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メディアグランプリ

誰しも自分だけのパラレルワールドをもった方がいい


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記事:(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
学生時代、私はスキューバダイビングに夢中だった。大学のサークルに所属し、始めた理由は、海が好きだったからと、したことのないことをしてみたかったからと、大学生活せっかくなら遊びも大切だと、そんな普通の理由だった。
 
サークルでは、毎年夏に合宿があり、いくつかの東京の島にいくのだが、その中でも2週間近く滞在する小笠原諸島の父島合宿は格別だった。
 
父島へ行くには、交通手段が大型船しかなく、それも25時間揺られてやっと到着する。飛行機ならば、日本の裏側のブラジルまで行けてしまう所要時間。しかも、定期便が週に1回しかないため、最低でも1週間の滞在が必要になる。
時間を大いに要するこの船旅は、夏休みが2ヶ月もある大学生ならではの特権に思えて、毎回興奮した。
 
丸一日かけて島へ到着すると、その日からダイビング三昧の日々を送る。抜群の透明度を誇る小笠原の真っ青な海は、通称”ボニンブルー”と呼ばれ、沖縄のエメラルドグリーンとはまた違う、力強さや奥深さを感じる。
 
ダイビングポイントに潜り、底を見下ろしてみると、水深100m近くすこーん! と抜けている場所もあったり、上を見ても下を見ても、右も左も、青、青、青! 自分がどこにいるのかわからなくなる瞬間がある。方向感覚が狂って、宇宙空間ににひとりぼっちになったような感覚は背筋がヒヤッとする。
そこに突如、でっかいサメや回遊魚があらわれたりしたら、嬉しさよりもまず、驚きと恐怖で、うおーーーー!! と水中で絶叫することもしばしばだ。
 
特に大好きだったのが、野生のイルカと一緒に泳ぐドルフィンスウィムだった。船からイルカを見つけ、近づいてから海に入り一緒に泳ぐ。水族館でしかみたことのない生き物が、こんな広くて深い海で跳び回っている、イルカって本当にいるんだと感動したことは今でも覚えている。
 
社会人になってからは、やはり時間と距離の関係で小笠原は気軽には行けない場所になった。その後、世界遺産にも登録されて、メディアで特集されているのを見かけると、懐かしさと今すぐに行けないもどかしさがいっきに込み上げ、より一層私の中で特別なものになっていった。
 
そんな頃に本屋で手に取り、今でも繰り返し読む大好きな本に出会う。星野道夫さんの『旅をする木』という本だ。写真家として、アラスカへ渡り、極北の自然とそこに生きる動植物、エスキモーの人々の暮らしなどを取材していた著者のエッセイ本。旅人たちのバイブルとも言われ、生き生きとした鮮やかな写真に圧倒されながらも、優しい文体で書かれる文章に、どうしてこんな暖かい気持ちにさせてくれるのか、と読むたびに感動する。その中に収められている、たった5ページの短編に私はものすごく惹かれてしまう。
 
『もうひとつの時間』
 
そうタイトルのある内容は、著者の友人である女性編集者が、休暇をとってアラスカのザトウクジラの撮影に同行した時のエピソードだ。前日まで東京の仕事で忙しくしていた彼女の目の前で、群れのザトウクジラの一頭が、大きく海上にジャンプし、海を爆発させていった。それを見た彼女は絶句し、こう言った。
 
「東京での仕事は忙しかったけれど、本当に行って良かった。何が良かったって? それはね、私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラがが飛び上がっているかもしれない、それを知ったこと……」
 
私には彼女の言った言葉がよくわかる気がする。自分とはまるで違う別世界が、今この瞬間にも確実に存在しているということを、私も知っているからだ。
 
パラレルワールドとも言ってみるとしっくりくる。彼女にとってのパラレルワールドがアラスカであり、飛び上がったクジラのいる世界とするならば、私にとってのパラレルワールドは間違いなく、小笠原のボニンブルーで、そこに生きるイルカや魚たちだ。
 
忙しい日々、そして最近では自由に外に出られないストレスを抱えながらも、ふと目を閉じ、想像を飛ばしてみる。真っ青な海があらわれて、目の前を無邪気に跳ね回るイルカの群れがある。何十匹ものマグロがトルネードしながら回遊している。まだ出会ったことはないが、小笠原にはザトウクジラも来る。体長15m程になるあの巨体に水中で出くわしたらどんなだろう、怖さで震えてしまう。尾ビレで叩かれでもしたら、人間なんてイチコロなんだろうなあ、と想像が勝手に膨らむ。
 
小笠原の海のことを考えると、青くて果てしない空間の広がりにだんだん身震いがしてくるので、パッと目を開け、再び自分の世界に戻ってくる。
 
私は、私のパラレルワールドがあることを知っている。自分では到底かなわない、壮大で雄大な、それを前にするとひとりポカーンとしてしまうくらいの大きなものであることを。
目の前にある考えごとが矮小化するような、そんな世界が現実にあることを知っている。だから私は自分の世界を生きれている気がする。
 
旅先での風の感触、生まれ故郷の雪国の寒さ……自分の五感の記憶をたどってみると、きっと誰しも自分だけのパラレルワールドを持っているのではないだろうか。
余裕がなくなっているなあと思ったら、想像という時空旅行で、2つの世界をいつでも行き来すればいい。
 
星野道夫さんは、短編の最後をこう締めくくっている。
 
「ぼくたちが毎日を生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい。」
 
こんなご時世だからこそ、自分だけのパラレルワールドを見つけてみたらいかがだろう。きっと心が軽くなるはずだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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