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もっともなりたくなかった職業から得たもの


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:庄子健一(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
通勤電車に揺られて会社に通う都内企業の営業マン。
これは学生のとき、ぼくが最もなりたくないと思っていた社会人像だ。
 
毎日毎日通勤電車にもみくちゃにされ、お客からの理不尽な要求に白でも黒と言い、下げたくない頭をひたすら下げる。
首都圏企業に勤務する営業マンというとこのイメージしかなかった。
だからぼくは研究職とか技術職とか、専門職に就きたかった。
しかし、当時は就職氷河期真っただ中。
理系修士とはいえ、さして優秀でもないぼくは希望していた企業の就職試験にことごとく落ちまくり、範囲も条件も広げていって、やっとこさ一社だけ受かった。
その結果、ぼくは当時最もなりたくないと思っていた「通勤電車に揺られて会社に通う都内企業の営業マン」になってしまった。
 
もちろん、完全にどうしようもなくてそうなったわけでもない。
どうしても技術職になりたかったらそちらに的を絞った方がよかっただろうけれど、営業職にも応募していたのにはそれなりに意図はあった。
 
来る日も来る日も研究室にこもって実験を続け、データ整理をし続けることに若干嫌気が指していて、友人たちと議論したりしている方が楽しかった、とか。
若いながら時代の流れとして、人とコミュニケーションする力も必要なのでは、なんて思っていたこと。従兄が研究職に就いていたが、不景気真っただ中でいつ他の職に飛ばされるかわからない、と常にぼやいていたことも少なからず影響している。
 
しかしながら実際に人と接することを生業とする営業職というのは、陰キャ根暗のぼくにはひたすらに苦痛だった。
お客さんのところに行っても気の利いた世間話なんてできないし、接待なんてもってのほか。ぼくは下戸だし、ゴルフもしない。
なにはなくともまずお客さんのところへ通え、と言われてノコノコ出向いても何にも話すことがない。話ができなければモノは売れず、成績も上がらない。
就職二年目で鬱になったのもある意味で必然だったと言える。
 
もっと理系の特性を生かす仕事をしたい、と思って転職活動をしたものの、前職のキャリアというものはやっぱりついて回るので、転職先でも営業職になり、その後そのキャリアは長く続いてくことになってしまう。
 
幸い、二社目は営業と言っても技術面を活用した「技術営業」という立場だった。
かなり分野が限定され、対面するお客さんの多くが技術者だった。ただモノを売るのが仕事ではなく、技術も含めたサービスを提供し、自分で簡単な試験もしたり、製品を使った結果について技術レポートを作ったりもする。定期的にお客さんのところへ行って、技術的な議論をし、課題に適した製品があれば売り込む。
 
この仕事は大変ではあったが、とても楽しくやりがいがあるものだった。
世間話は苦手だが、試験の結果や課題についてであれば話ができる。課題を解決するため、お客さんにより伝わるようにコミュニケーションする手法を学んだり、かといって会社に不利益にならないように交渉をする方法を学んだり、社内の他部署との調整に気を遣うようになった。
もちろん接待は大嫌いなままだし、ゴルフもやらないけれど、上司や同僚のサポートもあって結果が出せるようになり、ぼくは学生のころ思い描いてもいなかった営業職としてのキャリアを積んでいった。
 
それでも、ぼくは「営業」という仕事そのものが好きにはなれなかった。
企業の営業は、どうしても会社の売り上げをあげるために従事する側面がある。
本当は必要ないものでも売らないといけなかったり、気に食わないお客さんでも売り上げのための親密に付き合わなくてはならなかったり。時には接待したり、どうにか相手に気に入られるように動かなくてはいけない場面が出てくる。
確かにそれは必要なことなのだろうけれど、ぼくはそこにはどうしても馴染めないでいた。
 
そんなとき、ひょんなことから友人と「社会人を集めて人工衛星を作る」というプロジェクトを立ち上げることとなった。そのプロジェクトは会社でもなく、一からの立ち上げだ。
ぼく自身は人工衛星のことは全然わからないけれど、立ち上げメンバーにはエンジニアもいた。
そのエンジニアとぼくはどうにもウマが合わなかった。技術的な視点は大事だけれど、人の精神的なところに配慮せず、理論的なことばかり。細かいし、理屈臭いし、自分の理想ばっかりで社会がどう感じるかなどについてはほとんど考えていないように思えてしまう。
 
確かに技術的な知識や経験はずば抜けている。けれど、それを繰るのは人だ。何かをするには人と人とが協働し合って進めていく必要がある。そこには、人情があったり、妥協があったり、関係性や個々の思惑がある。でも彼らはそこにはあまり目を向けない。
 
もちろん、人にはそれぞれ得意なことや役割がある。ぼくには技術的なことはほとんどわからない。けれど、人と人との調整をしたり、ある程度人の心情や関係性に配慮して物事を進める方法は心得ている。
 
これは学生のころあこがれていた技術職ではなく、最もなりたくなかった営業職に就いてしまったことに起因する。
もしもぼくが学生のころにあこがれていた専門的な仕事に就いたら、特定の分野の知識や経験は身に着いただろうけれど、人と人との関係性や、人が集まった組織での振る舞いや、さらに多くの人が構成している社会というものにどうアプローチしていくか、といった部分に触れることはあっただろうか。
 
誰かとうまくコミュニケーションをとること、調整や交渉のスキル。
企業の営業だけではなく、場を作ったり、誰かと一緒に何かを始めるときの方法。
ぼくが知りたかった専門的な話は、その分野に詳しい人から聞いたり、引き出したりできる。そんなことをしている今は結構楽しい。
 
 
 
 
***
 
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2021-10-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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