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メディアグランプリ

豊かなルーマニア


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記事:mihana(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「お久しぶりです。お元気ですか?」
彼女から、1年ぶりにメールが届いた。
 
10年前、オーストリアのウィーンに留学していた時に知り合った、ルーマニア人の友人がいる。彼女は、ウィーンの大学で日本学を学んでいる学生で、よく放課後に遊びに行く仲だった。
 
「ルーマニアか……」
彼女に知り合うまで、どんな国なのか、考えてみたこともなかった。体操選手のコマネチや、ドラキュラ城などのイメージだろうか。
 
行ってみたいとお願いしてみたところ、彼女は快諾してくれた。こうして私は、夏休みに1週間、ルーマニアに行くことになった。
 
ルーマニアは、東南ヨーロッパ、バルカン半島北東部に位置しており、黒海にも面している。ヨーグルトで有名な、ブルガリアの北にある。
 
ウィーンから1時間半ほど飛行機に乗り、首都のブカレストに着いた。彼女は早めに帰省していて、空港で私を出迎えてくれた。
 
夏は東京と同じくらい暑く、35度を超える日も多い。オープントップバスに乗り、屋根のない2階で直射日光と戦いながら市内を観光していると、大きな門が見えた。
 
門は、パリの凱旋門を模して作られたものだった。ブカレストは、第二次世界大戦により街が破壊される以前、「バルカンの小パリ」と呼ばれるほど美しかったそうだ。今でも街の所々に、中世ヨーロッパの面影がある。
 
本格的な中世の街並みが楽しめるのは、ブラショフだ。カルパチア山脈で囲まれた、ルーマニア中部、ラテン語で「森の彼方の国」という意味を持つ、トランシルヴァニア地方にある。
 
落ち着いたパステルカラーのドイツ式の建物が多く、絵本から飛び出してきたような街だ。地方最大で、65メートルもの高さがある後期ゴシック教会「黒の教会」が、街の中心に、荘厳な雰囲気でそびえ立っている。
 
「ブラショフの街並みが一望できるよ」
彼女に勧められて、標高865メートルのトゥンパ山に、ロープウェイで登った。頂上から見える景色は、圧巻だ。ブラショフの建物の屋根は赤茶色で統一されていて、その向こう側には黄緑色の、のどかな田園風景が広がっている。更に奥には、カルパチアの山々が連なり、青い空へと繋がっていく。何層にもなっていて、ミルフィーユのようだった。
 
中世の街並みも素敵だが、ルーマニアは海も魅力的だ。
 
彼女の実家がある、黒海沿いの街コンスタンツァは、港町なので新鮮な魚料理が楽しめる。チョルバ・デ・ペシュテという、魚でだしをとったスープは、とても美味しかった。店で魚を買い、彼女の実家で料理をして、ルーマニア産のワインと一緒に味わったりもした。
 
コンスタンツァから少し離れると、ママイアというビーチリゾートもある。私は滅多に泳がないが、せっかくの機会なので、水着を調達して、海に入ることにした。
 
水の透明度が高く、白い砂が透けて見える。水面は、日の光を受けて、宝石のように輝いている。同じ青なのに、海の濃いブルーと空の薄いブルーがはっきりと分かれていて、いつまでも見ていたいと思うほど美しかった。
 
観光船やバナナボートに乗ったり、海で泳いだりしているうちに、あっという間に時は過ぎた。タオルを持っていなかったので、彼女と2人で、赤い日が沈みかけたビーチを走って、体を乾かした。この夕焼けを、二度と忘れたくないと思った。
 
街や海に加えて、カルパチア山脈に囲まれた雄大な自然も見逃せない。
 
山奥に彼女のおばあちゃんの別荘があり、3日間滞在したのだが、そこはまさに、アルプスの少女ハイジの世界だった。見渡す限り、緑の草原や木々が広がり、その奥には、山が果てしなく重なり合っている。少し離れたところを、羊や牛の大群が横切っていくのも見えた。
 
ルーマニアは、ラテン民族の血を引いていて、初対面でもすぐに打ち解けるそうだ。また、親日家が多いとも言われている。そんな国民性からなのか、ご近所のバーベキューに、日本人旅行者の私も、参加させていただけることになった。
 
私はそこで、生まれて初めて、串刺しになった豚を見た。その日殺したばかりの豚だそうで、バーベキューで食べるというのだ。他にも、牛や馬や羊、鶏などの家畜を飼っているそうで、見せてくれた。山奥に住む人々は、自然と共に生きていた。
 
帰る頃には、辺りは真っ暗になっていた。空を見上げると、白と黄色の星が、眩しいくらいにキラキラしている。周囲の明かりがないと、これほどまでに星は輝くものなのだと、感動を覚えた。
 
最終日の朝、街へ戻るバスに乗るため、早起きをした。おばあちゃんに別れを告げて、外で待っていると、幼稚園のスクールバスくらいの大きさの、古く汚れたバスが、目の前に停車した。
 
乗り込んで、はっとした。乗客が来ている服は、あまりきれいとはいえないものだった。一様にうつむき加減で、窓の外を眺めている。これは、街に出稼ぎに出るために、山奥で暮らす人々が乗るバスだったのだ。
 
ルーマニアには、経済的に貧しい人も多い。レストランや電車の中で、花を売りに来る少年・少女を、1週間の旅の中で、私は何度も見かけた。
 
ただ豊かさとは、経済的な指標だけで測れるものではない。中世の雰囲気を残した町並み、青く輝く黒海。山奥の雄大な自然、そして温かく迎えてくれたルーマニアの人々。私が1週間、見て、触れたルーマニアは、実に豊かであった。
 
「またルーマニアに行きたいな」
彼女からのメールを見ながら、私はそんなことを考えた。
 
~参考文献~
『ルーマニアを知るための60章』(明石書店) 編著者:六鹿茂夫
『ルーマニアマニア』(書肆侃侃房) 著者:三尾章子
『地球の歩き方A28 ブルガリア・ルーマニア 2019~2020年版』
(ダイヤモンド社/ダイヤモンド・ビック社) 著作編集:「地球の歩き方」編集室
 
 
 
 
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2021-10-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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