点から、2021年9月1日より当面の間、臨時休業致します。
何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
また、皆様と笑顔でお会いできることを従業員一同心より楽しみにしております。この局面を皆で乗り越えましょう。
 
Café de Chanoma(カフェ・ド・チャノマ)スタッフ一同

 

 

 

2020年10月10日、私はスカイツリーが見下ろす小さな街で小さなcafeをOPENした。料理人1人+パートスタッフ(ランチタイムのみ)1名の小さなcafeだ。
 
よく行く職場近くのCaféが閉店すると聞き、居抜きでcafeを丸ごと引き継いだのだ。
 
そのcafeは大通りから1本奥まった場所にあるため落ち着いた場所にあった。白い壁と木枠を基調とした15坪程の店内はとても居心地が良かった。特にガラスをはめ込んだ木枠の扉が4枚並ぶ入り口は明るく開放感がある。晴れの日は太陽の光が差込み店内を明るくするし、雨の日は雨音を聞きながら雨を眺めていた。
 
コミュニケーションは取っても取らなくてもいい。一人でのんびりしたい人もいれば、読書したい人もいる。一人で来ても、家族で来ても、おじいちゃんでもおばあちゃんでも子供でも、その人たちが思い思いにのんびりできる空間。
 
「なんだか懐かしいけど、新しい」そんな気持ちになれるcaféだった。
 
職場の近くに地域の人達が集うCafeがあることによって、私は地域の方々と顔見知りになり、私は地域の一員として受け入れられた。
 
そんなcaféを無くしたくないという想いから、私はそのcafeを引き継いだのだ。
 
地域の「茶の間」のように、地域の人たちが気軽に集まれるCafeにしたいという思いから『Café de Chanoma』(カフェ・ド・チャノマ)と名付けた。
 
当初は2020年6月OPENの予定だったが、1度目の緊急事態宣言を受けOPENの日を延期した。その後、緊急事態宣言が終わり、GoToEatキャンペーンが始まったことを受けて、10月にOPENした。
 
感染者も減って来ているしコロナ渦も収束に向かっている。
緊急事態宣言も乗り越えたし、もう大丈夫でしょ!
 
そう思ってのスタートだった。
 
また、地域の居場所として早くcaféをOPENしたいという気持ちが強かった。
 
毎朝、必ずモーニングを食べに来ていた老夫婦。
毎日、散歩の途中にcaféに立ち寄ることが日課となっていたご婦人。
 
cafeは珈琲を飲んだり、美味しいごはんやスイーツを食べることが主の目的ではあるが、下町のcaféはそれらの主目的に加えて地域の居場所としての役割が大きい。
 
駅前などにある、大手のcaféチェーンを見ると1人一心不乱に何かをしている人が多い。PCで仕事するサラリーマン、大学の課題を作成している学生さん、問題集とノートを開いて勉強する受験生など。大手のcaféチェーンでは純粋に何かをする場所が提供されている。
 
反対に、下町の小さなcaféは人とのつながりであったり、小さなコミュニティを産み出す場所のような気がする。
 
実際、caféをOPENした直後から以前のcaféの常連さん達が来てくれた。
 
「まっていたのよ!」
 
皆さん、口を揃えて喜んでくださった。
 
「もう、caféが閉まっているから足が悪くなっちゃって……。ほんと、OPENして良かったわ!」
 
綺麗にお化粧をしたご婦人が足を擦りながら言った。
小さな子どもが手放しで褒められた時のように、純粋にうれしかった。
 
もちろん、失敗も沢山経験した。
 
OPEN当初は店内でお惣菜も販売しようとコンビニに並んでいる、おにぎりやサンドウィッチが置いてある2m程ある大きな冷蔵ケースを設置したのだ。
 
Cafeスペースでゆっくりも出来るし、家でごはんを作りたくない時はお惣菜も買って帰れる。完璧でしょ! そう思いながら準備を進めた。
 
が、しかし。なんと!
 
Café仕様の狭いキッチンでは、大きな冷蔵ケースを埋めるだけのお惣菜を作ることが出来なかった。また、様々な種類のお惣菜を用意するには食材も沢山必要であるため冷蔵庫には入りきらなかった。
 
お惣菜を大量に作るには、もっと大きなキッチンが必要だったのだ。
 
また、お惣菜を販売する冷蔵ケースに電源を入れるとcaféに似つかわしくない「ブーン」という電子音がした。
 
私はコンビニと違い静かな店内に響く電子音を故障していると勘違いし、急いでメーカーに連絡し、修理に来てもらった。が、お察しの通り故障ではなかった。
 
「コンビニやスーパーに入ると、同じような重低音の音が聞こえるはずです。この音は、その音と同じで冷蔵ケースの正常音ですね。コンビニやスーパーだと、ガヤガヤしているので気になりませんが、Caféに置く場合には入り口近くの小さいショーケースにするとか、音楽で相殺するなどの工夫が必要です。この配置だと冷蔵ケースをおいてCaféを運営するのは難しいかな」
 
親切なメーカーのおじさんが丁寧に教えてくれた。
 
えーーーーーーっ!!!!!
 
私は驚愕するしかなかった。
 
きっと飲食店での勤務経験があれば、もっと早い段階で気付いただろう。
しかしながら、そのような経験のない私には全くの盲点だった。
 
私は冷蔵ケースを諦めることにした。
 
テ○ポスで買った40万円の冷蔵ケースを20万円で引き取ってもらった。
 
「いやいや、儲かったのテ○ポスだけだね」
 
と、人は笑うだろう。しかし、私が大真面目に考えて行動した行動した結果だ。
 
OPEN当初は、メニューも少なくお待たせすることもあった。そんな中、常連の皆さんがニコニコと見守ってくれていた。
 
それからも、メニューを変更したり、定休日を変更したり、営業時間を変更したり……。試行錯誤の毎日だった。
 
「あの店、迷走しているよね」
 
cafe近くの交差点で信号待ちしている時に、隣のカップルの会話が聞こえてきたことがあった。私は恥ずかしくて穴があったら入りたい気持ちになったりもした。
 
でも、諦めずにコツコツ改善を繰り返した。
それから、もうすぐ1年……。
 
飲食店での調理経験が豊富で、包丁さばきが素晴らしい料理人にも恵まれ、新メニューも増え定休日や営業時間も安定した。
(cafe経営に失敗した話~『Café de Chanoma』の新メニューが出来るまで~ https://tenro-in.com/mediagp/192846/)
 
4度目の緊急事態宣言が明けたら、新メニューを沢山の人に食べてもらいたい。そんな思いからPR会議を繰り返した。どうしたらもっと沢山の人にcaféのことを知ってもらえるか。文字だけじゃなく写真を使ったメニューやチラシに変えようか。メニューにキッズメニューを追加しようか。みんなで沢山話し合った。
 
しかし、4度目の緊急事態宣言は明けなかった……。
 
新型コロナウイルスの毎日の感染者数が5000人を超えた8月。
 
売上が極端に落ちた。
目に見えて客足が減り、人件費が売上を上回り大きな赤字となった。
 
正直、これまでも経営は厳しかった。が、ここまでではなかった。
 
1年前は最低でも国民全体のワクチン接種が済めば日常が返ってくると信じて頑張れた。
 
しかし、現実はどうだろう?
 
新型コロナウイルスの新規感染者数が、首都圏を中心に相次いで過去最多を更新し、これまでで最も感染力の強いウイルスの一つであるといわれているデルタ株の台頭によりコロナ渦が長期化する未来しか見えなくなってしまっている。
 
1年前には想像もしていなかった、全く先の見通しがつかない現実に私は戸惑った。
 
このままcaféの営業を続けていても良いのだろうか?
 
初めて疑問が湧いた。
 
ちょうど、その日。
私達の住む区に総理大臣が視察に来ていたというニュースを見た。他の区に比べてワクチン接種の区民の接種率が異様に高かったからだ。
 
「私達の区では新型コロナウイルスの対応は災害対応として対処しています」
 
テレビに映る誠実そうな区の職員は、総理大臣にそう説明していた。
 
災害……。
そうか、コロナは大震災と同じ災害なのか……。
なるほど、それではコロナ渦がいつ終わるかなんて誰も予想つかないよね……。
 
私は急いで8月の収支を元に今後1年間のシミュレーションを行った。
新型コロナウイルスの猛威が収まらず、8月と同じ感染状況が今後も続いた場合を想定して試算した。すると、3カ月後にはcaféを閉店するしかない現状が浮き彫りとなった。
 
私は急いでcaféのスタッフと話し合った。
 
現場のスタッフはお客さんが来ない8月の現状に疲弊していた。
作っても食べてもらえない料理やスイーツを作り続けることが辛いと言った。
 
彼女はコロナ渦前までは大手の飲食店のキッチンで働いていた飲食業界20年のベテランスタッフだ。
 
「大手の飲食店ではキッチンに入るとお客様と直接ふれ合うことが滅多になかったから、今はお客様との距離が近い個人店で働き、メニューから考えて料理を作り、お客様との関係性をゆっくりと育む接客が出来て嬉しいです。飲食を始めた頃の楽しいなぁーっと言う気持ちを思い出しているんです」
 
と、はにかんでいた彼女の姿はどこにもなかった。
 
シフォンケーキを週に何度も食べに来てくれるお客様から昔ながらの固めのプリンを作って欲しいとリクエストされ喜んでいた彼女。
 
「今、お菓子を作っていても全然楽しくないんです……」
 
料理が大好きで料理人になったスタッフの悲痛な声だった。
 
これは決断するしかない。私はそう思った。
 
休業してもスタッフの賃金は新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例である雇用調整助成金で保証される。地域の居場所を無くしたくない気持ちは強いが、私が今一番に考えなければいけないこと、それはスタッフの雇用を守ること。
 
私は頭を180度回転させることにした。
 
まず、コロナ渦はもうすぐ終わるだろうという楽観的な予想を捨てた。
 
100年前のスペイン風邪は収束まで4年かかったという。
 
世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)を宣言したのは2020年3月11日。
 
来年の今頃はコロナも収まって、みんなで会いたいね。なんて、言っていたが、現状は言わずもがなである。もしかしたら、パンデミック宣言から4年後の2024年3月11日まで続くかもしれない。
 
私はコロナ渦でも売上の増減が激しくない、新しい業態を検討することに決めた。
 
次に、私は考えた。私がcaféを通して実現したかった未来を考えた。
 
すると、人とのつながり、地域の居場所、温かい場所、子供からシニアまで老若男女が気軽に集まる場所。そんなキワードがフワフワと浮かんだ。
 
時代がどれだけ変わっても、人とのつながりの価値は変わらないと私は思う。
むしろ、こんな不安定な時代こそ、人とのつながりの価値が高まっていくだろう。
 
そうだった。そもそも、私は地域の「茶の間」のように地域の人たちが気軽に集まる居場所を無くしたくなかった。だから、『Café de Chanoma』(カフェ・ド・チャノマ)というCaféをOPENしたのだ。
 
そう、私は珈琲が大好きで物凄いこだわりがあり沢山の人に美味しい珈琲を飲んで欲しいという想いからCaféをOPENした訳ではなかった。
 
私は地域の人たちが気軽に集まる居場所をつくりたかったのだ。
 
地域の人たちが気軽に集まる居場所はCaféという業態でしか実現できないだろうか?
 
いや、他の業態でも実現可能性はあるはずだ。このコロナ渦の時代だからこその形が。私の中に希望が産まれた瞬間だった。
 
コロナ渦の中でも、地域の人たちが集まる居場所。
 
私はそんなお店をつくりたい。だから、そんなお店を探して旅に出ることにした。
 
というわけで、新しい業態を求めて『Café de Chanoma』(カフェ・ド・チャノマ)はしばらく休業します。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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