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二人羽織で今日もゆく


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西元英恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「もう本当、大変!」
「そうだろうね、毎日お疲れ様」
 
響いてない気がする。話は聞いてくれるが、どれだけ伝わっているのだろうか。
 
もどかしい、やたら時間がかかる、散らかる、手さぐり……。
あの大変さを一言でわかりやすく説明するなら何だろう。
 
しばし考え頭に浮かんできたもの。
そうだ! 二人羽織だ!
 
夫にそれを伝えると「あぁ!」と合点がいった顔をした。
毎日、男児二人の相手をする大変さを夫に訴えているのだ。
 
小さいうちの育児の大変さは二人羽織に似ているかもしれない。
まったくもってコントロール不可なのだ。自分の思うように事が運べないというのはなかなかのストレスである。
 
例えば、幼稚園に行くための朝の支度。
2才の次男は最近身の回りのことを自分でやりたがるようになった。
玄関で靴を履く。
なかなか履けないので手伝おうとするも「ダメ!」と拒否される。
そう、自立のためにはもちろん見守るのがいいのは百も承知だ。
しかし、時間が迫ってくるので焦る。手伝って素早く履かせたくてウズウズするのをこらえてじっと待つ。すぐ目の前に食べ物が見えるのに鼻のあたりをウロウロするようなもどかしさだ。
 
また、幼稚園お迎え後にみんな連れだって公園へ行った時。
夕方も4時を過ぎ、母親たちはそわそわしだす。
「帰るよー!」
しかし、なぜかそこからお尻に火が付いたかのように更にアクセル全開といった感じで遊びだす子供たち。自転車、キックボード、ローラースケート、砂場遊び、ブランコ……。
帰ると言われたら焦るのかあれもこれもと手を出し、しまいにはケンカをしだす。
(おいおい、帰るって言ってんだろ)
結局公園を出たのはだいぶん日も陰ってきた夕方5時だった。
まあとにかく時間がかかるのだ。この頃になると疲れ切った母親たちの半分は白目をむいている。
 
やれやれと思い、公園を出ようとするがまたひと波乱勃発。
体重制限の関係で次男は子乗せチャリの前かごに乗らねばならないのだが、「のらない!」と乗車拒否。
タクシーの運転手が乗車拒否する話は聞いたことあるけど、お客さん側が拒否するのは聞いたことないぞ?
仕方がないので最近気に入っている後ろのシートに乗せる。
「あとで交代だからね? 約束だよ」
まだ正式な指切りげんまんの仕様を理解してない彼は、静かに頷きながら私が差し出した小指をそっと手のひら全体で握ってくる。
(ほんと、わかってんだろうね?)
 
後ろのシートが満席になったので一定の地点まで長男にはランニングをお願いする。
やっと最後のお友達と別れたところで(もう折れんぞ)と気合いを入れて告げる。
「ほら! 約束だよ! 二人とも自分の席に乗ろうか」
しかし、自転車を停めたところが悪かった。また別の公園の近くだったのだ。
 
ここまで走ってきた長男が言う。
「お母さん、ちょっとこの公園寄っていい! ?」
(いや、いいわけないだろう)
答える間もなく、長男が公園に駆け出す。それを見て黙っているはずもない次男が言う。
「ぼくもいく!」
シートで暴れられては困るので、もうどうにでもなれ! といった気持ちで次男を自転車から降ろす。
二人はバネ付きの揺れる木馬で仲良く漕ぎ出した。ケラケラと笑って楽しそうだ。
(今どき、サラリーマンだってはしご酒なんかしない時代だよ?)
 
帰りたいのに、帰れない。
母親たちはいつもこのもどかしさと闘っているのだ。
 
こんなところも似ている。
二人羽織はコントロールが難しいので自分で食べるよりもテーブルが散らかる。
それは我が家の食卓においても同じことが言える。
ご飯の最中、テーブルの下は(すずめに餌付けでもしてるのかな?)といった感じで米粒、きのこ、肉のかけらなんかが沢山落ちている。
子供が生まれてからというもの、秒で激しく部屋が散らかるようになった。
 
私は年季が入ったズボラな性格ゆえ、ひとつひとつの家事をみればそんなに時間をかけてはいない。簡単に、時短で、健康的に暮らせればいいやくらいの感覚だ。
しかし、子供のこととなると話は別で「丁寧に」を心掛けなくとも時間がかかるし、エネルギーも消費する。
 
また、おちんちんだのおしりだの単純かつパワーのあるワードを放っては兄弟でゲラゲラと笑い転げている様子はまるで宇宙人を眺めているくらい理解不能だ。アホかと思いつつ、本人たちが楽しそうならまあいいかと半分諦めの境地である。そんな宇宙人相手の毎日の子育てはまさに手さぐり状態そのものだ。
 
ある時、二人を連れて買い物に行った帰り60代くらいのご婦人にニコニコと声を掛けられた。
「あら~、男の子ふたりいいわねぇ」
「はは、ありがとうございます」
「私も男の子二人育てたのよ」
男児二人の母親になってこんな事が何度もあった。
 
一般的に、女の子に比べ男の子は育てにくいとされている。
一姫二太郎という言葉にも表されているように、男の子は病気しやすく弱いという。それに加えて危険を顧みず活発に動いて親をヒヤヒヤさせるし、急に親の守備範囲からいなくなったりするので一緒に外を歩いている時なんかは気が抜けない。
 
この時も車の多い通りの歩道を二人の手を引いて歩いていたが、ふとした瞬間に手を振り払って走り出す事もあるのでなかなかの緊張感を携えていた。
きっと私の顔は要人を守るSPのような表情をしていただろう。
 
そんな時に優しく声を掛けてくれる育児の先輩方がいてくれることは本当に嬉しい。
そうだ、可愛い子供たちを育てている最中なんだと思い出させてくれる。
そして、もしかしたら二人羽織の後ろの黒子に振り回されるようなさまが可笑しくて懐かしくて声を掛けてくれたのかな、と思ったりもする。
 
さて今日も、元気いっぱいの子供たちに振り回される一日が始まろうとしている。
夫がスーツを着て仕事に行くように、私はクローゼットからエアの羽織を取り出して着た。
 
幼児期の大変な育児はきっと振り返ればあっという間だ。最近では、ある意味この尊い期間を二人羽織の前の人になりきってとことん振り回されてみようかなと思い始めている。コントロールしようとして出来なくてストレスを抱えるよりずっと健全な気がする。そして、振り回されているさまを自分自身が楽しめるようになったら勝ったも同然だ。
 
エアの羽織はそんな私の決意の表れなのだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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