メディアグランプリ

老いて死ぬことはきっと素晴らしい


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記事:久保那月(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私が歳をとることを恐れるようになったのは、いつのことであっただろうか。
それどころか、歳をとることを恐れるだけでなく、若いうちから死んでしまいたいとさえ思っていた時期もあった。
そんな考えになった理由と、現在私が何を考えているのかを話そうと思う。
まず、何故老いることを恐れる思考になったのか、思い当たる原因が二つある。
一つ目、美容に興味があること。
アクネケアとか、美白とか、そういう単語を貴方は聞いたことがあるかもしれない。
そういう類の単語に私は目がないのである。
朝起きれば、寝ている間に出た皮脂が肌に悪影響を及ぼすのを防ぐ為に洗顔する。そしていろんな化粧品を使って肌を保湿した後、日焼けを防ぐ為に日焼け止めを塗る。
夜、顔を洗うときはこだわりの洗顔料を良く泡立ててから洗うし、お風呂から上がれば体中の保湿を忘れない。
このように、私は自分の肌の状態を日々気にしているのだが、ふとこう思うときがある。
「歳をこのまま重ねたら、私の肌は一体どうなってしまうのだろうか」
想像する。
肌の色がくすんだ自分。
茶色のシミが肌に浮かんでいる自分。
皺が刻まれた自分……。
そんな姿になった自分を前向きに受け入れられる気が、どうもしないのだ。
老いた姿になるのはどうしても嫌だと思ってしまう。
だから、老いるのになんとかして抗おうとしてしまうのだ。
それが、二つ目の理由に繋がることになる。
私が若い内に死にたい二つ目の理由、それは鬱病に侵されたこと。
思い返すは大学二年の夏の事。
とある飲食店でバイトをしていた私は突然倒れた。
勝手に体が震え、呼吸が上手く出来なくなったのを鮮明に覚えている。
そこからバイトにも大学にも行けなくなってしまい、家に引きこもり始めた私はこう思うようになった。
「もう死んでしまおう」
そんな考えが浮かんでから、私は死へとゆっくり歩を進めるようになる。
食事を止めたら弱って死ねるという単純な思いのもと、食事を拒むようになった。
丈夫なロープを買って、首をくくれるように輪を作ったのを、いつでも使えるように枕元に置いた。
しかしそんな私を心配した母が病院に連れて行ってくれ、そして入院することに。
適切な治療と家族のサポートを受け、徐々に回復した私は食事を普通に楽しむようになり、ネットでロープを検索することも無くなった。
しかし、問題はそこからだ。
歳をとるのが怖い。年老いてしまう前に死んでしまいたい。
今度はそんな考えが及ぶようになった。
死にたいという思考は、引きこもっていた時と一緒である。
しかし、考える余地もなくただただ死にたかったのが、老いるのが怖いから死にたいという考えに置き換わったのだ。
若々しさが衰えていく自分を見たくないと、一つ目の理由で言った。
私が引きこもり、自死を考える頃には既に、老いるのを憂鬱に思う自分はいたように思える。
老いる事はつまり、死に近づくことでもある。
何を言いたいのかというと、鬱病の症状が和らいでも完全には消えなかった死にたい気持ちが、老いることを憂鬱に思う気持ちと繋がって一つになってしまったのではないかと推測している。
今までの話をまとめると、鬱病と、老化を恐れる元々あった気持ちが出会ってしまったことで、若い内に死ななければという思考に私はなってしまったということである。
ところが、そんなことを考えなくてもいいかもしれないと思わされた出来事があった。
久しぶりに女友達と会った時のことだ。
その友人と公園の隅にあるベンチで話していて、その話題が死に関することになった。
いろんな苦難を経験した彼女が、ボソリとこう言った。
「何もなくなるよ、死んだら。苦しむことも美味しい物を食べることも出来なくなっちゃう」
そうだな、と素直に思った。
そして友人と別れて、帰りに乗った電車の中。
流れる景色、淡い色の夕焼け、ゆらゆらと揺れるつり革。
それらを見て思った。
彼女のような気の置けない友人と、同じ時の流れの中を過ごし、そして歳をとれるのなら、生き延びて老いていくことも悪くはないのであろうかと。
それに私が死んだら、友人である彼女がきっと路頭に迷う。
自分が死ぬと周りが悲しむと今まで言われても、余り心に響かなかったのだが、初めてまだ死んではいけないと思えたのだ。
こんな事を言ったが、実はまだ老化を恐れる気持ちは完全には消えていない。
念入りなスキンケアはこれからも続けていくつもりだし、なるべく肌が老化しないように日焼け止めも塗り続ける。
しかし、老いを恐れて美容に励むのではなく、純粋に楽しんで励むようになった。
もしかしたらこれを見ている貴方も、歳をとることを憂鬱に思っているのかもしれない。
そんな時、友人と一緒に歳をとって笑いあう世界を想像してみたら、楽しい気持ちになるのではないだろうか。
貴方は一人ではない。貴方だけが独りぼっちで老いていくわけではないのだから。
 
 
 
 
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2021-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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