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こがっちに会いたい


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記事:井上 春花(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
季節の変わり目になると、私はこがっちに連絡する。
ワンシーズンで小さくなる子供の洋服を、福島県郡山市に住むこがっちに届けるためだ。挨拶もそこそこに
「いま娘ちゃんと息子くん、何センチ?」
とLINEを送る。
 
こがっちのレスポンスは早い方ではないので、数時間待つと、
「いつもありがとう! 助かってます! いま娘は○センチ、息子は○センチを着てるよ。」
そんなメッセージと一緒に、以前送ったお古の洋服を着た、かわいい姉弟の写真を送ってくれる。写真で成長を見ているので、顔と名前は完全に一致するが、会ったことはない。
 
「大きくなったね!」
と、毎回ビックリ。会わない子供は成長が早い! という主旨のやりとりをして、
「それじゃあ、また送るね! 整理して送るから、待っててね~。」
と、時によっては、そこまで盛り上がることもなく会話は終了する。
 
私のずぼらさも手伝って、ここから実際に送付するまでが、まあまあ長い。場合によっては1か月くらい経ったりする。段ボールに入っているお古も、送るときには大体ジャストシーズンだ。
気が付いたら「送ったよ~」なんて連絡を入れるが、忘れて突然送ってしまうこともある。
一方、こがっちも受け取りの連絡をしてこないこともある。
お母さん同士は忙しいのだ。おばさんはうっかり忘れるのだ。
 
と、至極適当な取引だが、毎シーズン成立している。こがっちのおばあちゃんの家がうどん県 香川なので、お礼だと言って夏には突然美味しいうどんを送ってくれるのも恒例だ。
 
こがっちと私は、同じ会社で働いていた。百貨店の紳士服フロアのカジュアル衣料売場に私は配属され、彼女は一ヶ月遅れて、同じフロアの肌着売場に配属された。
入社したてで仕事を覚えるのに必死で、私には誰かと仲良くなろうという意識はなかったが、彼女は「同級生」という共通点一つで、いつの間にか親しく接してきてくれた。
 
笑顔の多いタイプではない。
みんなのリーダーになるようなカリスマ性を持ったタイプでもない。
天然でマスコット的な愛されキャラでもない。
人の悪口を言わないキラキラ前向きタイプでもない。
気配り満点なタイプでもない。
 
なのに、不思議。
彼女はフロアの隅々まで仲のいい人がたくさんいた。
売場社員は先輩後輩問わず、派遣の販売員さんとも年齢問わず、出入りのガテン系配送業者のお兄さんに至るまで、めっちゃ仲がいい。
抑揚のない朴訥としたしゃべり方で、誰とでも同じテンションで接する。
嫌いな人もしっかりいて、現場で一緒に汗水流さないタイプが嫌いなようだった。よく愚痴をこぼしていた。
 
なんだろう。人に好かれるべくして好かれているのではない。だが、私は彼女ほど“てらいのない人”を知らない。ほとんど「自分に無頓着なのか?」と思うほど。こがっちと一緒にいるとき、私は警戒心ゼロになるのだ。
この人間臭くもありながら、限りなくシームレスな人との付き合い方に、私は大いにカルチャーショックを受けた。
 
彼女の偉大さを物語るエピソードが二つある。
 
一つは、趣味の登山でのエピソード。
彼女には岐阜県にチャレンジしたい山があった。その山は売場の同僚 Nさんの実家近くにあった。Nさんのお父さんは何回かその山に登った経験があるらしい。
 
もし「せっかくならこの伝手を使って実現させるか」と目論むなら……。
Nさんと休みを合わせて、Nさんの実家へ行き、お父さんも伴って登山を楽しむ。というのが現実的だろうか?
私の感覚だと、自分の登山のためにNさんに休みを合わせてもらうのがちょっと心苦しい。
貴重な休みにわざわざ実家へ案内しろというのも申し訳ない。
初めて会うお父さんを付き合わせるのは考え付かない……。
 
こうした小心者の考えが浮かぶが、こがっちは斜め上を行く。
なんと、Nさんをすっ飛ばして、単身Nさんの実家を訪ね、初めて会うお父さんと二人で山を登ってきたというのだ……!
今も語り草になっており、ついこの間も、Nさんと「珍しいタイプだよね」と思い出話に花を咲かせた。
 
もう一つは、私にとっての嬉しいエピソードだ。
一人目の出産のとき、私は故郷である山口県周南市に里帰り出産をした。観光するような土地ではない。それにもかかわらず、彼女からメールが来た。
 
「香川のおばあちゃんの家に行くから、ついでに寄ろうと思うんだけど!」
 
「ついでか?!」と明らかについでの距離じゃないので笑ってしまったが、親しい友人もみんな地元を離れていたので、嬉しい来訪に違いなかった。
駅前まで送ってくれた母親も、
「奇特な友達じゃねえ。大切にしんさいよ。」
と車中、感心しきりだった。
ほんの2時間程度で電車の時間がきてしまったが、この人とは一生付き合えると思った出来事だ。
 
誰かと仲良くなりたいとき、私はこの”こがっち精神”をインストールする。
「一緒に過ごしたい気持ちをためらわないこと」
今迷惑じゃないかな?
時間使ってもらうの悪いな。
私と過ごしたいかな?
自然に湧き出るこんな思考回路を断ち切る。
一見相手を思っているように見えて、実は自分に向いたベクトルを、相手に向ける。相手への気持ちは?
「私は会いたい。」
 
相手を尊敬できるとか、魅力的だとか、私のことを分かってくれるとか……
そういうことは、案外二の次なのだ。
きれいに尊敬されるよりも、気軽に会える存在でいたい。
神棚の友達ではなく、今日も私の鞄に入っている……エコバッグだ。
綻びはあるけど、使い勝手が良くていつも入っている。なんでもひょいっと包んで入れてしまう、このエコバッグみたいな友達でありたい。
 
どんなに思っていても、会ったり話したり、コミュニケーションが途切れたら、関係は終わる。不精な私は、そんな友達もたくさんいた。
一方、少しくらい時間があいても、ひとたび集まれば復活する関係もある。それも、子育てが落ち着いてきた今は経験しはじめている。
シンプルなこと。ふっと思いついたとき、連絡したり会いに行くだけだ。
 
思ったよりコロナ禍が長引いている。県外に住むこがっちとは、もちろん会えていない。
でも、確信に近い自信がある。移動が可能になったら、昨日の続きみたいに会える。
ある日突然、
「ついでに寄ろうと思うんだけど!」
と連絡する。会いたい気持ちに距離は関係ない。
 
ああ、こがっちに会いたい。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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