メディアグランプリ

凸凹(デコボコ)をならす


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:光村 六希(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
子どもの頃、何かをならすのが好きだった。
楽器を弾いたりモノを叩いたりして音を出すのではない。「デコボコをなくして平らにする」というやつだ。
 
たとえば、お風呂場で体を洗う時、椅子を使うと座面に水滴が点々とつく。小学生の頃、それが気になって、座面の端っこか真ん中の穴まで水滴を指で持って行き、そこから落とすということを無心にしていた。水滴が減れば減るほど、座面がつるっとして綺麗に見えるからだ。長風呂をして黙々と水滴を下に落とす作業を続ける。どれだけ長時間やっても、すべての水滴を落とすことはできない。でも単純作業全般が割と苦にならない特性のためか、とても楽しかった。
他にこんな人がいるだろうか。旦那は単純作業が嫌いな人なので、こんな性癖を話したことはない。というか、忘れていた。人生は、毎日のお風呂で椅子の水滴をすべて落とすことに時間をかけるほど、長くはないのだ。
 
しかし、この特性を思い出すおもちゃを今年の夏、見つけてしまった。
 
夏休みが近づいた7月後半、私は本屋さんで目立つところに置かれている、数々の自由研究キットの中に、ピカピカになる泥だんごキットなるものを見つけた。
そのパッケージにある写真の泥だんごは、確かにピカピカに光り輝いていた。さらに、完全な球体に見え、心を鷲掴みにされた。
何かをならすのが好きな私は、まん丸が作れることにも夢中になったのだ。毛糸を束ねて先を切って作るポンポン。球形に整えようとして、下手の盆栽よろしく、あちらもこちらもチョンチョンに短く切って、結果極小サイズのゆがんだポンポンにしてしまったことが何回もあった。
泥だんご作りはポンポンほど何回もチャレンジできなかった。雨の降った次の日の砂場でなければ作れなかったし、砂場の砂ではそもそもそこまで綺麗な玉は作れない。
でも、ならすのが好きな人間としては気になり過ぎる!!
 
キットの対象年齢は6歳以上だった。下の子は5歳だけど、たぶん大丈夫。私は勢いでそのピカピカ泥だんごセットを買ってしまった。
 
かつてでこぼこならしに執着していた私は、いい年のオバサンになってもでこぼこならしに執着しているようだ。
 
お風呂の椅子の水滴を落とすことを忘れてしばらく後、思春期に入った私は、自分のとてつもない凸凹(デコボコ)に気づいて精神的にどん底に落ちた。
それまで、学校の通信簿で5段階評価がつくようなものは、ほぼオール5だった私は、自信満々だった。しかし、中2の時、突如私は自分にコミュニケーション力がないことに気づく。
モノ志向で活字好きの私は、一人で本を読んだり考えたりしている時間が人一倍長く、それが成績を押し上げていた要因だったが、友達つき合いの時間が極端に短かった。物語の登場人物の気持ちは活字や行間を追って考えることができたが、周りにいる生身の思春期の同級生の気持ちは文字になっていないから考えられなかった。それくらい、自分本位で他人のことを考える意識が薄かったとも言える。
 
私には致命的に不得意なことがあるという厳然たる事実を知り、愕然とした。
自分に深い深い凹(ボコ)があることに初めて気づき、とにかく何とかしたいと思った。何とかして大きく欠けている部分を埋めたい。でもその方法はさっぱりわからなかった。家族に相談しても、「周りに負けるな」とか「成績がいいから気にすることない」といったとんちんかんなことを言われ、方法は見つからなかった。
絶望した。自分の中に見つかった凸凹(デコボコ)をならすことは不可能に思えた。他の人達は、こんな変なデコボコを持っていない。私には人一倍できることがある代わりに、人として欠落していると思えるくらい、できないことがある。こんな凹の前では、凸なんて無意味だ。なんて恥ずかしいことだろう。そして不登校気味になった。
不登校が治った後も人づきあいに大きなコンプレックスを抱え、就職してからも休職を経験した。転職活動もしたが、コミュ力に不安があったからか、成功しなかった。
 
今となっては発達障害の気があって、コミュニケーションに特性があったからこそ起こったことだと分かる。また、私の家族も発達障害の傾向があるメンバーが多く、家族に相談しても明確な方向性が見えなかったのは致し方ないことだったと分かる。
 
あれから数十年経ち、今は自分の独自性を活かして個人で仕事をしている。別に成功しているわけではないが、人との距離を自分らしく保ったままでできる仕事ができて、会社勤めをしていた頃よりも精神的にぐっと安定した。
今の自分の仕事ができるのは、人一倍できないことがあった代わりにできることがあったからだ、ということもわかる。
そして今となっては、誰しも多かれ少なかれ凸凹があることもわかる。人には得意と不得意があり、格好よく見えるところと格好悪く見えるところがある。それらを受け容れるかどうかは自分次第。人として欠落しているかどうかは、結局自分がどう感じるかであり、要するに自分のプライドの問題だろう。
 
私が本当に必要だったのは、凹(ボコ)を埋めることだけではなく、プライドという凸(デコ)を削ることだったのだろう。あの頃、「こんなにデキる私にこんな欠落があるなんて許せない!」と思っていた、自分の根拠ない自信が邪魔になっていたのだ。努力すれば凸凹のない自分になれる、何でもならそうと思えばならすことができる、と思っていたあの頃の自分に戻って伝えたい。
 
泥だんごは、子どもと一緒に作ったものの、繰り返す手順が多くて子どもが飽きてしまい、結局私が大部分の作業をやることになった。完成した時、ピカピカにはなったものの、でこぼこができてしまった。誰がやってもでこぼこはできるのだろうか。そう思ってふと「泥だんご まん丸」で検索してみた。
すると、他の人が作っている動画がいくつか出てきた。どれもピカピカにはなっているけれど、球体かといえばそうでもなかった。よかった。でこぼこができるのは私だけではなかったのだ。
でも、商品検索すると、もう少しお高いがまん丸にできる専用器具がついているキットを見つけてしまった。
どうしよう、「これでさらにでこぼこのない泥だんごを作ってみたい」と気持ちがうずく。これが私の特性なのか。サガなのか。
いやいや、これを我慢することが自分の凸凹を受け容れることにつながってさらに楽になって……いや、やっぱりでこぼこを直したいという特性を受け容れて買うことでさらに楽しくなって……。
ならすか、ならさないか。私の永遠のテーマかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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