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大好きなお店の閉店


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:忠内 樹(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
2021年9月26日。大好きなお店が閉店した。私にとってとても居心地のいいお店だった。休みの日の気分転換にふらりと行く、香りのいい珈琲が提供され、ゆったりとした時間を過ごせるカフェのようなお店であった。
 
このお店との出会いは2018年1月2日。家族の付き合いで行った初売りで、たまたま通りかかった着物屋さん。着物にはあこがれがあるものの、なかなか着る機会もないし、着るのも大変だしと思えていて、人生の中で後回しにしていた興味のあるものの1つだった。浴衣は着たことがあったが、着物は着てみたいと思ってもなかなか手を出せなかった。インスタントのコーヒーには慣れていたが、香りを楽しむほど珈琲に精通していないそんなイメージに似ていた。
 
着物にあこがれていたのは、小さいころ田舎に行くと祖母が縫っていたからだと思う。祖母がお出かけのときに着物を着る印象もあり、着物って素敵だなと小さいころは思っていた。お祭りの浴衣ぐらいしか着る機会がないのに、七五三、親戚の結婚式への参列で着せてもらったときに、とても動きにくいのにお姫様になったような気がしてウキウキした。
 
高校生のとき、祖母と関わりのあった着物屋さんの店頭にあった振袖に母が一目ぼれし、私の成人式の着物を仕立てた。私が覚えている、初めての私の着物だ。成人式の日に着せてもらって、お化粧をしてもらって、気が引き締まった。とても素敵な模様、色の組み合わせ、そして、着物を着られること、そしてそれが記念に残ることがとても嬉しかった。そのときの大人な雰囲気がとても気に入っていて、友人の結婚式では可能な限りその振袖を着ていた。赤と緑の着物に小物や髪飾りで雰囲気が変わることがとても楽しかった。珈琲もカフェもあまりよく知らないけど、おすすめの珈琲を飲んで大人に近づいた感覚に似ていたのかもしれない。そして、同じ珈琲なのに添えてある小菓子でその時間の印象が変わるそんなイメージだった。
 
結婚後は振袖を着るのもどうかというところから、着物からは離れていた。母の着物が実家に置いてあったり、祖母の着物が田舎にあったりして、とても興味はあったが、着る機会もなければ、置き場所がないという感覚があった。
 
そんな私が初売りで出会ったのは、洗える着物の福袋、それもいろいろな小物もすべてセットになっているものであった。店員さんから「着物、着られますか? 着られなくてもワンコインレッスンをしているので、ぜひどうぞ。」と声をかけられた。いつもなら会釈して通り過ぎるのに、その日はなぜか気になってしまった。ちょうど和の習い事を始めたときで、着物を着る機会があるかもと頭をよぎり、自分の着物があってもいい、便利な着物があってもいいのかもと思えた。
 
それから数週間おきにお店に通う日が始まった。毎回1時間、お店の手の空いているスタッフが入れ替わりで付いてくれて教えてくれる時間となった。私の担当のスタッフの方だけでなく、お店のほかのスタッフもいつも笑顔で迎えてくれて、スタッフが違っても基本は同じなので、結果着られるようになり、もっとうまく着られるようになりたいと追加でレッスンに通い続けた。補正の仕方、手の使い方、いろいろと教えてもらった。少しずつ上達していくことがとても嬉しかった。
 
そんなときに友人の結婚式に招待された。久しぶりの結婚式、服も靴も歳相応のものを持っていないなと思ったときに、着物を着ていったら喜ばれるかもと思えたらウキウキした。結婚式だと訪問着等の少し格式のある着物を着ていくようにと習うが、お店のスタッフさんに相談すると、結婚式に参列できる小紋もあることを教えてくれた。それまで結婚式の参列者の着物のイメージは淡い色のイメージがあったが、その時は深緑にとても惹かれていた。華やかさに欠けるかもと悩んでいることを伝えると、羽織にするといいと勧められ、素敵な羽織も仕立てることができた。珈琲にいろんな種類があって、その中から私にあう豆を見つけてきて、おいしい飲み方も教えてくれるし、私が気になった豆はどうアレンジしたら飲みやすくなるかを教えてくれる、そんな感じに似ていた。
 
それからもお店に通う機会はよくあった。着物の作り手の方が来るのでぜひ見に来てくださいとか、今はクリーニングのタイミングなので、この前着ていた着物はクリーニングに出すと長持ちしますよとか、本当にいろいろと声をかけてもらってはお店に行っていた。行きつけのカフェでいい豆を仕入れたから飲みにおいで、ちょっといいマグカップ用意したから見に来てよと言われているような感じだった。
 
そんなお店が閉店した。正直とてもさみしかったし、今思い出しても少し涙が出てくる。私の居場所がなくなったようなそんな感覚があった。でも、そこで教わったことはたくさんあって、そこで過ごした楽しい時間もたくさんある。その想い出のおかげで私は着物を楽しめているし、これからは着物を着るたびにお店でのことを思い出して心が温まると思う。着物を自分で着る機会をどんどん作って、自分の着物を自分らしく楽しむ時間を増やしていきたいと思わされたきっかけとなった。お気に入りの珈琲を片手に想い出にふけるように。
 
 
 
 
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2021-09-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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