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モノクロ写真が怖かった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:川口 公伸(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
昔の人は、「写真を撮ると、魂を吸い取られる」と思っていたという話を聞いたことがある。
実際にそんなことはないのだろうが、紙の中に自分の姿がはっきりと写ることからそんなふうに思われたのかもしれない。
僕自身、写真に対して怖いと思っていた時期がある。
何が怖いというものでは無かったが、ただ漠然とモノクロ写真が怖いと思っていた時期があった。
それは僕がカメラに興味を持って、一眼レフカメラを手に入れた少し後のことだった。
 
僕が一眼レフカメラを手に入れたのは今から20年以上前のこととなる。
その頃はまだフィルムが全盛で、デジタルカメラはまだ無かった。
だから僕が手に入れたカメラも当然フィルムカメラだった。
当時はフィルム自体もまだ安く、多分、今の値段の5分の1位の値段だったと思う。
だから大抵の場合は、5本パックや10本パックで買っていた。
1本のフィルムで撮れる枚数は36枚ほどで、最近のデジカメで撮るのとはだいぶ条件が違ってくる。
それでも、当時36枚撮りのフィルムを1本撮るのはかなり大変だったように思う。
当時は主に、風景写真を撮っていた。
もともと、自宅のある三浦半島から見える富士山を撮りたいと思ってカメラを手に入れたので、自然と風景写真を多く撮るようになった。
さらに、同じ頃に高校時代の友人や、職場の先輩もカメラを手にいれたため、一緒に写真を撮りに行くことも多かった。
そんな中で、ある時、職場の先輩から誘われてアラーキーこと荒木経惟さんの写真展を見に行くことがあった。
それまで写真展など行ったことのなかった僕にとって、かなり衝撃的だった。
荒木さんというと女性のヌード写真のイメージが強かった。
写真展には確かにそういう写真もあった。
しかし、目を引いたのはスナップ写真であったり、普通の人を撮った写真だったりした。
その写真はなんでもない街中を撮ったものや、近所のおばさんを撮ったようなもので、そのほとんどはモノクロ写真だった。
その時に僕を誘ってくれた先輩が教えてくれたのが「カメラをいつも持ち歩いて、いつでも写真を撮れるようにしておくことが大事なんだ」ということだった。
それは先輩が事前に読んでいた、荒木さんの本に書かれていたものらしい。
その後、「東京日和」という荒木さんの自伝的な映画を見ることがあり、その内容からもすっかり影響を受けてしまった。
映画では、荒木さんを竹中直人さんが演じ、奥さんの陽子さんを中山美穂さんが演じている。
映画の中では、竹中さんが写真を撮っている場面がよく描かれていた。
その中で今も覚えているのは、電車の中で正面に座っている人の写真をこっそり撮っていたら、ばれてしまい走って逃げる場面だ。
写真展の中で、きっと同じような状況で撮ったのではないかという写真を見たように思う。
 
それから僕は、流石にいつもカメラを持ち歩くということはなかったが、それでも旅行の時などは、風景だけでなく街中のスナップ写真を撮るようになった。
そして、スナップ写真だけでなくモノクロでも撮ってみようと思い、フィルムを買った。
その時も、当然のように1本ではなく10本くらいのパックで買った。
今のデジカメであれば、カメラの設定でカラーからモノクロに切り替えることもできる。
しかし、フィルムではそうはいかない。
一度撮り始めたら、1本撮り終えるまで変えることは出来ない。
そんなこともあり、初めは一眼レフではなく当時もう一つ持っていたコンパクトカメラにモノクロフィルムを入れて撮影をしてみた。
1本撮り終えた後に現像に出し、出来上がってきた写真を見た。
それは、いつも使っているカラーのフィルムとは大きく違った。
モノクロのフィルムなので当然色はない。
しかし、違いはそれだけとは感じられなかった。
当時、カラーの写真との大きな違いは温度が感じられなかったことかも知れない。
色がないだけで、その時間がくっきりと切り取られているように感じてしまったのだろう。
そして僕の中で、切り取られた時間は最近のものではなく遠い過去のような存在に感じられた。
それから僕は、モノクロ写真が怖くなってしまった。
なぜそうなったのかは分からない。
他の人が撮ったものであれば問題はなかった。
しかし、自分が撮ったものは駄目だった。
 
それから、フィルムは廃れていき、写真を撮ること自体が減っていった。
さらに、携帯電話でも写真が撮れるようになり、カメラを持ち出すことはほとんどなくなった。
 
それからしばらくして、ちょっとした気まぐれから、デジタルの一眼レフカメラを買った。
それでも、旅行の時に持って行くくらいで、写真を撮る目的で出かけるということは無かった。
 
そんな状況が変わったのは去年のこと。
 
7月の終わりに初めて湘南天狼院へと行く。
それまで、天狼院書店は小説家養成講座に興味を持ち、1日講座を受けたことがあった。
その天狼院書店が、地元とは言えないが比較的近い場所である湘南にできると言うことを知った。
出来たらすぐにでも行ってみようと思っていたが、仕事の都合などでなかなか行くことができずにいた。
それでも、やはり行ってみたいと思い、休日出勤の帰りに寄ってみた。
初めて訪れた湘南天狼院には、僕にとって興味深い本が並んでいた。
一通り本棚を眺めた僕に、もう一つ興味を引くものがあった。
それはお店の入り口付近にあった、講座やイベントを告知するビラだった。
その中に、初心者向けのフォトイベントの物もあった。
何かの気まぐれだったのかも知れない。
僕はそのイベントについて店長の山中さんから説明をしてもらい、参加することを決めた。
イベントは、街中のスナップ写真を撮るものだった。
初めて参加したイベントでは、カメラ任せでなく自分で設定をして撮影をするマニュアルモードで撮影をするように言われた。
それは、シャッターが切れるスピードや、レンズの絞りと呼ばれる明るさを調整する部分などを自分で設定しての撮影になる。
設定の仕方などは講師の山中さんが説明をしてくれた。
そのイベントでの撮影は、いつもよりもたくさんのことを考え、頭の中に汗をかくような感じの撮影となった。
そして、そのイベントをきっかけに、かつてフィルムで写真をとっていた時のことを思い出した。
僕がフィルムの時に使っていたカメラは、シャッターのスピードやレンズの絞り、ピントも手動で合わせなくてはならないカメラだった。
でも、それが面白くて使っていたことを思い出した。
それからも、湘南天狼院のフォトイベントに参加するようになった。
そうしているうちに、モノクロで撮ってみましょうと言うことがあった。
実際に撮ってみると、デジカメの設定で撮ったモノクロはフィルムの時よりも柔らかい感じがした。
「これなら大丈夫かもしれない」
そんなふうに思った。
その後も時々、モノクロの設定で写真を撮った。
それでも特に違和感を感じることはなくなっていた。
時間が経って、自分の受け止めかたが変わったのかも知れない。
当時のように怖いと言う思いは消えていた。
それから他のイベントにも参加するようになった。
そうして行くうちに、かつて使っていたカメラを引っ張り出してみようと思った。
パックで買ったまま使われなかったモノクロフィルムも家にあった。
実際に撮ってみると、ピントも自分で合わせなくてはならないもどかしさや、撮った写真をその場で確認できない不自由さはあったが、現像に出してから仕上がりを待つ楽しみは久しぶりに感じた。
そして仕上がってきた写真は、電子データで受け取った。
あの頃撮るのが大変だと思っていた36枚は、仕上がってみるとかなり少なく感じた。
そして時間が解決することは多いのだろう。
フィルムで撮った、モノクロ写真に対しても嫌な感じはなかった。
自分が歳を重ねたことによって、過去が増えたのもあるのだろう。
怖さは感じなかった。
そして、今はモノクロ写真の良さみたいなものも少しわかるようになったと思う。
あの時にモノクロ写真が怖いと思って、撮らずに残っていたフィルムによって今も写真が撮れている。
そして、その時間によってモノクロ写真を受け入れることができるようになった。
決して悪いことばかりでもないのだろう。
あの時怖かったモノクロ写真が今は意外と好きかも知れない。
そんなこともあるのだろう。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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