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絶望的だからこそ、原辰徳が輝いて見えた


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:村人F(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
僕の大学時代を語る上で、絶対に外せないことがある。
プロ野球だ。
 
大学院を含め計6年間。
僕はアホほどプロ野球観戦をしていた。
大学は茨城だったけど、月に2回は鈍行やら高速バスに乗って東京ドームの巨人戦を見に行っていた。
往復で6時間かかる道のりだ。
金額もチケット代やら交通費やらで8000円くらいの出費である。
貧乏な大学時代にこんなことを連発していたなんて我ながら驚きだ。
 
しかし、野球はそこまで好きじゃなかった。
小学校時代に2年くらいやっていたけど、大学のある時まではテレビでやっていても流し見している程度だった。
それなのにどうしてハマったのか。
このキッカケとなったのは東日本大震災だった。
 
2011年3月11日。
僕は茨城県の海沿いにある日立市に住んでいたけれど、地震発生時の様子は今でも覚えている。
外に出ていたけど、立っていられなかった。
近くにあった高校からは悲鳴が聞こえた。
初めて体験する長い揺れ。
恐怖を感じすぎたのか、もはや笑いがこみ上げてきていた。
 
そのあと、3日間ライフラインが完全停止した生活を送ったのも中々だったが、あの瞬間は僕の価値観を変えるには十分すぎる出来事だった。
 
そう、あの日僕は感じたのだ。
人間、いつ死ぬかわからない。
ならば思いっきり遊べる時に遊んでしまえと。
 
そこで選んだのがプロ野球だった。
1年前に観戦チケットが当たり、久々に東京ドームへ行ったことが頭にあったのかもしれない。
とりあえず、遊び先としたのが巨人戦だったのだ。
 
そこから野球観戦に拍車がかかり、気がついたら大学時代だけで日本にある本拠地球場の全てで観戦をしていた。
ほとんど見なかった高校時代からは考えられない様だ。
本当、何にハマるかなんてさっぱりわからない。
 
しかし、僕自身も疑問に思う。
なぜ、プロ野球観戦を遊び先に選んだのか。
たまたま目に入ったから、にしては行き過ぎている。
往復6時間、金額にして約8000円。
ここまで負担をかけて年10回以上も球場に行くのは、大学生にはかなりの負担だ。
それでもやっていたのは、そこまでの価値を見出していたからに違いない。
 
そして気付いた。
原辰徳監督、彼の采配に惹かれていたのだと。

 

 

 

巨人で最も勝ち星を挙げた監督、原辰徳。
就任した時点では若大将なんて言われていたが、もう還暦過ぎの重鎮だ。
気付いたら12球団最年長になっていた。
 
彼の采配の特徴。
それは誰もが思いつかない、いや思いついたとしても到底選べない選択肢を、平気で選ぶところだ。
 
2009年のWBC。
あの大会では絶不調だったイチローを使い続けた。
周りが変えた方がいいと口を揃えている状況で、ずっと試合に出し続けていた。
そして最後の最後、決勝の韓国戦をイチローの一打で決める。
こういう意志の強さと、それを成就させる運を持っていた。
 
他にも9回2アウト1・2塁。
このままでも十分チャンスの場面で、盗塁を仕掛けるなんてこともやっていた。
アウトになったら試合が終わる、普通だったらリスクが高すぎて絶対に選ばない道。
そこを進み、成功させる。
 
そういう恐ろしい選択を決めてきた。
これが原監督の最も凄まじい能力だ。
 
なぜ彼は、このような選択をできるのだろうか。
それはおそらく、尋常じゃなく勝利に飢えているからだろう。
ひょっとしたら毎試合の負けを、「死」と同じくらいに捉えているかもしれない。
そういう強烈な執念を持って取り組んでいる。
 
実際、監督の采配を見るとよくわかる。
じっとしている監督が多い中で、彼は試合中によく動く。
投手も頻繁に変えるし、バントなどのサインもバンバンだす。
勝利のためだったら、取れる手段は全てやってやろう。
そういう気迫を感じる。
 
立ち姿もそうだ。
試合が劣勢の時、チャンスを逸した場面。
彼ほど殺気のこもった表情をする監督を見たことがない。
顔を紅潮させ、唇を噛みしめる。
その凄まじさは、彼と野球をやった選手の間で語り草になるほどだった。
 
そしてこの采配は、決してヤケクソで行っているわけではない。
あらゆる手段を考え尽くし、極限まで吟味している。
最善の選択肢、自分が一切後悔しない道。
それを選び実行しているのだ。
全て計算した上で、茨の道を進んでいるのが原采配なのだ。
 
彼を支えているのは、常人離れした負けず嫌いなのだろう。
おそらく全ての負け試合において、凄まじい屈辱を感じている。
 
だからこそ、彼は全力で戦う。
毎試合、死ぬかもしれないと覚悟を持って挑んでいる。
明日世界が終わっても構わない。
そう言い切れるほど、最善を尽くそう。
この思いに満ち溢れているのだ。
 
そして、これが東日本大震災を経験した僕の心にも響いたのかもしれない。
あの悲惨な津波。
原発、止まる電気・水道・ガス。
震度6強の揺れ。
あの時ほど、日常が一瞬で消え去るのだと意識したことはない。
 
そして感じたのだ。
いつ死んでもいいと言えるくらい本気で生きてやろうと。
 
この教材として、原辰徳は最適だった。
彼の采配は、後悔を避けるための手段に満ちている。
アンチの言う批判意見には、納得しなければ一切耳を貸さない。
自分が吟味した選択肢を最後まで信じ抜く。
こういう生き方を最も実践している男だ。
 
だからこそ球場に通った。
彼の勇姿を目に焼き付けるため。
そして、己の魂を鼓舞するため。
大学時代、原采配は僕の道標だった。

 

 

 

しかし今の僕は、当時ほどの熱を持って生きているだろうか。
気付いたらプロ野球観戦の頻度は、少なくなっていた。
東京ドームへ電車1本で行ける中央線沿いの会社を選んでいたのに、年5回も行くことが無くなっていた。
そんな生活をしていたら名古屋に転勤になり、巨人のお膝元から中日帝国に移住させられてしまった。
 
今やプロ野球速報をチラ見する程度。
球場に行く頻度も年1回ありゃいいくらいまで落ちている。
大学時代を思い出すと乾いた笑いが出てきてしまう。
 
僕の人生は、こんなんでいいのか。
そういった思いも漏れ出しているように思う。
 
こんな状況でコロナ禍だ。
この感染症のせいで世の中がおかしくなってしまった。
野球観戦も1試合5000人しか入れない。
5万人入る想定でいたことを考えると大損害だ。
 
それ以外にも、あらゆる場面でコロナのダメージが発生している。
ここまで危機的な状況は、リーマンショックでもなかったかもしれない。
 
僕の周りも大きく変わった。
残業量が取り柄だった職場も、定時退社を厳命している。
収入は大きく下がり、それどころか仕事が継続できるかも怪しい。
明日がどうなっているのか全くわからない。
そういう恐怖が心を満たしている。
 
今かもしれない。
 
原辰徳を思い出すのは。
 
彼は2021年も、巨人の監督として現場に立っている。
そして9月現在、阪神・ヤクルトにリードを許した状況だ。
3連覇を狙う場合、最も踏ん張りどころの場面にある。
 
彼なのだ。
コロナ禍の絶望が心を満たした時。
明日も見えず、どういう道を歩んでいけばいいか迷った時。
この道標を、示してくれるのは。
 
原監督はやはり積極的に動いている。
主力メンバーが相次いで不調のなか、若手を鼓舞し積極的に起用することでギリギリ踏ん張ってきた。
最後まで諦めるつもりなど毛頭ない。
常に最善を尽くし、毎日戦っている。
 
この姿勢こそ、コロナ禍にあえぐ僕たちが見習うべきものなのだ。
絶望的な状況だからこそ、その中にある光を見つける。
そこに対して、狂気と冷静な計算を持って突き進む。
この勝負術が、困難を乗り越える唯一の道なのだ。
 
そして長年原采配を追いかけたから、僕にもその炎が移った。
スキルアップのための行動を積極的に取るようになった。
ニュースも鵜呑みにせず、その裏まで読み取り思考力強化に努めた。
 
勝利への道を考え続け、あがき続ける。
この姿勢の原動力になっているのは、監督の執念を球場でたくさん見てきたことだ。
 
そしてこれは僕だけでなく、コロナ禍にあえぐ全ての人間に有用な道なのだ。
全員が苦しい。
どうすればいいかわからない。
こんな状況だからこそ極限まで考え続け、最善の選択をすることが重要なのだ。
この先にあるのは、コロナ以前は想像もできなかった力を持った自分である。
それを手にするのは、原監督のように狂気と信念を持った行動を貫き通した者だけなのである。
 
しかし彼に比べたら、僕の行動は十分とは言えない。
まだ妥協が多いし、今のままでもどうにかなるかもという甘い認識が、心の中に掬っている自覚がある。
 
今の巨人は、その心を奮い立たせるのに最適な状況かもしれない。
首位阪神との直接対決でボコボコにされて、チームも6連敗。
「終戦だ、終戦だ」という声に溢れたSNS。
もはや、コロナの日本と同じくらいの絶望がファンの中に満ちている状態だ。
 
だが、この場面ほど監督が力を発揮する場面も無いのである。
原辰徳が、日本で最も伝統のある巨人軍で、1番の勝ち星を挙げた理由。
これこそ、絶望的な状況で最後まで考え抜いたことだからだ。
 
残り30試合。
いったい、どんな采配を見せてくれるのだろう。
不振にあえぐ、丸と菅野をどのように使っていくのか。
金メダルを手にし、チームの柱になった坂本をどう鼓舞していくか。
 
誰もが優勝を諦めかけているからこそ、原監督は最高に燃えているはずである。
この炎こそコロナ禍の絶望的な状況における道標になるのだ。
 
仕事、生活、日常。
奇しくも東日本大震災の時のように日本全体が暗い雰囲気に満ちている。
こんな今だからこそ、諦めず前を向き続けた者だけが勝ち進めるのだ。
 
そのために重要な信念。
明日死んでも後悔しない選択肢を極限まで考え、実践する。
原辰徳は人生を戦う上での哲学を示しているのだ。
 
僕も原野球の真髄を目に焼き付けよう。
そして、彼の信念を心に灯して生きよう。
 
誰もが絶望を感じているからこそ、あがく価値が数倍に膨れ上がる。
これこそ、監督が示してきた事実なのだ。
 
この姿勢を心に刻みつけ、日々を生きていきたい。
誰よりも勝ちに飢え、最善を尽くす原辰徳のように。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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