メディアグランプリ

一族の土地〜ダーチャ〜

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記事:野田 早百理(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
あなたは「ダーチャ」という言葉を聞いたことがありますか? ダーチャとは、ロシアの郊外に点在する、家庭菜園付きの夏の別荘小屋のことです。ウィキペディアには、「ロシア語でダーチャはダーチ(与える)という動詞に由来し名詞ダーチャは(与えられたもの)の意味である。ダーチャは第二次世界大戦中から大戦後の食糧不足の対策として、市民に対し土地を与えるように州政府や国に要求する運動が起こり、1960年代にフルシチョフ政権が一家族に最低600ソートック(平米)の土地を与えるよう法制化したものである」と書いてありました。
 
ロシアには、ダーチャで育てた野菜や果物を家族みんなで食べたり、長い冬の間の保存食として、野菜を瓶詰めにしてピクルスにしたり、ジャムにしたりする習慣が根付いています。今ではロシアだけでなく、ヨーロッパの各地でこの「ダーチャ文化」が広がりつつあります。私がドイツでCAをしていた20代の頃、友人のクロアチア人がスイスにあるダーチャでの夏休みに招待してくれたことが私がダーチャ文化に出会うきっかけでした。
 
ダーチャの大きさは様々ですが、家族4人が1年間十分に野菜や果物を自給自足するのには、大体6アール(600平方メートル)あれば良いと考えられていて、そこに水道や電気などのインフラを通した小屋を自分で建て、セカンドハウスとして使うのが主流だそうです。
 
私は小さい時から『となりのトトロ』に出てくるような田舎暮らしに憧れていて、ダーチャのことを知った時、「いつか自分のダーチャで野菜や果物を育てながら素敵な小屋で過ごしてみたい!」と思っていました。パンデミックで生活がガラリと変わったことをきっかけに、2020年の12月に田舎への移住を決め、2021年の4月に家族5人で人口2000人の佐賀県のななやまという里山地区に引っ越してきました。築65年の古民家を借り、夫婦で『地域おこし協力隊』という新しい仕事を始めました。地域新聞を作るのが仕事なので、取材の中でたくさんの農家さんたちと知り合うことができました。ある方に私がダーチャの話をすると、「今使ってない耕作放棄地があるから、そこやったら使ってよかよ」と畑を貸してくださることになったのです。しかも、無償で!
 
畑を見せていただくと、3方を山に囲まれた200坪(約6アール)の素晴らしい土地が広がっていました。何年も作物を育てていなかったので、あたり一面に雑草が生え、そのおかげで私が目指している自然農法にぴったりの豊かな生態系と土が作り上げられていました。草を刈ったことも、畑を耕したこともなかった私は、家をお借りしている家主さんにお願いして、草刈機の使い方を教えてもらいました。2日がかりで一面の草を刈った後、上から写真を撮って、iPadでこれからのダーチャ予定図を描き始めました。
 
水道は地下水を汲み上げるポンプがあるので、それを利用します。電気はソーラーパネルを使ったオフグリッドスタイル、ガスはカセットコンロを使った簡易的なミニキッチンを作る予定です。古屋は強化プラスチックの農業用ハウスを建てて、その中に育苗エリアや耐寒性の低い植物が冬を越せるようなエリアと、テーブルや椅子を置いてリラックスできるスペースを作ります。天井にはブドウやキウイなどの蔦性の植物を這わせ、直射日光が当たらないようにします。小屋の周りを木のデッキで囲って、バーベキューグリルとパラソルを置き、鉢植えの植物でデッキを取り囲んで、アウトドアダイニングスペースにします。
 
小屋の入り口前からは芝生で覆われたダーチャを縦断するメインストリートを通し、その道の両側に放射状に畝が広がるようにします。その野菜と相性の良い野菜やハーブ(コンパニオンプランツ)を一緒に混植して、農薬や化成肥料を使わずに、虫と共存しながら自然な農法で育てます。あちこちにミカンやレモンなどの柑橘や、桃、梨などの果樹を植え、マートルやチェストツリーなどの薬効の高いハーブ系の樹木も植えます。山の中の畑で、もぐらや猪、ハクビシンなどの動物たちもたくさんいるところなので、ダーチャの周りには背の低いベリー類やクズリなどの低木を植えて、天然の柵代わりにします。
 
実は、佐賀県だけでなく日本全国の里山地区では、農業従事者の高齢化に伴って耕作放棄地がどんどん増えてきています。農業を本業にするというのは本当に覚悟のいる大変なことだと、農家さんたちの話を伺うたびに痛感します。でも、いつもは都市部に住んで仕事をし、休みの日に里山にある自分のダーチャに来て自然の中で過ごすというライフスタイルは、これからの生活様式にとてもあっているような気がしています。
 
ダーチャは毎年少しづつ手を入れて、子ども達や孫たちに繋いでいくものだそうです。子どもが小さい頃から一緒に作り上げてきたダーチャを、大きくなった子供たちが受け継ぎ、そこでまた子どもを育てていく、なんてとても素敵なことだと思いませんか。そんな『一族の土地』が出来上がれば、お墓参りに行く代わりにダーチャに行って「この木はおばあちゃんがあなたが生まれたときに植えてくれた木なんだよ」みたいに、亡くなった先祖のことを墓石ではなく、生きている木に触って、その木の実を食べることで思い出してもらえるなんて、私がそのおばあちゃんだったらとても嬉しいです。
 
私はこれから自分たちの『一族の土地』であるダーチャ第一号をここ『ななやま』に作ります。そして、どうやって作っていくかをYouTubeやインスタグラムなどのSNSを使って発信し、同じようなダーチャのライフスタイルに興味のある人と繋がっていくつもりです。そうすれば、耕作放棄地に私たちのようにダーチャを作りたい人たちが都市部からやってきてくれるかもしれません。人が増えれば、活気が生まれます。新しいビジネスが生まれます。新しい可能性が繋がっていきます。後2年半の任期を残す『地域おこし協力隊』の仕事を全うするためにも、ダーチャを楽園のように素敵な場所にしていくつもりです。
 
 
 
 
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2021-09-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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