メディアグランプリ

ぼくのメンターは文字でできている


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記事:庄子健一(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「身近で目標となる人はいますか?」「メンターはいますか?」
昔々、ぼくがまだ社会人になったばかりのころ、そういう質問はどうにも苦手だった。ぼくにはあこがれの人、だとか、メンターとして導いてくれる人はいなかった。もしかしたらいたのかもしれないけれど、昔はそんなことに気づきもしなかった。この世界では誰も助けてなんかくれない、頼れるものは自分だけ。そう思っていた。
そのころ、ぼくを導いてくれたのはたくさんの本だった。
 
新卒で社会人となり、ぼくは茨城の実家から都内のとある企業に片道二時間かけて通うことになった。正直、望んで入った会社ではない。就職氷河期の真っただ中、何十社もの就職試験に落ち、その会社しか行くところがなかったから入ったにすぎないところだった。
もちろん、そんな心意気で仕事がうまくいくわけもない。社会に出たばかりのぼくは、なにもできず、どうしていいかもわからず、何事もうまくいかず、ひたすらもんもんとする日々を送っていた。
 
そんなぼくにとって癒しの時間は、長い電車通勤中の読書だった。
実家の最寄駅から常磐線に乗り、乗り換えなしで上野駅まで。幸い、実家の最寄り駅は始発や車両連結のあるターミナル駅だったため、座っての通勤が可能だった。
帰りも始発上野駅(当時はまだ東京駅までつながっていなかった)から座っての帰宅路。
特に上野駅で帰りの常磐線に座ると、「ああ、今日も終わった」とほっとした。
行きは朝起きの眠気にやられていたのと仕事のことを最大限考えないようにするために、ほとんど寝ていた。でもその日の仕事から解放された帰りの一時間十数分は、ぼくにとって至福の時だ。
 
最初は小説ばかり読んでいた。ミステリー、歴史、青春もの。ジャンルは何でもよかった。
小説には、ここではない別の世界に連れて行ってくれる力がある。その世界で生きている人々は、なんらかの目標があり、哲学があり、その人ならではの魅力がある。そこには気持ちが通じ合う仲間がいて、大切に思い合える恋人がいて、人々に称えられる実績がある。不思議な文化や、奇妙なシステムが成り立っている、夢見るような世界が広がっている。
学生のころ最もなりたくなかった、満員電車で通勤する都内の営業職サラリーマンになってしまいひたすらひねくれていたぼくにとって、通勤電車での読書は、聖域で行きたい世界に行って会いたい人に会う逃避の儀式のようなものだった。
 
もちろんただ憧れるだけではなく、少しでも現実に照らし合わせて学ぶことも多かった。
世界の歴史、そこに生きる人々の苦悩や喜び、価値観。困難の乗り越え方、人の愛し方、生きるための強さ。小説はぼくにいろいろなことを教えてくれた。
どんなに現実世界が辛くとも、どこかにこの本の中にある世界や人々がいるに違いない。そんな希望を胸に、毎日を生きていくことができていた。
 
初めは小説ばかりだったけれど、だんだんとビジネスに関する本を読むようになった。
ビジネス界の偉人の書いた本や、経済のしくみ、それから転職に関する本も電車の中で読んだ。会社の誰も教えてくれない、仕事のする上で根本的な大事なこと、心構え、これから世界はどうなっていくのか。いわゆる「意識高い系」に人たちが読むだけれど、「そんな風に仕事ができたらどんなにいいことだろう」と書物に書かれているビジネスマンや事業内容たちに憧れていた。ひそかに転職も考えていたから、どうすればよい転職ができるか、参考になりそうな本を読みまくった。
 
社会人2年目、ぼくは鬱になった。あまりにうまくいかず、頼れる人もおらず、気分はどん底だった。そんなときにも本を読んだ。うつ病に関する本、医療心理学の本、自己啓発本。どうすればこのどん底から抜け出せるのか、ひたすら本の中に探し求めた。学校で習うことはまずない人の心の仕組みを知ったのもこの経験からだった。自分で自分を励ましたり、勇気づけたりする方法もこの時に初めて学んだ。
 
仕事で悩んだとき、周りの関係がうまくいかなかったとき、心の病にかかったとき。ぼくに答えや解決法を教えてくれたのは、本だった。
本を読めば解決策をくれる、考える方向を変えるきっかけをくれる。それは日々会社の上司や先輩、同僚や親なんかがくれるアドバイスとは心に響く度合いが全く違った。
いつもこうしているから、そういうものだから、とかそういうことではない。
どうやって成り立っているのか、なぜ必要なのか、そのためにどうすればいいか。それをわかりやすいように、納得できるように本には書いてある。
その方法や切り口は一つではなく、いろいろな方向から、様々な見方で示してくれる。
 
片道2時間の通勤は決して快適なものではなかったが、少なくとも帰り道の一時間は、ぼくにとって本という先生と接することのできる至福で有意義な時間だった。
4年後にぼくは新卒で入社した会社から転職をして、それから通勤中にがっつり本を読む機会はなくなってしまった。それでも、書籍が持つ偉大さや多様さ、懐の深さを知ったのは毎日苦悩の中で持っていた通勤電車内の読書という機会があったからだ。
 
 
 
 
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2021-09-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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