メディアグランプリ

ひたいに貼り付いている、私がこの家の子であるという証


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記事:レイ咖(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「あー! もう! 決まらない!」思い通りにならなくて、イライラしていた。自分がどうしても気に入らない、眉毛をどうにかしたい。メイクレッスンを受講して、なだらかな眉の描き方を習った。先生の言っている通りにやっているはずなのに、どうしてもうまくいかない。イライラしながら、眉毛を睨む。
睨み続けた後、でもまあいいか……と思うのは、父との血のつながりを感じるからだ。
 
保育園で働く私の日常は、過酷だ。こどもたちと、思いっきり遊ぶ、食事を食べさせる、寝ている間に部屋の掃除をする……例えではなく、本当に息つく暇がない。
ただ、唯一この仕事をしていて気が楽だ。と思えるのは、毎日しっかり化粧をしなくてはいけない、というプレッシャーがないことだ。派手な化粧より、すっぴんに近いメイクの方が印象がいい。就職してからというもの、眉を描く程度のことしかしていない。
ただ、毎朝眉を描くたびに嫌になる。黒々としていて、びっしりと生えている自分の眉。あまりにもしっかりしている眉は、ガンコおやじみたいで本当に嫌だ。毛量を減らしても、すぐに戻る。眉山が飛び出して、とんがっている。なだらかにしようと、自分でカットすると、切っている間に、どうしていいのか分からなくなり、取り返しがつかなくなることもあった。
 
形にこだわりたいのだが、毎朝化粧にたっぷり掛けられる時間はない。朝食を食べて、エプロンを着ける。リュックを背負う。よし! と先生モードに自分を切り替える。
バタバタと身支度をしている私の横で、父は、肌着に短パン姿で、ゴロゴロとニュースを見ている。「いってきます」一応声を掛けると、「あー……」と気だるい返事が返ってきた。
すごく嫌いでもないし、かと言って好きでもない。父とは微妙な距離感がある。
 
仕事を終え、ぐったりして、帰宅すると、父は相変わらず同じ場所でゴロゴロしていた。今日1回も動いていないのか? と思うほど全く同じポーズで。疲れと、呆れを感じながら、両親と夕飯を食べ、風呂場に行く。今朝描いた眉はほとんど落ちているのに、真っ黒でたくましい。どうすれば、先生の言うような女性らしいふんわり眉になるんだろうか……と、げんなりして風呂に入った。
 
自分の部屋に戻り、息をつくと、ふと飾ってあった写真に目が止まった。いつもは気にならない写真。1歳になった私を両親が囲んでいる。母は、62歳になった今とほとんど変わらない。母は年齢より若く見られることが多く、かわいらしい人だ。
母とは反対に、父はあまりにも太った。顔つきこそ変わらないが、横幅は2倍くらいになったんじゃないかと思う。時間の流れを感じながら、じーっと写真を見つめた。
ん!? 父のある部分に目が止まった。いつも私が気にしている眉。黒々していて、太い。眉山がとんがって、たくましい。私が嫌で仕方ない眉そのものだ。
 
私の眉毛、お父さんと一緒だ……。父の遺伝子は確実に私に伝わっていた。肌着からはみ出しそうなぼてっとした腹で、ごろごろしている父。あんな風にはなりたくない。といつも思っているのに。私には、あの父の要素が組み込まれているのか……。
 
毎日一緒にいると、自分がこの家族である、両親がいるからこそ生まれてきたということを実感することはほとんどない。親がいるありがたみなど、改めて感じることはなく、ゴロゴロ、ダラダラしている姿が嫌になるだけだ。
写真をもう一度見返す。父は、母と私の肩をギュッと抱いて笑っている。たくましい眉はへなっと下がって、穏やかだ。
 
父と同じ私の眉は、父と自分がつながっている、家族である証拠だと思った。
写真に映っている、とても、うれしそうな表情をしている父。
普段はゴロゴロして、だらしなくて、話しかけられるのが面倒くさい。
だけど、TVを見ながら、共通の話題を探そうと「ここ名古屋でうまい店か?」と話しかけようとする。適齢期の私に、いい男性がいないか心配なようで、母から「あいつに、いい男いないのか? ってお父さん言ってたよ」と探りを入れていることを聞く。
普段改めて考えることはないのだけど、不器用な父なりに、私に愛情を注いでくれているのだと感じた。
 
また朝が来た。いつも通り起きて、眉毛を描き始める。毎日見慣れた自分の眉は、いつも通り黒々して、とんがっている。ほんとたくましいよな……と思う。
でも、今日はいつもと違うきもちで鏡に映る眉毛を見ていた。
 
女性らしい、繊細な眉への憧れはなくならない。
だけど、父から譲り受けたたくましい眉もいいのかもしれない。と気に入っている自分がいる。
 
 
 
 
***
 
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2021-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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